さよならを忘れて〜なにかのなく頃に、憂鬱に別れを告げる方法
霜月二十三
序 マギヤ・ストノストの忘却
序その1 マギヤ・ストノストの相談
今日はカウンセリングの日。
私、マギヤ・ストノストは、幼い頃、目の前で両親を亡くして、その心的外傷を軽減させる? 寛解させる? ……細かい用語などはともかく、こうして時折カウンセリングを受けています。
私としては両親のことはもう気にならないのですが……今日は別のことについて相談したくて――。
カウンセリングルームの扉を開けると、カウンセラーさんが私を出迎えてくれました。
私の担当カウンセラーさんは、両親を亡くしてからの人と、今年の夏終わりか秋始めからの人の二人。
今日は、両親を亡くしてからの人がカウンセリングするようです。
リクエストした白い乳酸菌ウォーターの入ったグラスが置かれ、カウンセラーさんが私の近況を尋ねます。
「これについて相談したくて――」
そう言って私は、黒い花達が入っている口の縛った透明な袋を白いテーブルの上に置いた。
最初にことわっておきますが、この花達は私がカウンセラーさんのために用意した花ではありません。
黒い薔薇、黒いチューリップ、黒いコスモス、黒いパンジー。
花言葉を考慮すると、パンジー以外、人に贈るのにふさわしい花ではありませんし、しかも花言葉が重い花ばかり。
ではなぜ持ってきたか? ……なんと言いますか、「私がこれらを吐いたから」としか言いようがありません。
学園で、この前やっと名前を覚えた同級生の名前を呼ぼうとしたら、胸の奥から凄まじく、物理的に、こみ上げるものを感じ、それを便器に吐き出したら、この黒い花達があったんです。
その呼ぼうとした人の名前は……ウ……また吐き気が……ふぅ。
その人の名前は、ウリッツァ・サンクトファクトル。
その人のことを話すたびに、咳き込むように花を吐いたり、猛烈に花を吐いたり。
この症状の病に心当たりはあります。
嘔吐中枢花被性疾患、通称花吐き病。
けれど分かりません、この病は端的に言うと片想いをこじらせてなるものだそうですが、それなら私はこの前やっと名前を覚えたばかりの人に片想いをこじらせていることに……わけが分かりません。
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