第6話 悩みー具現化とお姉さんの解決法
私は、ずっと悩んでいた。お姉さんにあったその時も、今も。でもその悩みは自分の中で大きいのはわかるが、その形は定まっていなかった。
漠然とした不安がある訳ではない。生きることに希望を持てないわけではない。ただ私の中で形が定まらないそれは、言語化することも難しい言わば自由に形を変えるモヤのような形で存在していた。
私は言語化しようとして、そのモヤと向き合う。ああでもない、こうでもないとどうにかそのモヤの形に名前をつけようとするが、明確にはできなかった。
いつまでもお姉さんを待たせるわけにはいかないから、なんとか形がわかる部分だけ無理やり言語化して、今自分の気分を落ち込ませる原因を初めて言葉にする。
「私は、自分の中にある何かを形にしたいんだと思います。でも、できない」
「うん。何を形にしたいの?」
「それがどうしても分からないんです。自分の中に明確に形にしたいものはありません。それでも何かを作りたい。なにか目に見える形にしたいんです。そこまでは分かってるんですけど・・・・・・」
何かを作りたいけど、何を作ればいいか分からない。
「なんていうか、ええと、やり方が分からないって言えばいいのでしょうか。表現する方法はいくらでもあるじゃないですか。その無限とも言える選択肢の中から選ぶことができないんです。しっくりくるものが一つもなくて」
何かで表現したいけど、何で表現すればいいか分からない。
それでも分からないものだらけの中で、何かを表現して形あるものを作りたいという気持ちだけは消えなかった。
「何かを作りたいけど、何をどうやって作ればいいか分からないってことね。それでずっと悩んでたんだ」
「はい」
「難しい問題よね。きっとお嬢ちゃんは自らの意志で何かを作りたいって思ったのが初めてだったんじゃないかな?」
「なんで分かったんですか」
悩んで、悩んで、自分の中に出現した時よりも複雑に絡み合って、増大して、余計に形の分からなくなったモヤの一部に名前が与えられた気がした。いや、名前を思い出したという方が正しいだろうか。
「私もそうだったから。自分の中で何か爆発しそうなくらい大きなものがあって、その対処方法が分からなかったわ」
「お姉さんはどうやってそれを解消したんですか?」
「私は体を動かすのが好きだったから、とりあえずランニングしたわ。運動するとスッキリするっていうでしょ。でも、何か違った。不完全燃焼感が嫌ってほどまとわりついてきた」
——今の私とどこか似ている。
自分の中に燻る思いを理解しきれなくて、いてもたっても居られなくて早朝の散歩に繰り出した。歩けば少しはスッキリすると思っていたのだ。けれど現実はそうもいかなかった。
歩いても消えない、にえ切らない感覚。自分の中に居座るのは何かを作りたいという気持ちだけ。体を動かすことでは解消することはできなかった。
「私はね、自分ができる表現方法の中から一つ選んだの。それがダンスだったわ。小さい頃から高校生の部活までやっていたのを思い出したの」
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