第4話 細いけど途切れない、不思議な関係

 音楽アプリを開いて曲を見ると、そこには100曲以上がダウンロードされていた。母親の世代に流行したような曲から、最近のドラマの主題歌、はたまたアニメの主題歌や歌詞のないインストの曲まで。幅広い年代と種類の曲がそこにはあった。


 画面をスクロールして曲名を流し読みすると、数曲に一曲は知っている曲がある。どの曲にしようかと悩みながら画面を見ていると、ふと一つの題名が目に留まった。先日女性が踊っていた曲だ。曲名を知っていてよかった。もう一度、直接あの舞い踊る姿が見れるのだ。その曲名を見てから一瞬で心は決まった。


「この曲でお願いします」


「どれどれ……ああ、この前の曲ね。前とは服装が違うから少し印象は違ってしまうかもしれないけど。そこは勘弁してね」


 女性が画面の再生ボタンを押し、端末からは音楽が流れる。そして、端末を素早く噴水のそばに置き、私の真正面で少し離れた位置に立ち、音楽に合わせて体を動かし始めた。


 その姿は前と変わらず美しく、妖精を想起させるものだった。以前のようにふわりと舞うスカートはないが、その分腕や足などの滑らかな動きがよくわかる。前回と今回、この二つの踊りが同じものかといわれると少し違う気がした。それは服装のせいだけではない。それでも、共通の優雅さ、上品さがあるのは確かだろう。


 曲が終わると、しばらく噴水の音だけが聞こえる静けさが訪れた。絶えず舞い踊っていた女性の息は少し切れていて、離れている私に呼吸音までは聞こえてこなかったが、肩で息をしていることは見える。


「どうだった? あなたが見たかったものとは違うかもしれないけど、私なりにちゃんと表現したいものを、表現出来たつもりよ」


息を整えながら女性は私の方に近づいてきた。


「はい! とても綺麗でした。わがままを聞いてくれてありがとうございます。また見とれちゃいました」


「その表情、ちゃんと伝わったみたいね。良かった」


「表現したいものがあってそれを形にできる。ちょっと羨ましいです」


 そのあと少しの間女性と話したが、女性はこの後仕事があるといって帰っていった。お互い名前も素性も聞かない、ただ通りすがりに世間話をしただけのような、細い関係だ。だけど、意外にもその細い関係はぷつりと途切れることなく数週間続いた。


 私の散歩は日課となり、夜明け前から毎日同じような時間帯に公園を訪れていた。女性とは毎日会えたわけではなかったが、運が良ければ公園のどこかで会うことが出来た。


 話を聞いてみると、女性も毎日朝早くから公園に来ているようだった。二人とも毎日公園に来ているのに会えない理由は、私は定期的にコースを変えているし、女性も踊る場所はその日の気分や曲の雰囲気で決めていて、毎回同じ場所に居るわけではないからである。


 女性とはまた会おうと約束していたわけではなかったから、三度目公園であったときはとても驚いた。四度目からは「また会いましたね」と私から話しかけることが出来るようになり、それ以降はお互いどちらかがその姿を見た時、もう片方に歩み寄っていくまでになっていた。


 この頃には、女性と公園内で遭遇してしまうかもと思い悩むことも、気まずさもなくなっていた。

 

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