オレの内心と引き金

遠藤良二

オレの内心と引き金

 オレは既婚の女性を好きになってしまった。女性の名前は、竹田智たけだともという。25歳。外見は、胸が大きく黒髪。身長は見た目では標準の150センチくらいで体重は分からない。太ってもいないし、痩せてもいない。家族は旦那と2人で暮らしているようだ。本人から聞いた話に寄ると夫婦仲はあまり良くないらしい。職業は病院の事務をしている。趣味は釣りだという。


 智ちゃんと旦那の夫婦仲が良くないのであれば、オレにもチャンスがあるかもしれないと思った。


 オレは田下謙介たしたけんすけ、30歳。外見は茶色のロングヘア―でオールバックにしている。高身長の190センチくらい。体重は80キロで痩せている。家族は父親と弟がいて、同居している。俺は同居はしていない。職業はディーラーの営業をしている。趣味はロックを聴くこと。智ちゃんもオレも北海道に住んでいる。将来的には、既婚者ではあるが、智ちゃんと交際したい。そして、結婚したい。


 智ちゃんと知り合ったのは、オレが毎日のように飲み物や弁当などを智ちゃんが働いているスーパーマーケットに買い物に行っている内に彼女のことを好きになった。


 好きになったら負け、という言葉を聞いたことがある。確かにそうかもしれない。好きな人から何か頼まれたら断りたくないし。その内容にも寄るけれど。でも、やっぱり役に立ちたいと思ってしまう。悪い事ではないし。好きな人の為だから……。


 今日も仕事帰りに智ちゃんが勤務しているスーパーマーケットに寄り、レジ担当の彼女のところで会計をしてもらった。

「こんばんは!」

 オレはいつものように、元気に挨拶した。店内は空いている。

「あら、謙介さん。こんにちは! いらっしゃいませ」

「相変わらず頑張っているね! 偉いわ」

「いや、そんなことないよ。皆やってることよ。今日はお弁当なんですね」

 いつもはビールや酎ハイにおかずを買っているので珍しいのだろう。

「そう! ビールは家にまだあるからね」

 感心しているような顔でオレを見ている。

「お酒の量、減らしたんですか?」

 痛いところを突かれた。

「それがさ、お腹壊しちゃって」

 驚いたようにオレを見ている。

「大丈夫ですか?」

「もう大丈夫だよ」

 と得意気に言った。

「それなら良かった」

 智ちゃんの表情は笑顔になった。優しくて明るい子だ、と思った。こんないい子はなかなかいない。オレの彼女にしたい、と強く思った。


「ねえ、智ちゃん! 連絡先交換しよう?」

 思い切って言ってみた。すると、

「すみません、今は仕事中なので……」

 気まずそうにしていた。断られてしまった、残念。また、機会を見付けて訊いてみよう。でも、仕事中というのは確かにそうだけれど、教える気がないからそう言ったのかもしれない。これはネガティブは発想だろうか?


「ごめんね」

 オレは一応、謝った。

「いえいえ、謝らないで下さい」

 オレは黙っていた。

「会計いいですか?」

 営業スマイルというやつだろうか、明らかに作り笑いとわかるそれを浮かべながら言った。

「あっ、忘れてた」

 言いながら財布から千円を1枚抜き取り、智ちゃんに渡した。


 彼女の連絡先を訊くのはもっと仲良くなってからにしよう。智ちゃんがオレに敬語を使わないで話せるようになるまで。なので、言った。

「智ちゃん、オレに敬語遣わなくていいよ」

 すると、

「いや、それは分かってるんですけど、お客さんなので」

 と言った。

「なるほどね! オレ、てっきり距離を置かれているのかと思ったよ」

 オレは苦笑いを浮かべた。

「そんなことはないですよ」

 彼女も笑みを浮かべた。お客さんが少ないので、

「もう少し喋ってていい?」

「いいですよ」

 そう言ってもらえて嬉しくなった。

「智ちゃんの趣味って何?」

 質問すると、今度は営業スマイルではなさそうな笑みを浮かべてくれた。

「アタシ、釣りが好きなんですよ」

 意外だな、と思った。

「釣り! へー! 川? それとも海?」

「両方です」

 オレは関心した。

「オレはロックを聴くのが好きなんだけど、釣りも覚えたいなー」

「本当ですか? 一緒に釣りしますか?」

 好きなことを話している智ちゃんは生きいきとしているように見える。これは「好き」という気持ちもあるけれど、「憧れ」という気持ちもある。智ちゃんはどう思っているだろう? まあ、嫌ってはいないと思うが。

