第79話

【アレン】


「今回ばかりは村長さんのお願いでも聞けません……! お願いですから大人しくしていてください」


 どうもみなさんこんにちは。

 蚊帳の外系主人公、アレンです。

 いやもうただの脇役やないかそれ。


 シルフィマンマと勇者パーティの戦闘が開始されました。

 それを遠隔地から【風の知らせ】で遠視しているという……。

 建前はご主人様を守り抜くため、だそうです。

 俺のために奴隷のみんなが命を張っている、との主張です。


 ……ほんまー?

 

 爆睡していたアレンさんはすかさずティナとウリたんに聞き取り調査開始。

【破壊】の勇者がここを嗅ぎつけたのはアレルフィ商会と輝星堂が天文学的な売上を叩き上げ続けているからだ。

 経済を牛耳ろうとしている陰の黒幕がいるかもしれず、その視察に来たと。

 一方のシルフィさんはこれまで帝国に存在しなかった新商品はエンシェント・エルフだからこそ発想できたものだと主張。

 

 商売人が金の成る木を易々と明かすわけにはいかないと。

 だから鬼の九桜を雇い、厳重な監視態勢を敷いていたという主張である。

 なるほど。理屈は通っている。さすが陰の黒幕。絶対権力者。神算鬼謀のシルフィである。


 だがしかし。

 俺は騙せないぞ。

 要するに金の成る木って俺のことやろ⁉︎


 帝国で莫大な利益を叩き出し続ける商品——その発案者である俺を勇者側にスカウトさせへんためやろ!


 そうに違いない! 

 ご主人様を守るためというのは建前。偽りの理由だ。

 本音——真の目的は金の卵を生む鶏系主人公、アレンさんをスカウトさせたいためですな⁉︎


 おかしいと思ったんだよ! 

 自分で言って悲しくなるけど、全然カッコ良いところねえもん!

 この人のためなら命も惜しくない、なんて忠誠心を誓ってもらえるところあった⁉︎


 瞼を閉じてゆっくり思い返してみる。

 農業チート開花で自給自足をし始めたのもシルフィ、生産チート開花で修道院の生活水準爆上げし出したのもノエル。

 商会で桁がおかしい売上を叩き出すのもシルフィ、ノエル、アウラ。


 俺はといえば、好きな時間に起きて、二の腕の感触を堪能したくてリバーシばっかして、フルボッコにされて命令権を強奪されて、誘拐されて、求婚して、拉致られて、治療チートもシオンに持っていかれて、寝坊して……。

 調理チートや暴走天使のときも、おぱんちゅとおっぱいの下心によるもの。


 なーんもない! 

 我輩に命を賭ける理由、なーんもない!

 そりゃ書籍四巻分に差し掛かったのに、全然エッチさせてくれないわけだよ!


 ケッ。どうせ俺は元ヒョロガリクソ童貞ですよ! 非モテの象徴ですよ!

 だからってここまで露骨な扱いをしなくてもさ! 俺だけ除け者にして、酷いよ!


 止まらない不平不満。溢れ出す愚痴。

 きっと俺がモテないのはこういうところだろう。


【風の知らせ】——(視覚が風と同調した)映像を確認するに、なんとシルフィマンマが押され気味である。

 さすがの俺も「嘘やろ⁉︎」と驚きを隠しきれない。

 なにせシルフィは【無限樹形図】を描出したエルフ総出で応戦している。

 おそらく完成したリゾート1stを破壊されないよう【四方聖樹】を展開しながらの戦闘も関係があるとは思う。

 むしろ勇者相手にリゾートを庇いながら応じている現実の方が驚きである。


 というわけで主人公ムーブいきま〜す!

 くくくシルフィ……! どうやらぬかったなァ! 俺の監禁監視を純粋無垢天使ウリたんに任せるとは。血迷ったとしか思えんよ。


「絶対に出て来ないで」だって?


 やなこった! 絶対キャットファイト見てやるもんね! 

 おそらくマンマの懸念は俺が勇者になびくことだ。えちえちをさせなかった弊害とも言える。

 策士策に溺れるとはこのことですな!


 だがここで俺が『家族は見捨てない!』発言をすれば好感度が上昇するわけですよ。

 お酒が入り、理性が緩んだタイミングなら「まっ、一回ぐらいならしてあげてもいいかしら」ぐらいに持っていけるかもしれない。


 ウェルカム トゥ 一夜の過ち。

 どぅふふ!


「ウリたん。よく聞いてくれ。みんなの気持ち(アレン気持ち悪〜い)は嬉しいよ(全く嬉しくない!)。でも奴隷の危機に駆けつけ

てこそご主人様だろ? 頼むウリたん! 俺をみんなの元に連れて行ってくれ!」


 ガシッ!

 どさくさに紛れてウリたんの両肩をタッチ。ちょっぴりチカラを込めます。

 柔こ! ウリたんの肩柔こ! もうちょっと下に手を持っていこうかな。うわ、二の腕もっと柔こ! うぴょぴょ!

 俺を恨むなよ。セクハラ魔をウリたんに預けたシルフィマッマを恨むんだな!(ゲス顔)


「……っ」


 ウリたん複雑な表情。見ようによっては俺を連れて行くかどうか葛藤しているようにも見えます。

 が、おそらく胸中は「ママに汚れ押し付けられた上に触られました! キモいです!」とかでしょうか。

 他の奴隷たちならまだしも天使にまでキモがられてんの? 凹むんですけどー!


