2-4

「な、何で早い方の話をしてくれないんだ!」

「しようとしたけど。変態バカが遮ったんじゃないか」

 呆れ顔でそう言った。

「まぁ、勝手に人の城の漁る趣味はないから、彼奴が帰ってきたらでいいでしょ」


 と、言ってから数時間。あまりにもモンクサーが帰ってこないのでグロウリィーは椅子にもたれかかって寝てしまった。

 長いまつ毛は褐色の肌に降り、少し華奢な肩はゆっくりと上下している。彼のふとした瞬間に出る美しさを見てしまうと、どうしても目を奪われ離せなくなってしまう。

 ──コン、コン、コン。見惚れているとノックの音が響き、我に帰った。扉の向こうから「失礼しても宜しいでしょうか?」と尋ねる女性の声が聞こえてきた。

「どうぞ」

 ウィッドが短く返事をすると、ゆっくりと扉が開き使用人服を着た女性が立っていた。女性が一礼をする。上げた顔は石像のように白く美しいのだが無表情でぴくりともそれを変えない。彼女は椅子にもたれかかっているグロウリィーに視線をやると。

「後で毛布を手配して参ります」

 薄着の彼を見てそう言った。

「君は?」

 彼女は視線を戻すとまた一礼をし。

「私はこのお城にメイド長として務めさせて頂いております。『アクソリス・バミ』です。城主より伝言を承っております」

「城主?」

「はい、城主のモンクサー様からです。『今日は早く帰れそうにありません。何か必要なことがあったらメイドや部下を頼ってください』とのことです。貴方の主人様が起きましたらお伝えください」

 一礼をするとし、立ち去ろうとするアクソリスの先程の言葉に、ウィッドは首を傾げる。

「俺の……主人?」

 この言葉の意味が理解できず、聞いた。

「はい。そちらの椅子に寝ている方ではないのですか?」

 手のひらをそっとグロウリィーに向ける。

「ちょっと待てくれ、どういう──」

 言い掛けたところでグロウリィーが身動ぐ。

「…んっ」

 うっすらと目を開けたかと思うと、身を預けていた背もたれから、ふらりと体を起こす。

「なに? うるさいんだけど……静かにしてくれない?」

 寝て崩れてしまった髪がさらさらと前のめりになった彼の肩にかかる。発した声は少し低く、粘膜が乾燥しているせいか、がらがらしていたが、耳触りの悪いものではない。くわぁっと欠伸をすると寝ぼけた目でアクリスの方を見る。

「……モンクサーは?」

「戻られていません」

「あっそ」

 素気ない返事をするとまた背もたれにもたれかかる。

「グロウリィー様。貴方に伝言が」

「いい。どうせ変態バカには話したんでしょ? 後で聞くから、もう行って……僕は眠いし…お腹も空いてるし……とにかく……機嫌が悪いから……早く行って」

 最後の方は眠そうにもにょもにょといった後、しっしっと手をふらふら振って瞼を閉じてしまった。


 アクソリスが「かしこまりました」と言って部屋を出てから2時間ほど経った頃、また彼女がやってきた。


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