「一緒にしたいな、教えてよ?」

「いいですよ。ワタシ、8時まで仕事なのでその後で良ければ連絡先交換しますか?」

 意外な展開にオレは嬉しさを隠しきれなかった。満面の笑みで、

「是非! 8時頃また来るね!」

「わかりました」

 そう言ってオレは手を振りながら店を後にした。


 めっちゃ嬉しい! まさか、智ちゃんの方から連絡先交換の話をしてくれるなんて! これを機にもっと仲良くなれたらいいな!


 自宅アパートに着いた頃にスマホが鳴った。誰だ? と思って見ると弟の田下優紀たしたゆうきから。どうしたのだろう? 連絡を寄越すなんて珍しい。出てみた。

『兄貴!? 親父が……親父が……』

「どうしたんだよ! 落ち着け!」

『仕事中、天上クレーンを操縦していて、コンクリートを吸い上げようとしてたらコンクリートが頭の上に途中で落ちて来て怪我したらしいんだ。何故か僕に連絡が来ていて、でも僕遅番でさっき電話に気付いたのさ。留守番電話にその事が録音されていて今、親父が入院してる病院にいるんだ。兄貴、今から町立病院に来れない? 僕1人じゃ不安で……』

 そういう事情ならと思い、

「少し遅れるけど、8時半過ぎには行けると思う」

『わかった! 早く来てくれー』

 それで電話を切った。


 スマホに表示されているのは19:45。オレは智ちゃんの務めるスーパーマーケットに車で向かった。到着したのは19:50頃。約5分で着いた。でも、智ちゃんは20時をにならないと出て来ない。因みにこのスーパーマーケットは23時まで営業している。


 少し待って、20時になった。オレは店内をうろつきながらレジにいる智ちゃんのところに向かった。オレの存在に気付いたようで、

「あっ、謙介さん! お待たせ! 一旦、外出よう?」

 オレは促されるまま外に出た。そして、

「LINEでいいよね?」

 彼女は積極的だ。旦那とは上手くいっていないというからオレに乗り換えようとしているのか? それはそれで嬉しい。

 QRコードでLINEを交換した。

「旦那さんのいない時間帯っていつ?」

「昼間はいないよ。て言うか、友達とご飯食べてから帰ると言えば大丈夫だよ」

「バレない?」

 オレは少し不安になった。もし、バレたら智ちゃんが怒られるかと思ったから訊いた。

「バレたっていいもん。あんな浮気男」

「そうなんだ、あっ、話すの今度でもいい? 急用入っちゃって。ごめん」

 彼女は残念そうな表情になったように見えた。残念がってくれるのは逆に嬉しい。

「親父が仕事で怪我したみたいで入院したらしいんだ。だから、落ち着いたらLINEするよ」

「わかった!」

 店外ではため口なので良かった。


 智ちゃんは結婚しているけれど、これはもしかしたらもしかするぞ。まあ、まだ連絡先を交換しただけなので、実際、遊んでみないと分からない。

きっと、いい子だとは思うけれど。


「とりあえず、お疲れ様! またね」

 オレがそう言うと、

「またね!」

 と言いながら笑顔で手を振っていた。可愛い。


 その後、オレの青い乗用車で町立病院に向かった。弟の優紀に連絡がいったのは同居しているからだろう。でも、保険証で電話番号も分かるだろうか? まあ、いい。親父が助かったみたいだから結果オーライだ。


