第18話 次のトラブル

 産室を出ると、生まれて来た二人にとって曽婆さんから母親違いの姉となるマーガレット、そして頼りになる父親の従兄、伯父伯母他親類一同揃っている。歓声を上げて、取り囲まれた。崋山は二人をとりあえず、祖父祖母にあたるレインとアンに渡し、

「俺は基地に戻るから、みんなでせいぜい構ってやってね」

 と言って、ギルンに合図をし、外に出た。後ろから、

『崋山、おめでとう』

 と、後ろに居た従兄たちがコンタクトしてくれた。

 車を出入口に持って来たギルンもあらためて祝ってくれた。

「おめでとうございます。司令官。チラッと拝見しましたが、すごく可愛いですね。構い手が多くて双子でも奥さん何とかなりそうで良かったですね。司令官が忙しくても」

 等と、運転しながらしゃべり続ける、ギルン。崋山は思わず、

「ギルン、親でも無いにしては、やけに興奮気味だね」

 と言ってしまった。何故かギクッとするギルン。

「どうしたの。まさか産室覗いてしまったとか」

 からかうつもりであてずっぽうに行ったが、図星だった。車をひょろ付かせるので、

「平静が保てないんだったら、妙な事するんじゃないよ。イヴに感付かれたら、打撲傷で病院行だな」

 と忠告すると、

「違うんです。そんなつもりじゃあないのに、自然に情景が入って来て、拒否しても目の前に出て来て、本当なんですよ。私も困ってしまって、頭ぶつけて気絶しようとしても石頭で出来なかったら、カイさんに感付かれて、失神させてもらいました」

 崋山はため息が出た。ギルンは出来がいいとイヴは褒めていたのに、

「無事でいさせるためには、配置換えだな。俺は知らないから」


 基地に戻ると、待ち遠し気にキースさんが司令官室入口に居た。

「キース、中に入らなかったの」

「ちょっと、先客が居てね。戸田さんにこの国の偉い人が会いに来ている。偉い人は対応が分からなくて、失礼になってはいけないと思って」

「そんな事、気にしないでよ。今から作業ロボットのセットに行くんでしょ。待たせて悪かったね」

「いえいえ、イヴさん無事出産されたようですね。おめでとうございます。あれ、ギルン何だか様子が変だね」

 ギルンは、キースに言われて、

「司令官が配置転換しろって」

「それはまたどうして」

 崋山は、またため息が出た。

「ギルンの無事を考えての事だよ。イヴに会ったらきっと感づかれるし、無事では済まないと思ってね」

 その言葉で察したキースさんも、ため息をつきそうになるが、思い直して、

「聞かなかった事にしよう。二人も、もう話題にするのも止めようね」

 そのまま黙って三人で現場に向かった。

 作業ロボットのセッティングは、キースさんにお任せした。最近の崋山の不得意な作業である。得意な人がした方が作業効率が良いと言うものだ。では、崋山がなぜ同行したのか、崋山としてはキースの護衛である。共に仕事しているように見えるが、実際は護衛だ。ギルンはその護衛の護衛と言う所である。キースは、

「大体、これでこいつらは仕事してくれるだろうな。俺達はその間、敵が来ないように見張らないと」

 先ほどの仕事分担は護衛の字が一つ増える事となる。キースがロボットの護衛をするそうなので・・・崋山は難しい顔でロボットの動きを見た。実際難しい動きをしている。キースさんは微妙な位置に部品を置いていて、ロボットたちはそれを組み立てている。崋山は、

「あの部品の置き方、何かパターンがあるんだろうな。俺にはさっぱりだ」

「さっぱりと思って、手伝わなかったんだね。別にパターン等無いよ。ロボットが認識しているから、お任せだ。どおりで手伝わないなと不思議に思っていたよ」

「何だ、ごめん。言ってくれれば良かったのに」

「いや、二人とも上の空だったから、せめて護衛の役はしてもらいたくてね。ぼんやり足にでも何か落として、怪我したら不味いし」

 ぼんやりな二人はすっかり恐縮し、それでも引き続きキースの仕事ぶりの観察である。

 そして崋山は思い付き、

「キース、こいつらは休憩なしで夜中も働くのかな」

「急を要するんだからね」

「そう言う事なら、俺とギルンがセットでここに居る訳にはいかないな。交代で見張るべきだ。ギルン、お前は夜からにしろ。どうもお疲れのようだから休んで、夜に来い」

「別に疲れてはいません。しいて言えば神経疲れなだけです」

「ほら、疲れを自覚しているじゃないか。良いから休憩して仕切り直して来い。こういう護衛は俺ら二人そろうのはバカバカしい。夜来る時は、使えそうなやつも、連れて来いよ」

「分かりました、ではお先に休憩をとらせていただきます。キースさん、失礼します」

「うん、休んで英気を取り戻してね。戻ったら、君の替わりを数人寄越してくれ」

 キースさん、気が利くね。と崋山はぼんやり思った。また、キースに聞いてみる。

「所で、キースの交代はしなくて良かったの」

「呑気な言い様だね。ルルの事忘れてないか。今夜の仕事担当として、睡眠中だ。俺はルルと交代するよ。ルルは君らが戻ってくる少し前まで、ロボットの整備をしていたよ。さっき休憩に入った」