「わっ、私はみなさんの覚悟も背負っているんです! こっ、ここを通りたければ私を倒してからにしてください!」


 できるかァ! あんた黒ギャル化したら殺戮堕天使になるやろがい。

 どうやって倒すねん! 【色欲】の魔王幹部ですら手に負えんかったんやぞ!


 ベッドに押し倒すんやったら大歓迎やけどな! 

 露骨なセクハラと無茶な要求に対してウリたんは遠回しに「殺すぞ」とおっしゃれている。いえ、言ってないんですが。

 おそらく無意識での発言でしょう。


 俺を戦場に運輸すればビックボス——いえ、ビックママからの言いつけを破ることになる。あのウリたんですら涙目不可避。

 えっ、マジで目が潤み始めてない? そんなに二の腕掴まれるの嫌だった⁉︎

 ごめんね! すぐ離すから赦して!


「私……もう嫌なんです!」


 ごめん! ホンマごめん! 生理的に無理な男にセクハラされるとか気持ち悪かったよね? この通り! 謝るから! 謝るから泣かないで! 

 マジ泣きガン泣きされたら俺も泣いちゃう。どんだけ嫌われてんのよ。


「【凶悪化バーサクモード】で自我を保てればこんな目(大切なみなさんが戦っているときに見ていることしかできない)に遭わなくても済むんです……!」


 フルボッコにする気やないかい!

 通常verの神短鞭でも十分通用すると思うよ! 俺、マジで最弱ですし!

 オーバーキルいくないです!


「でも村長さんの気持ちも良く分かるんです。私だって同じですから」


 えっ、俺の気持ち分かるの⁉︎ ウリたんのことぺろぺろしてくんかくんかして揉みもみしたい気持ちに理解をしめしてくれるの⁉︎

 天使やないか! ってなんつった今?

 私だって同じですから?


 えっ、もしかしてチミ、俺の身体に触れたいんか? 

 ぺろぺろしてくんかくんかして揉み揉みしたいんか?

 全然、我慢せんでもええんやで? いつでもしてや。逆セクハラとかマジ大歓迎。


 俺は両手を広げて言う。

「行こうウリたん。俺たちでみんなを守ろう」


 ☆


 というわけでウリたんに抱き抱えられながらジェット飛行。

 あの、ちょっ、風圧がつよ……いんですが。なんか付与エンチャントしてもらえません?

 というか、さっきからウリたんがすっごく大事そうに俺を抱き締めてくるんですが。

 えっ、後頭部に顔を押し付けてない? 

 くんかくんかしてない? 嘘やろ⁉︎

 天使って元ヒョロガリクソ童貞でもご主人様にさえなってしまえば愛着が湧くん?

 

 あっ、こら凶悪な胸部装甲を押し付けるんじゃありません! 腕をにぎにぎしないで。


 変態ドスケベじゃん! 

 変態ドスケベ天使じゃん!


 逆セクハラという全く予想していなかった幸運を噛み締めていたからだろう。

 着地のタイミングを見誤る。というかちょっと手を離すの早くなかった?

 

 あぁんっ、アシクビヲクジキマシター。


「いやいや。ただの人間じゃない? まさかあんたが【怠惰】の魔王なわけ?」


 アレンさんの登場により一同の視線が集中します。

 おうふ! 主人公っぽい。

 誰だアレンさんをオワコンとか言ったやつ。まだ始まってすらいねえよ!


 着地に失敗したことで、HPゲージが赤に突入します。


「お初にお目にかかります。えーと、とりあえず聖剣を置いていただけないでしょうか」


 諸君。【破壊】の勇者と【再生】を司る【怠惰】の魔王がいよいよ邂逅ですよ。

 

 あぁー……ションベンちびりそう。というかちょっと漏れてない? もういやだー。


【ウリエル】


 居ても立ってもいられなくなっている村長さん。私のご主人様がこの人で良かったと心底思います。


「ウリたん。よく聞いてくれ。みんなの気持ちは嬉しいよ。でも奴隷の危機に駆けつけ

てこそご主人様だろ? 頼むウリたん! 俺をみんなの元に連れて行ってくれ!」


 私の両肩を掴んで必死の嘆願。

 戦場に出向けば危険な目に遭うことは分かりきっているにもかかわらず、です。

 

 その覚悟が入り混じった熱い視線に私の弱い心が溶かされそうになります。

 私にはシルフィさんたちの覚悟も背負っています。そう易々と頷くわけにはいきません。

 ですが、


「私……もう嫌なんです!」


 みなさんから守られるのではなく、守り抜く存在になりたいと心の底から強く思いました。


 だからこそ、

「【凶悪化バーサクモード】で自我を保てればこんな目(大切なみなさんが戦っているときに見ていることしかできない)に遭わなくても済むんです……!」


「でも村長さんの気持ちも良く分かるんです。私だって同じですから」


 シルフィさんたちのチカラになりたい。本心でした。でもその願いとは裏腹に私にはみなさんを傷つけてしまうかもしれない禁断のチカラがあります。


 その葛藤が涙となって流れてしまいます。

 村長さんは短くこう告げてきました。

「行こうウリたん。俺たちでみんなを守ろう」


 尻拭いはしてやる。だから着いて来いと。

 私ははしたない女です。

 村長さんを必要以上に抱きしめてしまいました。

 チカラ強い決断に女として心酔してしまったんだと思います。

 万が一、【堕天使】となっても一秒でも早く戻って来られるよう、村長さん分(匂いや感触)を補充します。願掛けです


「お初にお目にかかります。えーと、とりあえず聖剣を置いていただけないでしょうか」


 敵意を剥き出しにすることなく丁寧な言動の村長さん。相変わらず余裕です。

 ご主人様に惹かれても仕方がないですよね?

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