 病院に着き駐車場に車を停めた。周りには車は数える程しかなかった。救急外来の入口はどこか探した。救急車が停まっているのであの辺にあるだろう。駐車場から見て向かって右側にそれらしき出入口があるようだ。行ってみるとやはり入口があった。入ってみると通路の右側に守衛がいた。オレは声を掛けた。

「こんばんは」

「そこの紙に名前や住所などを書く欄があるので書いてください」

 オレは言われた通りに記入した。

「書きましたよ」

「じゃあ、事務に行ってどこの部屋か訊いてもらえますか? ここでは分からないので」

「わかりました」

 町立病院には何度かかかったことがある。風邪を引いてしまって。だから事務の場所も知っている。


 事務に来てオレは、

「あのう、田下大介の見舞いにきたんですが……。救急車で運ばれて入院したと聞いたので」

「息子さんですか?」

「はい、そうです」

「えーと、205号室です。9時半消灯で面会は9時までなのであまり時間もないですが」

「わかりました」

 事務員とのやり取りは実に事務的だ。


 205号室に行って部屋に入った。4人部屋で親父は右側の手前に横になっていた。何を考えているのだろう、親父は天上を見詰めている。

「父さん」

 親父はゆっくりとこちらを向いた。

「おお、謙介。こんな時間に来てくれたのか」

 と言った。

 少し元気が無い様子。大丈夫なのだろうか。

「怪我したって聞いたけど頭ぶったのか?」

「そうだ、でもヘルメットしてたから大丈夫だ。少し入院したら良くなると思う」

「それなら良いけどさ」

「面会9時までだろ?」

「うん、そうみたいだな」

 オレはスマホを見た。20:50と表示されている。

「あと10分しかない」

「そうか、気を付けて帰れよ」

「うん、じゃあな。退院決まったら連絡くれ? 手続きにくるから。あっ、既に入院してるけど、その手続きも必要でしょ?」

「多分な」

「明日、病院に電話してどうすればいいか訊くわ」

「悪いな、宜しく頼むわ」

 それからオレは帰宅した。


 そういえば、弟の優紀のの姿は無かったな。どこに行ったのだろう。親父も何も言ってなかったし。外見はオレより身長は低い筈で、確か170センチくらいだと思う。オレと同じく細身で、黒の短髪。職業は今は求職中だけれど、彼女はいるようだ。昔はよく一緒に映画を観に行ったな。奴は現在は彼女と映画館に行っているだろう。羨ましい! 


 オレも智ちゃんを誘って映画観に行こうかな。彼女はどんな映画が好きなんだろう? オレはアクションやSFが好き。


 今は22時前。智ちゃんにLINEを送ってみよう。でも、どうだろう? 迷惑な時間帯だろうか? そもそも、彼女は親と同居だろうか、それとも夫婦2人だけで生活しているのかな? それにも寄るから訊いてみよう。もし、迷惑な時間帯なら言ってくるだろう、多分。

<こんばんは! 今日は有難う。LINE交換出来て嬉しかった。智ちゃんは映画好き?>

 LINEは30分くらいしてから来た。忙しいのかな?

<こんばんは。こちらこそ有難う! 映画はあんまり観ないかな、ごめんね>

<残念。智ちゃんの好きな事って何?>

 オレはすぐに返信をした。智ちゃんもすぐに返してくれた。

<好きな事か、小説が好きかな。読む方ね。高校生の頃は書いたりもしてたんだけど、段々読んでる方が楽しくなっちゃってね>

<書いてたんだ、すげー!>

 オレは嘘偽りなく感心した。

<いやいや、凄くないよ。好きで書いてただけだし、書くのやめちゃったから>

 謙虚なところも良い。いやぁ、何て良い子なんだ。こういう子いるんだ。続け様に、

<ごめん、旦那がもう寝るぞって言うからまた今度LINEしよう?>

<そうか、残念だけどわかった。またね>


 最後のオレからのLINEに既読が付いたのは、翌日の朝のことだった。

 ようやくか、と思った。この恋は実るのだろうか。やはり旦那のいる女性と交際するのは無理なのではないだろうか。俗に言う『不倫』という奴だし。もし、付き合うとなったらお互いの気持ちが寄り添うと言うことだし、旦那との関係も考えなくてはならない。今現在、智ちゃんは旦那と別れようという気持ちはあるのだろうか。もし、そういう気持ちが無く、オレと遊ぶだけの関係なら、もう会わない方が良いと思っている。でも、焦ってはいけない。たかがLINEを交換して少し会話をしただけじゃないか。諦めるのだってまだ早いと思った。


