第6話・・・一年の計は元旦にあり!
「おお、千沙子、こっちこっち」
実家の最寄り駅に着くと、お父さんが車で迎えに来てくれていた。
毎年、お盆とお正月には帰ってたけど、これからは毎日、顔を合わせる。
「ただいま……みんな、元気?」
なんとなく聞いてみたけど、家族みんなとはお盆に会っている。
「元気元気。そうだ、高校の時の同級生から、同窓会の案内が来てたぞ」
荷物を車のトランクに乗せて、私は助手席に乗った。
その瞬間に思い出してしまった彼のこと──いけない、封印!
実家に到着すると、大晦日というだけあって、家族全員が居間に揃っていた。
ここは、こないだ行った例の終着駅ほどではないけど、けっこう、田舎町。
こんな町に若いイケメンのお医者さんなんかいるのだろうか?
と思っていた時、お母さんがその先生の話を始めた。
「昨日、急に具合が悪くなってねぇ。お正月休みでダメだと思ったけど、診てくれたんだよ。良い先生だわー。千沙子も絶対、文句言わないと思うよ」
「はは……。そんなに、優しいの? どんな顔?」
「優しいというか……まぁ、会ってみなさい。タケル先生は、千沙子が出て行ったあとに来てくれて、この町を気に入ってくれて、ときどき来てくれるのよ」
「──ときどき? いない時もあるの?」
「他の地域にも行ってるらしい。千沙子と結婚したら、どこかに落ち着きたいとは言ってたけどな」
お父さんは、タケル先生に嫉妬してたりして……。
晩ご飯代わりの年越しそばを食べながら、テレビの特別番組を見ながら、私は久しぶりにのんびりと夜を過ごした。
仕事を辞めてからはわりとゆっくりしていたけど、リズムはなかなか戻らなかった。
家族に囲まれて楽しく過ごせる、やっぱり実家って大好きです。
「そういえば千沙子、あんた、ずっと元気ないけど、何かあったの?」
それは、大好きだったショウジさんに会えなくなったから──でも、そんなことは今更言いだせない。
「別に? 何もないよ?」
「怪しいわね……もしかして、好きな人でもいたの?」
さすが、私と血がつながったお母さん!
「まぁ、うん……でも、詳しいことは何も知らないから……そんな人はダメなんでしょ?
結婚したい、って連れてきても、お見合いは無くならないんでしょ?」
「あたり前よ。タケル先生は良い人よ」
私が想像していた通りの反応です……。
そう言われて、ちょっとだけ、ショウジさんを忘れることが出来た。
タケルさん、タケルさん、あと何回言ったら、馴染んでくるかな。
「ねぇ、お母さん。タケル先生って、どこで診てくれてるの?」
長時間の歌番組が終わって日付も変わり、寝る前に聞いてみた。
いくら良い人だと言われてても、場所くらいは知っておきたい。
お見合い前に、一度見ておきたい。
「それがねぇ、決まってないのよ」
「え?」
「ここには住んでなくて、通ってくれてるのよ。いつもは公民館で診てくれるけど、緊急のときは家にも来てくれるし。確か、大きな病院の医院長の息子さんって聞いたけど」
「そ……、そんなに、良い人なの……?」
「そうよ。でも、あんまり贅沢したらダメよ」
いや、お母さん。
私まだ、結婚してないし、しようとは思うけど最終決定はしてないから……。
そんなに、いろんな意味で素敵な人だったら、ショウジさんを忘れられるかな。
その夜、夢にタケル先生が出てきた。
私と仲良くしてるのは良かったけど、肝心の顔が、ぼやけて見えなかった。
・・・☆
「明けましておめでとうございます」
毎年恒例の挨拶を終えて、テーブルの上におせちとお雑煮を運んだ。
最近は有名ホテルやデパートで買う人が増えたけど、田舎では圧倒的に、作る人が多い。
「千沙子も、来年は作りなさいね」
「……、私、そんなに早く結婚するの?」
「そうよ。そのために仕事辞めて帰ってきたんでしょ」
料理するのは好きだけど、タケルさんはオカネモチ……庶民の味で満足するのかな……。
タケルさんとのお見合いは、実は今日。
何も新年早々しなくても! って思ったけど、「一年の計は元旦にあり!」って、家族全員で、なぜか隣近所まで、意見が一致したらしい。
お見合いにはお母さんがついてきてくれると思ってたのに。
「タケル先生が、千沙子と2人が良い、って言ってたのよ。邪魔がいたら緊張するのかしらねぇ」
ここに帰って来た日に、お母さんが言っていた。
確かに、誰かいたら緊張するけど、2人だけって、もっと緊張するんですけど……!!!!
「笑顔で行くのよ!」
わかってる……わかってる……けど、緊張して顔が引きつる……!!
お見合い=振袖。
っていうイメージがあったけど、着付けできる人がいないのと、電車に乗るのとで、普通のワンピースにした私。
それに、タケル先生が希望した場所がお洒落な喫茶店だから、着物だとすごく浮いてしまう。
神社に近い場所だったら初詣で着物を着てる人がいるかもしれないけど、そこは全然、そういう場所じゃない。むしろ、都会。
予定より早く着いてしまって、仕方ないから、コーヒーを注文した。
コーヒーは好き……なのに、緊張のせいで、味がわからない。
近くのテーブルに座っている人を観察しながら、窓の外を眺めながら、何回も時計を見ながら、コーヒーカップで手を温めながら、私はタケル先生を待った。
大病院の医院長の息子さん……失礼なこと言わないようにしないと……。
予定の14時になっても、タケル先生らしき人は現れなかった。
……もしかして、どたきゃんってやつですか?
……でも、立派な人なら、そんなことするはずない。
喫茶店の中はほどよく暖かくて、待つには不自由しないけど、この暖かさは逆に睡魔を誘ってしまうんです──。
「ごめん、遅くなって……堀井千沙子さん? だね?」
「──はいっ、堀井です、堀っ、い……?!」
息を切らせてやってきた彼を見て、開いた口がふさがらなかった。
お母さんが言っていた通り、かっこいい。優しそう。
背も高いし、頼りになりそう。
なんですけど、この彼はいったい、誰なんでしょうか。
「せっかくの笑顔が引きつってるよ……?」
タケル先生と思われる男性は、ポケットから名刺を取り出した。
「改めまして──
しょ、ショウジさんって、名前じゃなくて名字だったんですか……!!!!!!!!
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