9.放課後の教室
(居心地悪いな……)
放課後の教室は、いつもより賑やかだった。球技大会で優勝して盛り上がっていたことに加え、伸尋が心配で残っていた生徒もいたらしい。何があったのか、もう大丈夫なのか、ほとんどの生徒が声をかけたそうにしていたけれど、誰も何も言うことができなかった。
言ってはいけない、のではなく、伸尋が誰も寄せ付けないオーラを放ってしまっていた。
教室に戻ると、史はすぐにクラブへ行ってしまった。教室で出会った采も、史と同じサッカー部へ飛んでいった。伸尋もクラブへ行く予定だったけれど、先生に禁止された。
「あ、伸尋ー。もう大丈夫なん?」
伸尋は教室に戻ってから初めて顔を上げた。
音楽室から叶依が戻ってきて、自分の席に向かっていた。
「うん。悪いな、心配かけて」
「ううん、急に倒れたからビックリしたけど……。あれ、みんなクラブ? 良かった、伸尋
「俺が何かあんの?」
「え? ああ、ううん、教室に誰もおらんかったらどうしようかと思ったけど、伸尋いたから良かったーと思って。それよりさぁ、明日あいてる?」
「明日? あ、聞いたで。デビューするらしいやん」
「……誰に聞いたん? 史? もう……明日びっくりさせようと思ってたのに。言わんかったらよかった」
叶依はちょっと膨れて溜息をついた。
「いきなりアルバムってすごいよなー。何て曲やるん?」
「明日のお楽しみ、って言いたいけど……ま、いいや。二つやるんやけど一個はインストで『summer night』、もう一個が──サブタイトルに『NOBUHIRO』ってつけていい? さっき練習してて、曲のイメージが今日の伸尋にぴったりやってん」
「え、俺? 別に、いいけど……」
「よし。これでいこー」
叶依は前に向き直ってから、帰り支度を始めた。ホームルームが終わってすぐに音楽室に行っていたので、荷物は片付いていなかったらしい。
「おまえってさ」
「ん?」
伸尋の呼びかけに、叶依は振り返らずに返事した。
「全然能天気ちゃうよな」
「え?」
「始業式んとき言ってたやん。あれから三ヵ月やけどさぁ、俺にはそんな風に見えんかったで。おまえさ、自分に責任かかるようなことしてる時、すごい、何て言うか、顔変わってんもん。海帆も結構そんな感じやけど、おまえはすごいで」
伸尋が言っている間、叶依は無意識に彼を見つめてしまっていた。どういう意味でそんな話をしているのか、考えてみたけどイマイチわからない。けれど、どうやら彼は叶依を褒めたらしい。
叶依は急に照れくさくなって伸尋から視線を外し、
「伸尋だってすごいやん」
と言った。
「やっぱり俺ら似てんかな?」
伸尋は笑っていた。
「ははは。実は
叶依も笑っていた。もちろん、彼と血縁があるとは思っていないので、照れているだけだ。
「帰るか」
「うん」
窓からは緩やかな勾配で夕陽が差し込んでいた。
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