 翌日になり、親父の入院の手続きをしなければならない。数枚の書類に書き入れて、連帯保証人も2人いるようだ。それは、オレと弟の優紀でいいだろう。一応、優紀に訊いてはみる。駄目とは言わないだろう。なのでLINEを送った。

<おはよう、明日オレ昼休みに親父の入院の書類を病院に持っていくから連帯保証人になってくれるだろ?>

 優紀は現在無職だから暇してるだろう。返信はすぐに来た。

<ああ、良いけど僕無職だぞ? それでもいいのか?>

 無職、どうなんだろう? まあいいや、そう思い、

<とりあえず書いて出してみるわ。駄目なら何か言ってくるだろう.。ハンコ押してくれ>

<わかった、仕事終わったら連絡くれないか? それから兄貴のアパートに行くわ>

 その後オレは仕事に行く支度をし、出勤した。


 オレは自動車のディーラーの営業を担当している。風の噂では、オレが勤務する会社の車はすぐに壊れる、と言いふらしている奴がいるらしい。全く、迷惑な話だ。営業妨害にあたる。見付け次第、すぐに警察に連行する。今のところ極端に売り上げが落ちている訳ではないが、2~3カ月前よりは落ちてきている。それが悪い噂と結びつくかどうかは分からないが。でも、その可能性はある。


 18時過ぎにオレは仕事を終え、優紀にLINEした。返事はすぐに来た。

<コンビニで弁当買うから、兄貴の家で食べていいか?>

 何だ、寂しいのかと思いつつ、

<ああ、いいよ>

 と送った。


 30分くらいして家のチャイムが鳴った。優紀だろう。玄関に行って、

「はい」

 と言うと、

「僕だけど」

 やはり優紀だ。ドアを開けてやると、

「オッス!」

 と人懐っこい笑顔でオレを見ている。

「おお、ハンコ押してくれ。名前と住所は書いたから」

「わかった」

 優紀を家に上げ、

「これなんだわ」

 書類を見せた。

「書くとこ沢山あったんだな。で、ハンコを押すところは……あっ、あった」

 朱肉を用意し、押してもらった。オレは、

「今日、親父の所に行ったのか?」

 訊くと、

「いや、行ってないよ。洗濯は病院でするのかな?」

「多分な」

「きっと、100円玉が必要になるとは思うけど、事務で崩せるだろ」

「そもそも親父、お金持ってるのかな?」

「うーん、工場から救急車で運ばれたからな。でも、貴重品の入った鞄は持っていってると思うけど」

「じゃあ、大丈夫か」


 優紀は細かい所に気付く。なかなかやるな。オレは気付かなかったことだったから。きっと神経が細やかで繊細なのだろう。


 智ちゃんとの釣りはいつになるだろう? と思ったので、LINEを送った。

<こんばんは! オレは仕事を終えたよ。30分残業したけど。釣りはいつ行くの?>

 時刻は20時を過ぎていた。未だ返信が来ない。どうしたのかな。そう思っていたらLINEが来た。智ちゃんから。オレは一気にテンションが上がった。来た! 本文は、

<寒いのは嫌かな? 冬に港でチカ釣りしてるよ。今は秋だからもう少ししたらチカ釣りのシーズンだね>

 正直、寒いのは嫌だ。でも、智ちゃんと交流を深める為には行くべきだと思った。

<そうなんだ。行きたい。何を用意したらいいかな?>

<今度、一緒に釣具店に行く?>

<うん、行く! よろしくね。因みにいくら位持って行ったらいい?>

 少し時間が空き、返信が来た。

<最初だから安い物で良いと思うんだよね。だから少し余裕を持って1万円くらいかな>

<わかった。オレは火曜日休みなのさ。智ちゃんは?> 

 また間が空いた。なんでだろう? 考えているのか?

