第3話 許嫁に料理を作ってあげた
「ごちそうさま……」
未だに揃う予定のない2人掛けのダイニングテーブルに腰掛け、莉音はそう声を発して皿を片付ける。
家に帰ったら、買ってきた食材で夕食を作ってすぐに食べた。使わなかった食材はいつでも使えるように冷蔵庫に保管している。
いつも夕食の時には明日の朝の分も含めて多めに作っているので、それにもラップをして冷蔵庫に入れた。
あらかじめ炊いておいたご飯は余った分だけ冷凍庫に入れて、それも明日の朝用に取っておいた。
炊飯器の使用に関するルールは決められてないが、結愛が使った形跡もないので、最初から使うつもりがなかったのだろう。
冷蔵庫や冷凍庫の中にも俺が入れたタッパーやラップしてある皿しかない。
結愛が入れた物もあるにはあるのだが、レンジで温めて食べる、いわば冷凍食品くらいの物しか入っていなかった。
(大丈夫だよな……)
結愛の食生活が心配になる一方、まだ莉音の中には小さなざわつきがあった。莉音がスーパーの帰りに結愛を見掛けてからそれなりの時間が経ったが、まだ帰ってきた気配はない。
公園はここのマンションからすぐ近くなので気に掛ける必要はないと思うのだが、あまり遅い時間まで外にいては安全とは言えない。
親しくはないとはいえ、やはりある程度は気にはなるだろう。
莉音の中にもまだそんな感情が残っていたのだと少しだけ安心しつつも、また胸の中に自分の感情を抑え込んだ。
「ご飯くらい、出しておいてあげるか……?」
お風呂から上がり、未だに玄関に結愛の靴のない事を確認すれば、莉音は1人でそんな事を考えついた。
通常、食事の時は各自で食べる物を用意するというルールがあるが、莉音が一方的に用意する分には害があるとは思えない。
ここ数日はルールに素直に従ってきたが、このままだと自分は養親と大差ない気がする。
相手が悲しんだいると分かった上で見て見ぬフリをするのが、とても寂しい事だというのは自分が一番分かっている。
だから別にルールを破っても良いと思った。
このまま彼女を放置して養親のようになるくらいなら、ルールなんて破った方が良いと。
莉音は別に結愛の事が異性として好きなわけでもないし、これを気に仲良くなりたいとかそんなのでもない。
ただ、中学の頃の自分と似て重なって見えたから無視出来なかった。両親を失って養親の元で1人で生きている自分と似ていて。
もしかすると、これは同情という感情と類似していたのかもしれない。
だから久しぶりに自分の意思で行動に移せた気がした。
莉音の中でそうと決まれば、再びキッチンまで足を運んだ。
「…………これでいいか」
すぐさま行動に移した莉音は、明日の朝食用に作った今日の夕食の残りを皿に盛り付けた。
残りといってもあらかじめ別皿に分けていたので、箸はつけていない。
今日の夕食は生姜焼きだったので、少量の野菜を盛り付け、隣に白米を用意しておく。女の子に生姜焼きを出すのはどうかと思うが、元気が出る食べ物なのでこれで良いだろう。
あとはそこに味噌汁も作った。いつもは面倒なので作らないが、一応味噌と具材は買ってあったので、もう一度キッチンに立って用意した。
余りは明日の朝にでも莉音が飲めば良いので、一石二鳥だった。
何とも無難な料理だが、当たり外れないのできっと食べてくれるだろう。
「よし……」
テーブルの上にそれらを並べれば、その出来に声を出す。
そして料理とは別に置き手紙も書いておいた。
『生姜焼きを食べたら元気が出ますよ』
我ながらキザな事をしたと自覚があるが、その置き手紙があれば彼女も食べざるを得ないだろう。
万が一食べてもらえなかったら、明日自分で食べれば良いだけなので損はしない。
結果はどうであれ今自分に出来る最低限の事はしたので、莉音はリビングを後にした。
「朝か……」
次の日の朝、まだダルさと眠気の残った体を起こして、いつも通りにリビングへと向かった。いつもなら、莉音が朝起きた時には彼女はすでに学校へ向かっている。
元々そういう生活習慣なのか、それともここに来てから早く行くようになったのか、どちらかは分からないが、莉音は朝にここの家で結愛と遭遇した記憶はなかった。
昨日莉音が用意しておいた夕食はどうなったのかを気にしながらもリビングの扉を開き、ダイニングテーブルの前に行く。
そこで莉音はホッと一安心した。
どうやら結愛は莉音が眠った後に帰って来たらしい。その証拠に、テーブルの上に用意した皿は何一つ無くなっていた。
台所には洗い終えた後の皿にがあり、きちんと食べてくれた事も分かった。
『元気出ました。ありがとうございました』
莉音が書いておいた置き手紙には感謝の言葉が書き加えられており、どこか結愛との距離が近くなったような気がした。
【あとがき】
・結愛ちゃん、2話と3話で発言0だ!
良ければ応援お願いします!
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