雨の音

 ふと、信号待ちの交差点。傘の隙間から、遠くの灰色を見た。ビル、ビル、その隙間を埋めた雨雲の色。フォトジニックな気分ではない。

 むしろセンチメンタルだ。昨夜から胸中騒がしく給っている。そう、給っているのだ。

 さほど話題にならなかった、とある推しの卒業。それは静かに発表された。粛々と、淡々と、そして黙々と卒業の日を迎える。

 すっかり大人の推しは、我々を魅了し続けたスマイルそのままに。涙をみせた。

 いそがしく無我夢中、せわしなく一心不乱、あわただしく現実逃避。そんな日々も、終わる。

 終わってしまった。

 懐かしむことができるほど、歳月を重ねるだろうか。むしろ消耗品のように。使い捨てではなかろうか。不毛に費やした結果、この両手は何も掴んではいない。手元に何も残らない。

 そうさ、卒業しちまえば。部屋中を彩っていたグッズはすべて、ゴミみたいなもんだ。過去の栄光と呼べない、経験の蓄積にもならない。過程や道程の根拠でもない。

 冷めた、冷めちまったんだ。

 我々を燃やしてくれないゴミ。

 夢から醒めたなら。傍若無人に寝そべる現実に、今日も、明日も、これからも辟易すること確定。まったく屁も出ない。

 手っ取り早く、新たな推しでも見つかるなら。

 気楽なんだろう。

 だが、残念なことに。全体的に下火、消沈ムードは否めない。細々やってくのも良いが、狂乱と喧騒のサンドイッチを求めちまう。

 訪れた退屈を、またイチから飼いならす労力を思うだけで、疲れちまうよ。

 いやいやいや。

 もう考えるのは、止そう。

 世の終焉ってわけでも無し。

 ただ、ひたむきに押し寄せる『退屈』が恐ろしいのだ。

 退屈な夜が、また訪れるなら。

 我々は再度、夜を紛らすべく、通りへ、森へ、月へ。

 新たな推しを探すよう。

 沸き立つ衝動のままに。

 その柔らかな肌を、ズタズラに引き裂くことに無常の喜びを得よう。

 夜ふかし、しちゃうなぁ。

 夜あそび、しちゃうなぁ。

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