拝み屋 西条望の心霊ファイル

水月美都(Mizuki_mito)

序霊

 その部屋の中には、禍々しい気が満ちていた。

 一歩足を踏み入れたオレが、途端に回れ右をして帰りたくなる程に。

 覚悟を決めて依頼した両親に向き直り、一人で入らせてくれと頼むと、どこかホッとしたようにその場から離れた。

 部屋の主は、オレが中に入った途端、唸り声とも叫声とも、つかない奇妙な声を発する。


 オレは、経を唱えながら近付いて行く……


「終わりました。もう大丈夫ですよ。こちらに来て娘さんに会って下さい」

 両親が部屋に入り、涙の再会を交わしている間、オレは今にも崩れ堕ちそうな体を、必死になって支えていた。


「本当にありがとうございました。何とお礼を言ったらいいか……」

 しきりに頭を下げる親子に、営業スマイルを見せその家を出た。

 表に停めてあった車に乗り込むなり、口を押さえて吐気と闘う。


「情けないねぇ。お前も、まだまだ修行が足りないよ。」

 苦しんでるオレに、無情な声を掛けた人物に向かい。

「うるせぇ……ババア、早く何とかしろってんだ」

 言葉ほど威勢のよく無い、弱々しい声で応酬する。

「仕方ないね、家まで持ちそうも無さそうだ。これに懲りたら、もう一人でやろうなんて考えないこった」


 激しく後悔をしていたが、生来の気性のため謝るなんて事はしない。ひたすら耐え忍ぶオレ。

 本日初めて、一人だけで除霊を試みたオレ、西条望さいじょうのぞむが、初めて負けを認めた日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る