第五章

 満月になる前日。


 いつものように公園に行き、歌を歌ってガブを待ち、いつものようにガブは突然来て、いつものようにガブと他愛のない話をしていた。いつも通りのはずだった。でもガブは突然『なんでオオカミは物語の中で敵になっちゃうんだろうね』と聞いてきた。

 そういったガブの顔は今にも泣き出しそうだった。

 『どうしてかは分からない。でもさ、必ずしも敵じゃないよ』

 隣に座って月を見ているガブの方を見ると、ガブは私と目を合わせてから首を傾げた。

 『例えば、【あらしのよるに】っていうお話とか』

 『どういうお話なの?』

 ガブが月を見ながら静かな声で聞いてきた。

 『ヤギとオオカミがお友達になる話だよ。私が小学生の時に読んだ。ヤギの名前はユキで、オオカミの名前は』

 ここでつかえてしまった。オオカミの名前が思い出せない。

 しばらく黙っていると、ガブが私の手を握ってきた。

 びっくりしてガブの方を見ると『最後はどうなるの?』と目をキラキラとさせながら聞いてきた。

 『明日、本を持ってくるよ。一緒に読もう』

 そう提案すると、嬉しそうに何度も頷いた。

 『美奈ちゃんは何のお花が好き?』

 突然の質問に戸惑いながら、『白いツユクサかな。昔おばあちゃんと北の方にある山で見たの』と答えると、ガブが満面の笑みで頷いて、消えた。


 私は空に浮かぶ月を見ながら『明日、楽しみにしててね』と言った。

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