22.事の発端

 なぜかそこに、冬樹が立っていた。

「ホントにあのー……面白いんで聴いてください。僕、二人が何の話してるのかよくわからないんですけど、とにかく聴いてください。スペシャルゲストも登場しますんで」

「おまえ……洋さんと釣り行ったんじゃなかったの?」

 海輝は本当に驚いている。

「いや、行ったのは行ったんだけど、すごい、雨が激しかったんでやめました。で……帰ってもすることないし、マネージャーに聞いたら海輝が行ったって言うから、来ちゃいました」

「あの、ちょっとこれすごくない? OCEAN TREEと若咲さんですよ。超有名人ここに集結! 若咲さん、どうしてそんなに仲良いんですか?」

「だから北海道で――」

「そこから先はラジオを聴いてください!」

 海輝が懇願するように言った。視線はしばらく麻子に向けていて、やがて客席に向いた。

「全部言うの?」

「出来るだけ。その……さっき冬樹が言ってたスペシャルゲストにも話に加わってもらおうと思ってるんで」

「誰?」

 叶依が聞いた。

 ラジオに出るのは聞いているけれど、スペシャルゲストの話は初耳だ。

「絶対知ってるよ。音楽とはあまり関係のない道を行ってる人だけど」

(そんな人いたっけ?)

「事の発端は四月ですよね?」

 冬樹が確認の意味を込めて海輝に聞いた。

「四月? でもまだ私デビューしてないやん」

「とにかく四月です。あとはラジオを聴いてください。ということで……冬樹、今日、車?」

「そうだけど?」

「じゃアレ持って来てよ」

「あれ? あ、あれね、はいはい」

 二人の姿は一旦舞台から消え、十分後、ギターを持って再び現れた。二人とも車の中に常にギターを入れていることを、叶依は知っていた。

 舞台の縁に腰掛けて、二人はギターをポロンと鳴らした。

 アザラシが静かに泳ぎ始めた。


 四月――。

 叶依は高校二年生になった。

「若咲さん……? 何してんの?」

 自分から話しかけるつもりだった相手に、逆に話しかけられた。

 叶依が知っている限り、一番のイケメンだった。

「なぁ、叶依ー、さっきはごめんな」

 名前で呼べとは言ったけど、本当に呼ぶなんて……。

 それがすべての始まりだった。

 けれど、それだけがすべてでないことを、叶依は知っていた。

 遠く離れた別の所で、他の何かが起こっていた。

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