第15話 マーガレット  

 マナミは崋山達が出発した後、崋山の様子を思い返していた。

「どうしたのかな。三人揃って出かけたけど。何だかずらかった感、アリアリなんだけど」

 本来崋山の動向について、子供の頃から勘の良い方であったマナミである。今日は何故かマーガレットが、神経質にイヴの帰りを気にしていた。シオンが学校へ連れて行かなければ、イヴがもどって来た時にはっきりしたのではないか。でも何がはっきりしたのか。

 マナミは自分のピンチ体験の後、疲れて何か大事な事を見落としてしまっている気がしていた。今までショックから、忘れてしまっている気がする。でも何を見落としているのだろう。大事な事を忘れている。それは分かっていた。

 マナミは、崋山の司令官室に居る戸田さんの所へ行った。崋山が信頼している人だ。彼の所に行けば、この気分の原因が判りそうな気がした。司令官室に入ると、

「おや、どうしたのかな。何か用かい。所で、マーガレットの世話はしなくて良いのかな」

 戸田さんもマーガレットが気になるらしい。

「午後から、シオンが学校に連れて行っているの」

「えっ」

 戸田さんは絶句した。崋山に言った時は、崋山はそれほど驚きはしなかったのに。ただメガネの話をしていたっけ。

 マナミは確信した。

「戸田さん、ひょっとして、マーガレットは本物じゃあないとか?」

「君は、勘が良いね。誰か護衛が付いているんだろうね」

「確か、ギルンとリッキーていう人が付いて行っています。マーガレットは崋山のクローンですか。以前、イヴから研究所に行った時の話を聞いていたんです。私達が地球に戻って、リリーたちと暮らし始めた時は、あの子は本物だったと思います。だってあたしやシオンに懐いて来て、ママは嫌いと言っていたし、そんな時は感情的になって、クローンには見えなかったし。何時入れ替わったのかな」

 マナミははっとした。

「そうだった。今思い出したわ。あたしがアンドロイド達にさらわれた時、すっかり動転してしまって分からなかったけど、こっちに来た時、気が付かなければならなかったのに。マーガレットの着ている服が、さらわれる前に来ていたのとは違っていた。走って逃げるときはワンピだったのに、あたしが助かってもどって来た時には、Tシャツとジーンズを着ていたわね。奴ら、あたしが生きて戻って来るとは思っていなかったのね」

「そうだろうね。しかし気が付く可能性は有ると思っていただろう。だから夜に虫が君たちのところに来たんだろう。ギルンの報告で、わざわざ最上階に虫が上がって行った意味を考えていたんだが、これですっきりしたな。ギルンは黙っていたが、その可能性は考えているだろうな。きっと用心しているはずだ。設備機器が揃えば爆発する手筈だろうな。その前に何とかしないとな」

「前は、核爆弾が入っていたそうですよ」

「そうかい、しかし今回はそんなに大きな爆発の必要は無いだろう。設備が駄目になる程度だと思うな。そしてブラックホールビームに当たって、この星が消滅する所を観察するつもりだろう。他の星はシールドが貼られていて、ブラックホールは発生出来てはいないからな。その前に核で破壊させるはずはない。とは言え、アンドロイドの爆発などよりは大規模な爆弾だろう。どうしたものかな」

 マナミは事態がはっきりして、シオンの事が心配になった。それに、さらわれたはずのマーガレット本人は、一体どうなったのだろう。可愛がっていたので、マナミは胸がつぶれる思いがして来た。






 崋山達は護衛の兵士、司令官室担当のズーイとシューの二人とを加えて、地球軍の宇宙ステーションにやって来た。行きは普通の軍御用達航空機に乗ったが、帰りは軍の特別仕様のヘリ、それを数機装備する計画になって居り、司令官室担当の彼らは以前からその訓練を受けて操縦できるそうだ。で、その引き渡しがてらの同行だった。最新型の高速移動ヘリである。戦闘機は1,2人乗りだが、ヘリは6人乗りで荷物もある程度乗せられるそうである。帰りはその2機に分かれて乗って帰る予定だ。

 連合軍から第3銀河所属の兵士十数人もキースやルルと一緒に、赴任して来ていて、残りのヘリや戦闘機に乗って南オーストの崋山の基地に付いて来る事になっていた。その事は報告されているらしかったが、崋山は失念していた。しかし新しい兵舎は出来上がっていたので、おそらくそこに入ることが出来るだろう。宇宙ステーションに着いた崋山達は、大勢さんの出迎えとなっていて、皆でワサワサして、イヴと、アンはキースとルルの出て来る方へ行き、崋山は第3銀河の所属兵士を、ズーイとシューと一緒に出迎えた。イヴ達を連れて来ていて、役割分担が出来ていると言えるだろう。第3銀河の兵士は、崋山の最初の任務の時の先輩兵士達がほとんどと、第7銀河兵舎で顔見知りの兵士だった。地球に帰還して来たとも言える。

 ソーヤさんがその中の司令官で、戦闘担当となり、崋山は防衛設備担当である。

 ソーヤさんはニコニコしながら、

「崋山、しばらく会わないうちに随分な出世だな。お前が此処に赴任したおかげで、俺等も地球行になったんだぞ。知らん奴らで、お前が顔と名前を覚える手間を省くためだ。ベル総司令官の配慮だな」

