時間外労働

「ここから先は時間外労働です……」

 という有名なセリフのあるアニメがあるが、時間外労働が多いのも医療界の特徴。

 特に休日、深夜の呼び出しは、医師はもとよりわれわれ検査に関わるものから看護師、薬剤師、

「電カルが動きませーん。」と言われ、事務の方も呼ばれることがある。

 夜中、特に深夜の呼び出しはかなわない。

 では、日中昼間はいいかと言うとこれもかなわない。

 なぜかと言うと、いつも家にいるとは限らないから。

 出掛けている時に電話がかかってくる。

「病院でーす。救急が入りましたぁ、今から来れます?」

 いけないと言うと『えー』と返される、これは温度差があるから、向こうはバリバリ勤務中、こちらは休みの温度差。

「そうですねー、17時間ほどかかりまーす。」と試しに行ってみたら、

「それ、次の日の朝やんけ!」と突っ込まれた。

 夜中は特にたまらない。

 夜中の3時、携帯に電話がかかる。

「あ……病院です……」

 なぜかひそひそ声でかかってくる。

「先生がCTを撮って欲しいと言ってるんですが、来れます?」

 電話をかける方は必ず『先生が……』などと人のせいにする。

「……はい。」

「どのくらいで来れます?」

「……1時間。」

「じゃ、待ってます。」

 たとえ30分で行けても1時間と伝える、なぜかと言うとすぐには動き出せないから。

 携帯を切るとしばらくふとんの中でまどろむ、すると今かかってきた電話が『夢だったのかな?』と感じてくる。

 でも、現実だと気づいて布団から出る。

 着替えて車に乗り込み、発車。誰もいない道を車を走らせる。

 この時いつも考えることは『自分は一体何をやってるんだろう……』という哲学的な問い。

 誰のために行くのか? 患者さんのため? 自分のため? 医療人としての使命?

 そして病院に到着、いくら遅くなっても大歓迎で迎えられる。

 呼び出したスタッフは起きて働いているのでテキパキとした動きだが、こちらはついさっきまで寝ていたので、動きがワンテンポ遅くなる。

 撮影が終わると引き潮のようにみんないなくなり、1人ポツン……

 でも、変な達成感を感じる。

「帰って、寝るか……」

 病院の外に出ると真っ黒だった夜空が少しだけ明るくなっていた。

 夜中の2時に2日連続で呼ばれたことがある。

 帰ると4時。

 新聞配達の人と顔見知りになった。

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