<今、トイレにいる。旦那に誰とLINEしてるんだって言われてさ>

 マジか! 智ちゃんはどう対処するつもりなのだろう。

<何て答えたの?>

 オレは内心バレれば良いのに、そして僕の家に来れば良いのにと思った。

<友達とだよ、と答えた。アタシは前にも言ったけど、旦那とは上手くいってないから、バレても良いんだけどね>

 確かに前にも言ってたな。でも、オレが家庭を壊す引き金になるのはどうなんだろう。智ちゃんが良いと言っているけれど、若干の罪悪感はあるかもしれない。でも、そんなことを思っていたらオレに幸せはやって来ない。いくら不倫とはいえ。


 バラしちゃえよ、と言えたらどんなに楽だろう。それは、いくら人のこととはいえ、無責任な発言だ。


 いろいろ考えている内に、LINEのやり取りが止まっていた。きっと、オレからのLINEをトイレの中で待っているかもしれない。あまり待たすとまた旦那がうるさいだろう。なので、1通、LINEを送った。内容は、

<今時期釣れる魚って何?>

 というもの。すると、すぐに返事が来た。

<鮭かな。でも、初心者に鮭を釣るのは難しいかもね。アタシでさえ、引きが強いから苦戦するのに。チカは年がら年中釣れる回遊魚だよ。その代わり魚のサイズは大きいから、天ぷらには出来ないけど>

 そうなんだ、と思い、返事を返した。

<天ぷらに出来なかったら、食べる方法は焼く、かな?>

 それきりLINEは返って来なかった。旦那に怒られているのかな。


「別れてオレのところに来い」

 と言おうかな。さすがにまずいかな。まあ、深い関係になったら言うか。

 まずは一緒に釣りに行く事だな。釣りの後は何をしよう。食事にでも行きたいな。何を食べよう。オレは1人で想像を膨らませていた。果たして想像通りになるだろうか。


 智ちゃんをオレのものにしたい、という気持ちが強くなってきている。いろいろなことを想像するとそう思う。


 翌日。オレは夕方6時頃に智ちゃんにLINEを送った。

<次いつ休み?>

 LINEは暫く返ってこない。夕食の準備でもしているのか。それならいいが、まさか読むのを無視していないだろうな。約2時間経った今も既読が付かない。一体どうしたのだろう。

 更に約1時間が経過した夜9時。LINEの着信音が鳴った。画面を見ると、竹田智と表示されている。やっと来た、と思いすぐに開いた。

<今から謙介さんの家に行ってもいい? 旦那と喧嘩しちゃって>

 勿論だ! 願っても無かったこと。なので、

<うん、いいよ。川沿いのコンビニで待ち合わせしよう?>

<わかった。今から行くね>

<うん、じゃあ後程>


 オレは家の中が散らかっていたので、軽く片付けた。そして、ダメージジーンズを履き青いシャツに着替え、その上からグレーのパーカーを羽織って財布と鍵を持って家を出た。青い乗用車に乗り、発進した。オレを青色が好きだ。爽やかな感じがするから。

 5分位走って待ち合わせのコンビニに着いた。辺りは暗く、コンビニの照明だけが煌々と光っていた。

 周りを見渡したが、智ちゃんらしき姿はまだなかった。

 少し待っていると、隣に白い軽自動車がやって来た。車内を見ると、この姿は智ちゃん。オレは嬉しくなった。じっと見詰めていると、視線に気付いたのかこちらを見た。彼女も笑みを浮かべ、手を振っている。かわいい。オレは車から降り、彼女の運転席のドアの前に立った。すると窓が開いた。