「どうも、しばらくです。別に出世とかしたくは無かったんですけどね。ベルさんに、お前しかいないとか言われて、押し付けられたようなものです」

 というと、側に居たチャンに、

「ベル総司令官を終いには見向きもせずに、別れたんだってな。彼は皆にぼやいていたそうだぞ。何かなあ、皆、お前に好かれたいらしいな。ベルさんはお前のけんもほろろの態度がショックだったらしくて、お前の機嫌取りに最近徹していると言う噂だな。ちょっと礼でも言った方が良くは無いかな」

 思いもよらぬチャンの忠告に驚く崋山である。

「へえ、じゃあ、今度の連絡には愛想の一つでも書いて送ろうかな」

 周りで笑い声が起き、和やかに基地へ取って返す事となっていると、イヴ達がキースとルルを伴って別コーナーからやって来た。




 崋山はキースとルルとの再会を喜んでいたが、皆で基地に出発の準備にヘリに向かう途中、ルルさんはイヴにこっそり話しかけた。

「崋山、何だか前と雰囲気が違ったね。ベル総司令官もそういう事言っていたけど、実際に会うまで気にして無かった。昔の人畜無害感消えたね。きつくて、冷たい感じするね。何があったんだろ。イヴはどう感じてる」

「ふうん。あたしは再会したときは夢中だったから気が付かなかったし、最近ずっと一緒に居るからね。責任感か何かと思っているけど。冷たい感じってのは、聞き捨てならないね。何があったかって言うと。どういう心境の変化か分からないけど、あたしの感想では、マーガレットの事、意外なスルーぶりだったな」

「マーガレットって?」

「崋山が学生の頃、いかれた従姉妹に襲われて、子作りに強制参加させられて出来た子。その従姉は教師の彼と出来ちゃった婚するために崋山を利用したの。で、最近その従姉がアンドロイドになっていたから、あたし達で引き取ろうって言っていたのに。敵にさらわれて、その代わりに例のクローンと入れ替わっていたのが分かった時、こっちに来る直前だったけど、スルーの仕方が意外だったな」

「あまり悲しまなかったのね。なるほど。と言う事は感情をコントロールして、しまい込んでいるのかもしれないね。こんな時期だから。でも、後で反動が出るものよ。そういう事していると」

「反動って。後で大騒ぎするって事かな」

「たぶんね」

 崋山の大騒ぎについては、イヴは何だか予想できた。シールドが、完成するまで持ち堪えるのを祈るしかない。



 一方、崋山達がそそくさと出発した後の、クローンのマーガレットと、シオン達一行。

 初めての学校に連れて行ったにしては、マーガレットはやけにしれっと冷静である。シオンは、以前マーガレットに初めて会った時の、はにかんでそれでも人懐っこさの有った様子を思い出していた。それに比べて、感情が入っていないのに、シオンは気付いていた。護衛の兵士も、初めての学校行にしては、女の子の様子として違和感があると気づいていた。先生に後ろで見学の許可を貰っていたので、シオン達は揃って教室の後ろに控えて様子を見ていた。その時、何か兵士たちに連絡が入ったようである。シオンは横目で見ていると。彼らに緊張が走っているのが分かった。

 その時である。マーガレットは急に立ち上がると、

「パパに嫌われちゃった。パパに嫌われちゃったわ」

 と叫びながら、教室を飛び出した。

「どうしたの。マーガレット」

 シオンは追いかけようとすると、兵士の一人、ギルンが止めた。

「あのマーガレットは偽物です。爆発物を装着していて危険ですから、近寄らないで下さい」

 シオンは、いやな予感は当たっていたのがショックだった。

「あの子、クローンなの。何時から変わったのかしら」

「どうやら、一人で基地に逃げて来た時の様です。今連絡が入りました。俺らで追いかけますから。応援もすぐにきます」

 一方、もう一人のリッキーは、

「爆発が起こるかもしれません。すぐにハッチに入ってください」

 と言って誘導している。戦争のあった国は、学校に避難設備が整っているらしい。

「シオンさんも皆と一緒に避難していてください」

 と言われ、シオンは仕方なくハッチの中に入った。それからの事はシオンには気にはなっても分からないのだった。

 避難して直ぐに、地響きがした。爆発が起こったようである。マーガレットに装着された爆弾が爆発したのだろうか。以前イヴが話してくれた時は、核爆弾と言っていた。あの子に入っていたのは何だったのだろうか。一緒に避難していた教師たちは、ひそひそと、

「ミサイルか何か飛んで来たのかしら」

 と言っている。かなりの威力だった様である。シオンはギルン達の安否が心配だった。二人とも一緒に学校に来る途中、マーガレットの能天気さにめげず、良く相手をしていた。良い人達である。


 マーガレットは、泣きながら校庭に出ていた。ギルンとリッキーは、追いかけて確保すべきか迷ったが、戸田さんは、

「おそらくシールド装置が使い物にならなくなるくらいの爆発物が仕込んであるはずだから、気を付けろ」

 と言っていた。それで近づくのに躊躇して見ていると、マーガレットは校庭の真ん中に近付くと、

「パパに嫌われたわ。みんな、みんな。大嫌い。逆らってやる」

 と叫んでいる。

 ギルンは、

「おい、きっと爆発するぞ」

 と、リッキーに言うと、校舎の陰で、身を伏せ、その瞬間に備えた。爆発はかなりの衝撃だったが校舎は丈夫な作りで、持ち堪えた。爆発が終わり校庭を見てみると、校庭全体に至ると言って良いほどの大きなクレーターが出来ていたが、核爆弾とは状態が違っていた。ほっとする二人だった。

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