陽炎、稲妻、月の影

鳩村サン

序章

 『いにしへわししちぎ

  

 琥珀色こはくいろに輝く月ぞ

  

 我らにいかでか、力貸したまへ

  

 南に流るる川のかたはら

  

 北なる山のふもと

  

 二つの声の重なりしほど

  

 救ひを求むるものうちいづる』


 遠くから聞こえた懐かしい歌に、思わずふりかえると、突然景色がはっきりと目に映った。

 縁側に白髪の女性と、小さな女の子が座っている。私だ。

 『おばあちゃん、そのお歌なあに?』

 女の子は無邪気に足をバタつかせながら尋ねた。すると女性は、女の子の手を握って言った。

 『美奈ちゃんも、このお歌を歌えるようになるといいね』

 女の子は女性の言葉に首をかしげて『どうして?』と、キラキラと好奇心に満ち溢れた目を向けた。

 すると女性は遠くの方を見て懐かしむようにつぶやいた。

 『このお歌には、沢山の力が秘められているんだよ』

 女の子が何か尋ねたようだが、だんだん声が遠くなっていき、あたりが真っ暗になった。


 私は目を開けた。


 朝がきた。

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