8.期待はずれ
気づいたとき、伸尋は保健室のベッドで横になっていた。
ゆっくりと目を開ける。
隣のベッドと仕切っている水色のカーテンで小さく区切られた天井が見える。
蛍光灯が見える。
壁には時計がかけてある。針は三時ちょうどを指していた。
しばらく何も考えずに伸尋はそれを見つめていた。
チ・チ・チ……
三時十五分。
チ・チ・チ……
三時半。
ふと、誰かに会いたいと思った。
誰か――来てくれたら――
コンコン――カチャ。
保健室のドアが開けられる音がした。
ひとつの可能性を考えた。
「あの……若崎君はどこに……?」
小さな望みは叶えられなかった。
間もなくカーテンが開いて、それはやってきた。
「伸尋ー。大丈夫かー?」
それは伸尋の予想通り、しかし期待はずれの史だった。
伸尋は微苦笑を浮かべた。
「うん……もうホームルーム終わったん?」
「さっき終わったとこ。みんなおまえの心配してるで。特にあいつが」
「え? あいつって……」
史は笑った。
「悪いな。あいつじゃなくて。あいつも忙しいからよ」
(あいつって……叶依……か?)
「あいつ、明日の準備で知原んとこ行ってたからさぁ。おまえ明日行くんか?」
「……明日って何?」
ベッドから体を起こして伸尋は聞いた。
「明日、ホールでサマーコンサートあるやん。あれで全部終わった後にシメで叶依、一人でやんねんて。おまえ知らんかった?」
「知らん……」
伸尋は首を横に振った。コーラス部が出るというのは思い出したけれど、叶依がトリをするのは初耳だ。
「そうか、おまえあいつと知りあったん今年やからなぁ。俺、去年も同じクラスやったからちょっと聞いててんけどな……もうすぐZippin’ SoundsからCD出してデビューするらしいで」
「うそー? めっちゃすごいやん!」
「おまえもな。俺の友達、有名人ばっかやわ。海帆だってあいつとおるからなんか有名やし。で、そのアルバムから二曲やんねんて。いきなりアルバムやで」
「俺が有名人?」
「ある意味な」
伸尋は笑いながらベッドから降りて先生方に礼を言い、史と共に保健室を出た。
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