第23話 落下
文句を言いながらも、じりじりと近寄っていく僚機。
『内藤君、どうする?』
「心配ない。この時点で敵機を撃破したことに変わりない」
一対三など、普通の戦闘ならすでに片が付いているのだから。
『きたきた! うはー!』
大声を上げて、喜ぶ火月。
近寄ったことによるミサイルの迎撃可能領域に入ったのだ。
無数のミサイルが、放たれ神崎機にヒットする。
『……参ったね。こりゃ……』
苦笑いを浮かべている神崎。
《試合終了!》
戦闘が終わると、俺たちは帰投する。
帰艦する間に神崎と火月がぴたりと動きを止める。
「なんだ?」
殺気?
ナーブ・コネクトにより五感を刺激されるAnD。殺気のようなものを感じ取ることも珍しくない。
低軌道上に位置する宇宙ステーション。その宇宙港付近で行われていた演習ということもあり、敵影が地球の方から上がってくるように見える。
『敵機確認、これより狙撃に入ります』
神崎が報告すると、上官が苦々しい声で応じる。
《了解。各機安全装置解除、やつらに宇宙の厳しさを教えてやれ!》
宇宙の厳しさ、か……。
かつての大統領が言っていた言葉になぞらえたか。
俺は安全装置を解除すると、機体を敵機に向ける。
大型のシールドで銃弾を受け止めながらの接近。
慣れた手つきで敵AnDに肉迫するとハンドガンを隙間にねじ込む。
そして射撃。
コクピット近くのフレームを破損した敵機は脱出用ポッドで離脱。
ハンドガンの代わりに高周波ブレード・アガツガリを引き出し、敵機に斬りかかる。
【バカな!】【日本刀だと!】
敵の声が聞こえる。なぜだ?
俺は脳内に響く声を押しとどめようと、システムを洗い出す。
後ろで動いているのは――Xシステム。
「お前か! スワロー。なぜ邪魔をする!」
『どうした? 内藤!』
神崎の声が頭痛をもたらす。
「Xシステムが暴走しています」
スワローがアガツガリで敵機を切り倒していく。
【こ、こいつ!】【いきなり!】【あの青いのを倒せ!】
断末魔が脳髄を刺激し、吐き気をもよおす。
『脱出しろ! 内藤』
脱出のボタンを押すが、分離できない。
「作動しません!」
『……最適解で敵を倒していっている!? だと!?』
神崎が驚きの声を零し、火月が援護射撃をしてくる。
『てめー。しっかり管理しろよ!』
「……すまん」
まさか火月に怒られるなんて思ってもいなかった。それも理不尽ではない話で。
『ちっ。右前方!』
火月の言葉を意識すると、スワローが落ち着いてくる。
あらぶっていた計器類がちゃんとした座標を示す。
操縦桿を握り直し、右前方からの攻撃をかわす。
かわした勢いで斬りかかり、うまく狙撃ポイントに持っていく。
火月ならやれる――。
『おうよ!』
火月が撃ち込むと敵機が火球に変わる。
『なんだ……? 今の感覚は』
今までにない反応を見せる火月を怪訝に思うが、今はそんな場合じゃない。
敵機と対峙していくうちに、地球との距離が縮まっていく。
「しまった」
焦りの乗った俺の声。
それを知ったのか、神崎が座標データを送ってくる。
『この地点まで復帰できるか?』
「無理です。このスワローの加速では……」
『了解。地表との相対速度合わせ。地表のデータを送る』
「了解しました」
俺はデータを受け取ると、大気圏突入コースへ入る。
だが、敵機は許してはくれない。
ハンドガンを撃ち放つ敵機。
「まさか、追撃!?」
焦燥の声を零すと、火月が応射していく。
『おれが援護する。てめーはさっさと降りろ!』
「……了解」
俺は機体の姿勢維持を務め、大型のシールドを前面に構える。
耐熱性のあるシールドだ。大気圏突入も考慮にいれてある。
『地球に行ったら土産ものを頼むぞ。内藤』
神崎が軽口を叩くくらいには敵機を制圧しているようだ。
ホッと一安心する。
頼まれることって悪いことじゃないな。
俺は口の端を上げて「了解」と返す。
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