第51話 許嫁と新しい友達

「で、白咲さん。これはどこに運ぶんだ?」

「数学の教科担の所ですよ。八幡さん」



 また数日が流れたある日の放課後、担任に用があったので放課後学校に少し残っていれば、重そうな荷物を持った少女がいた。



 小柄で華奢な体に、今にも落としそうなほどに量のある、クラス全員分の提出物を持った少女が、俺の目の前を通っていった。



 そんな姿を見れば、いくら学校での接触は避けた方が良いとはいえ、無視出来ない。もしここで見て見ぬフリなんてしたら、きっと良心が痛むなんてレベルでは済まないだろう。



 俺が「持とうか?」そう声を掛けざるを得なかったのは、そんな小さな理由だった。




「…………ここで良いのか?」

「はい。手伝ってくれてありがとうございました」

「いや俺はほとんど持ってないから」



 俺が結愛の荷物を持ち始めたのは途中からだったので、目的にはすぐに着いた。



「これは白咲さんが1人で渡した方が良いのか?重いし、出来れば渡したくはないんだが」

「私が他のクラスの人に仕事を押し付けたと先生に誤解されても良いんでしたら、八幡さんも一緒に中に入りましょう」

「…………重いからな。気を付けろよ」

「忠告ありがとうございます」



 俺は最後まで持ってあげたかったのだが、結愛にとって非になりそうなら任せるしかない。俺は持っていた荷物を結愛の細腕の上に積み重ね、そっと見守った。




「ちょっと来て……」

「え?」



 なんてしているのも束の間。職員室に入って行った結愛の姿を見送っていたら、突然後ろから引っ張られた。どこかで見たことのあるような、茶髪の少女に。




「八幡くん。私、結愛ちゃんにはもう近づかないで欲しいって言ったよね?」



 俺を引っ張って近くの階段にまで連れてきたのは、ついこの間話した花森美鈴という少女だった。その目の鋭さは、前回よりも覇気を増していた。




「…………俺はただ手伝っただけだろ。それ以外に何をしたわけでもない」

「どうせ結愛ちゃんと親しくなりたいから、表面上だけは愛想良くしてるだけでしょ?」



 表面上だけ。そんな言葉を向けられては、俺に返す言葉はなかった。



 かといって許嫁のことを話すわけにもいかないので、本当にどう返せばべきか迷う。

 



「表面上……ね、」



 1人呟いて、深く考え事をする。



 花森さんは両腕を組んでギッチリと俺を睨んでいるので、逃げる隙はなかった。




「言っとくけど、私はそういうの見過ごせないの!結愛ちゃんだって、ちゃんと自分の内面を見てくれる人と出会いたいはずなの!なのに貴方みたいな外観に惹きつけられた人が多いから、結愛ちゃんは苦労してるの!」



 流石に2度目だからか、花森さんからは前回のような優しさは消えていた。

 ただ俺を結愛から遠ざけるような言動を残して、じっと瞳を向けてくる。



 どうやら花森さんは、俺が結愛と付き合っているとか、そういうのは考えもしていないようだった。ただ俺が下心で結愛に近付いていると、そう勘違いされていた。




「そう見えたなら申し訳ない。謝る。でも俺はただの親切心で行動しただけのつもりだ。それ以外に邪な考えは何も抱いてない」

「口では誰でもそう言えるよ!!」



 暴論のようで正論なその発言は、男からすれば無実の証明が難しすぎる。




「いくら結愛ちゃんの見た目が良くて優しいからって、心は普通の女の子と変わらないのよ!?」

「それは知ってる」

「知ってるならなんで……」



 証明するのは難しいにしろ、嘘はつきたくない。自分で犯した過ちから素直に認めるし、非があるなら頭を下げるが、嘘をつく気はなかった。




 まあ、この後すぐに俺の無実を証明してくれる人がやって来るのだが。




「莉音くんと、花森……さん?」

「結愛……」

「結愛ちゃん……」



 いくら階段に移動したとはいえ、音の一つもない廊下に出れば、ある程度の声は聞こえてくる。

 しばらくすれば結愛はやってきて、どうしたのかと、困惑したような顔をして姿を現した。


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