4
会社で牧原君と再会して最初の金曜日、仕事が終わってから歓迎会が開かれた。いつもは上下関係にうるさい専務も、
「今日は無礼講!」
なんて言って。一番お酒に強そうな顔してるけど、実はあんまり飲めないみたいで。わりと早くに酔っぱらって、しばらく席にいませんでした……。
「ねぇ、高野さんと牧原課長って、どういう関係?」
聞いてきたのは、今井先輩。
私と牧原君は、部署は違うけどよくお昼を一緒に食べていた。ただいろんな話をしているだけで、元鞘の話は、残念ながら。
「高校の時に同じクラスだったんです」
「えっ、高野さんて、アメリカだっけ?」
「いえ、俺が向こう行く前です」
今井先輩は、へぇ~、と言いながら、私に『課長ってどんな高校生だったの?』と聞いてきた。確かに仲良くはしてたけど短期間だったし、それ以前は接触がなかったから、あまり詳しいことは知りません。
「でも、ものすごく優しかったです」
「やっぱり? 見ててもそんな感じ!」
先輩も、ちょっと酔ってたかもしれない。私と牧原君の話を少し聞いてから、今度は別の若い人に話しかけていた。年齢を聞いたり、彼女いるのって聞いたり。先輩、彼氏いるんだから、ほどほどにしてくださいね……。
歓迎会は2時間で終わって、私と牧原君は一緒に帰ることになった。二次会のカラオケに行くっていう人もいたけど。
「なぁ、夕菜」
「えっ……」
突然名前で呼ばれてびっくりした。付き合ってた時は『夕菜ちゃん』だったから。ここ1週間は、『おまえ』とか『高野』だったから。慣れない呼ばれ方にちょっとドキドキしたけど、なぜかもう、牧原君に恋心は芽生えない。
「これから何か予定ある?」
「ないけど……どうしたの?」
「飲み直さない? 3人で」
**********
高校に入ってから数日後、奈緒に彼氏ができた。男の子との関わりをあまり許してもらえない家庭だったから、本当に、私も嬉しかった。
「クローバーの力って、すごいね」
見つけた人は幸せになる、というのは本当だと思った。もしかしたら、神様は見てくれてるのかな。幸せになって欲しい、って思った人にだけ、四つ葉のクローバーを見せてくれるのかな。
「それにさ、葉っぱの形、ハートに見えない?」
「……ほんとだ」
奈緒は、本当に可愛らしくて。女の私から見ても、憧れるような存在で。
「放っとけるわけないだろ!」
って、弘樹はいつも言ってた。誰とでも仲良くするから。すぐに「うん」って返事するから。……それが奈緒の良いところ、だったんだけどね。
だから余計に、奈緒に申し訳なくて。
奈緒が旅立ってから1年後、弘樹は高校卒業と同時に奈緒を卒業すると言った。奈緒がつけていた指輪──弘樹とのペアリングを私に預けて、卒業証書が欲しいと言った。奈緒との思い出を運びながら新しい世界へ向かう列車の、高野夕菜という切符──。
**********
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます