6.球技大会-午前-

 球技大会当日は、気持ちの良い快晴だった。

 グラウンドにひかれた白線を避けて、あちこちでクラスごとに集まっている生徒たち。各競技とも男女別の、クラス対抗だ。

「伸尋ー、非常に申し訳ないんやけど、バレーとドッヂで補欠で出てくれへん?」

 七組とのバスケの試合終了後、息を整えていた伸尋のところに体育委員が来た。十組が圧勝したのは伸尋の活躍のおかげなのは、見ていた全員がわかっていた。体育委員は、疲れているから断られるだろう、と思っていたけれど、

「両方? 別にええよ」

 伸尋は断らなかった。

「おまえ、よぉ体もつなぁ」

 史が心配しているのを後目に、伸尋は次の一年生とのバレーの試合へ向かっていった。

 が、十分もせずに帰ってきた。

 伸尋はつまらなさそうに溜息をついた。集合がかかって五分経っても選手が揃わなかったため、一年生は棄権になったらしい。その後も何度か二年十組の試合があったけれど、これといって強い敵は現れなかった。というより、敵の大半は一年生で、怖いもの知らずの伸尋を相手に後込んでしまったのだけれど。


 昼休み、教室で話題になっているのは、もちろん伸尋のことだ。

「あれ見た? シュッて上げてバチーン叩いて、帰ってきたやつバーンって」

 三年生とのバレーの試合での伸尋の活躍を、時織が大袈裟に説明する。その横で弁当箱を持ったまま、お腹を抱えて夜宵が笑っている。

「なぁ、夜宵、うちらなぁ、自分のクラスも放って見ててん。なぁ夜宵、どう思う? あいつすごすぎんでなぁ」

 時織ももちろん笑っている。

「見てたけどー、敢えて言わんとく」

「ははは、また敢えて……。敢えて言わんとくじゃなくって、言って」

 もちろん、同じグループには叶依と海帆、珠里亜もいるのだけれど。笑い続けているおかげで、弁当箱がなかなか空になりません。

 昼から予定されている試合は決勝戦のみで、運良く十組男子陣はバスケとドッヂで残っていた。対戦相手はというと、バスケは三年生で、幸か不幸か、ドッヂは再び七組だった。

「決勝戦って一個ずつやんかぁ。夜宵見る?」

「敢えてー、見る」

「見るんかいっ」

 五人の間で笑いが絶えることはなかった。


 一方。

 伸尋はというと、史の隣で──。

「あんなん朝飯前やで」

「おまえなんでそんな体力あるん? どこで鍛えてんのか教えてくれよ」

「別に何も鍛えてないで。クラブ行ってバスケやって、家帰って飯食って、風呂入って寝るだけ」

 言って、弁当の玉子焼きを口に放り込んだ。

「おまえのおっちゃんってどんな人やったっけ?」

 静かにしていた五組の鷲田わしださいが、やはり静かに聞いた。昼休みに弁当を持って他のクラスに移動する生徒は、結構いるらしい。

「俺、小さい頃からおばあちゃんに育てられたからお父さん見たことないけど、すごい人やったって聞いたで」

「おばちゃんは?」

「おばちゃんは……わからん」

 弁当を約五分で平らげ、三人は校庭へと飛び出していった。そしてそこで決勝戦に備えて、体力作りをしたことは言うまでもない。

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