「こんばんは!」

 智ちゃんの笑顔が眩しい。

「こんばんは。オレの後に着いて来てくれ」

「うん!」

 智ちゃんは元気だ。そこも魅力的。


 車はオレの横に停めてもらった。本当は1台だけしか停めちゃいけないのだが、隣の住人は居ないので停めた。


「一応片付けたけど、散らかってるから」

 オレは言った。

「そうなんだ。でも、それ位の方が男って感じがしていいじゃん!」

 智ちゃんは理解のある女性だと思った。

「そう言って貰えると助かるよ。ありがとう」

 オレはアパートの鍵を開けて、智ちゃんを家の中へと促した。

「綺麗じゃない!」

 智ちゃんは歓喜した。

「これでも片付けたんだ」

 胸を張ってオレは言った。

「これだけ片してあれば十分だよ。まあ、アタシの方からお邪魔したいと言ったから、偉そうな事は言えないけどね」

 それは違うと思ったので、

「いや、全然偉そうじゃないよ」

「そう? なら、良かった!」

 活発で明るい感じがして、家の中も明るくなった。なんせ、女っ気がない家だから。

 オレは質問をした。

「旦那とは何で喧嘩したの?」

 智ちゃんの表情に少し暗い影が見えた。

「あっ、言いたく無ければ言わなくていいよ」

 彼女はオレに一瞥をくれた。そして、

「別に話してもいいけど、謙介さんが気分を害さないか心配で」

 どんな話だろう? と思ったので、

「聞いてみないとわからないよ」

 と言った。

「じゃあ、言うね。さっきの謙介さんとのLINEの事で、他に好きな奴でもできたか!? と言われて頭に来てね。自分だって浮気したことあるくせに。それで言い合いになったの」

「なるほどね。気分害してないよ」

 本人が言うように夫婦仲は上手くいっていないようだ。このまま別れたらいいのに。それはまだ言ってないけれど。そして突如、

「無理ならいいけど今夜泊まらせてくれない? 家に帰りたくないの……」

「うん、いいよ!」

 オレは即答した。オレはベッドでいつも寝ている。なので、

「布団敷いておくね」

「あっ! ありがとう! 優しい。旦那とは大違い」

 これは良い流れだ。この調子でいけばオレの彼女になるかもしれない。まだ、分からないが。


「シャワー浴びるなら使っていいよ。それとも湯舟に浸かりたい? 浸かりたいならお湯張るけど」

 オレは若干だが、やましい気持ちはある。でも、こちらからは手を出さないと決めている。信用してもらわないと。いくら、智ちゃんの方から泊まらせて欲しい、と言って来たにせよ。そんな簡単に肉体関係を持っちゃだめだ。

「ありがとう! シャワーでいいよ」

 智ちゃんは笑みを浮かべている。嬉しそうだ。彼女の表情を見ているとオレも嬉しくなった。

「じゃあ、シャワー借りるよ?」

「うん、どうぞ!」

 その場を去ろうとした時、

「覗いていいからね!」

 意外な一言だと思った。普通なら、

「覗かないでね!」

 という所なのに。オレは思わず苦笑した。なので、

「見ないよ。見たいけど」

 冗談で言ったつもりが本気に取られたのだろうか。

「アタシ、最近、ご無沙汰でさ……。嫌じゃなければ……抱いて?」

 オレは思わず吹き出してしまった。マジで? オレで本当にいいのか? そう伝えると、

「マジだよ、謙介さんがいいの」

 智ちゃんの瞳は潤んでいた。か、かわいい……。本気でそう思った。この際だから言おう。

「智ちゃん、オレ、智ちゃんのことが……好きなんだ。結婚してるのも知ってる。でも、もう我慢出来ない。不倫でも何でも構わないからオレと付き合ってくれ!」

 オレは一気に言った。

「やっと言ってくれたね。待ってたんだから」

「そうなの?」

 智ちゃんは目線を外して頷いた。何となく恥ずかしそうにしている。

「アタシも謙介さんと付き合いたい! 不倫だけど。でも、旦那とは別れるつもり。すぐには難しいけど」


 こうしてオレ達はようやく付き合うことになった。これから先どんな苦難が待っているか分からないが出来る限りのことはしてきたいと思っている。2人の幸せの為に。上手くいくか分からないが。


                              (終) 


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オレの内心と引き金 遠藤良二 @endoryoji

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