「だろうね、うっかり忘れそうになったけど、全く忘れた訳じゃあないから、黙って居てよ。感付かれたら不味い」

「何が不味いって」

 後ろからルルが声を掛けながら、やって来た。崋山は、

「えっと、何でもないよ。それよかルルは今、休憩時間じゃあなかった」

「そのつもりだったけど。あたしと崋山のコンビの方が良くは無いかな。キース。夜の勤務はおじさんの方だと思わない。乙女は昼間しか働かないらしいよ。この辺では」

「あは、そう言えばそうだね。キースさん、今までせっせと働いていたけどそういう事で、今度は夜の勤務でお願いします」

「そんな気がしないでも無かった。分かったよ、ルルが崋山と居たいんだろう」

「そう言う事です、そうしてくださる、キース」

 悪戯っぽくルルは笑い、キースは戻ろうとするので、崋山は、

「部下が来てから戻ってよ、一応護衛付けておかないと。そう言えばルルは一人でここへ来たの。危ないよ。一人で動かないでね」

「いいえ、途中まで兵隊さんや、戸田さんや、王様と一緒でしたよ。彼らは鍾乳洞に行くんだそう。気になる事があると言っていたけど」

 崋山はそう言えばさっき、彼等は司令官室で、何か話し合っていたようだと思った。

「気になる事って、彼等、何か言っていたかな」

「それが、誰かがそこに王様の美術品を置いているって言う事で、城には城で同じ物があるから、どちらが本物か見に行くらしいですよ」

「人間だけじゃなく、美術品まで偽物造ったのか。どういうつもりかな。しかし、何で王様がのこのこ動くのかな。それを持ってくれば良いのに」

「そうですよね」

 ルルも同意見だ。崋山は考え、

「おびき寄せられたみたいだな」

 と、思いついて言った。

 崋山はおもむろに立ち上がると、

「不味いな」

 と呟いた。ルルは、

「行ってみましょうか」

 と元気の良い言いようだが。彼女は大事な助っ人である。

「ルルは大事な助っ人だから、自分の仕事だけしてくれ、こういう時のルークとカイのはず」

 崋山は彼らにコンタクトしようとすると、ルークが呼ばれる前に来た。

「ルーク、呼ばれる前に来るなんて、最近はカイと似たり寄ったりの能力になったみたいじゃあないか」

 崋山が褒めると。

「まだまだ、だよ。今来たのは、親父が一人戻ってこいとコンタクトして来たからだよ。崋山の勘は当たっている。鍾乳洞はまだ敵のアジトだとさ。行こう」

「良かった。戻って来てくれて。護衛も来たね。護衛はここを担当して欲しい」

 キースは、

「言いたかないけど、敵が狙うのはここじゃあないかな」

 崋山、しばらく呆然となる。ルークは、

「親父がここに居ろ、あほうとか言っている。ちゃんと指示しないくせに。まあ、地球が無くなれば遅かれ早かれ王様もアウトなんだから、俺等はここに居るべきだな。キースさん、戻る機会を失ったね、今戻ったら途中で、敵と鉢合わせになるかもしれない。危険だよ」

 と言う事になり、皆でこのロボットの作業を見守る事となった。

 しかし、敵の影も形もなく、夕暮れ時となる。そろそろギルンが来るのではないだろうか。

「結局襲ってこなかったね。どういう事」

 崋山が不思議がっていると、ルークが、

「親父が、崋山が動かないから、バレていると思って来ないのだと言っている」

「あ、そうか。じゃあ夜はどうなるかな。俺はともかく、キースとルルは仕事の配分が都合の悪いことになったね」

 キースは、

「俺はこのまま此処に居るから、ルルは休憩して良いよ。崋山も続けて居るつもりなんだろう」

「そうだな。俺が居なくなれば襲いに来る気だと思うし、ギルンが来たらここで皆で交代で休憩しよう」

「じゃあ、あたしもここでキースと交代で休憩する」

 ルルがそう言うので、キースもルルの言うとおりにする気と見える。崋山は、この二人、何だかお似合いみたいと笑いたくなった。

 そんな所へ、ギルンが一軍隊分の人数を引き連れて戻って来た。

「司令官、戸田さん達は、敵に人質として捕らえられてしまいました。これから奪還の命令が欲しいんですけど」

「行く気で軍隊組織しといて、一応俺の命令が居るんだね。口頭で?」

「はい、記録しておきます。最近軍警察が厳しくて、勝手な動きは出来ないです。監査があるので」

「そうらしいね、戸田さんがこの前言っていたな。分かった。ギルンは戸田さんと王様を助けに行け。気をつけろ。敵はお前らの仲間に交じって居そうだぞ。今回の動きは奇妙だ」

「はい、そうなんです。実はゲルダさんから重大な情報を聞きました。それで、そこは承知しています」

「それ、どういう事」

「その事は、ご本人から司令官に話したいそうで、それに急ぎますので、失礼します」

 ギルンはそう言って、急いで鍾乳洞に軍隊を引き連れて行ってしまった。

「俺もそうだったから、文句言うのもなんだけど、皆、勝手な動きを始めているな。上司の苦労が段々分かって来たな。ルーク、ゲルダ発表の重大な事は知っているかな」

「本人が直接崋山に言いたいんだろ。俺はやめておくよ。ゲルダは俺らの言動はすべて把握しているんだから。ご意向に逆らう訳にはいかない。俺が此処を見張るから。崋山はゲルダに聞きに行ったら。直ぐ、カイも来るし」

「分かった。そうしよう」

「崋山が戻るなら、あたしも付いて行く。ゲルダさんの話も気になるし」

 またルルの気が変わり、

「はいはい」 

 と言いながら、崋山はゲルダの所に話を聞きに行く事にした。

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