第37話

【アレン】


 お昼。

 日も高い中、シルフィと手を繋いで修道院室に向かう。

 精神は肉体に宿るとはよく言ったものである。まさにその通り。

 幼児化した俺の睡眠時間はとにかく長くなっていた。

 平日の真昼間。いい年した男がぶらつくような時間帯じゃない。前世なら冷たい視線の集中砲火だろう。重役出勤も甚だしい。

 

 だが、しかし、現在の俺は、

「おはようアレンくん!」

「アレンくん!」

「アレン様!」

「アレンちゃん!」


 キミらホンマにショタ好きやな。ノーマルアレンさんのときよりも数倍キラキラしとるがな。

 俺の姿を視認するや否やわらわらと駆け寄ってくる奴隷のみなさん。

 あっ、こら顎スリスリすな! 撫で撫ですな! ペタペタあちこち触るな!

 俺の精神年齢がかろうじて大人だからこそ許されているが、幼児に容赦なく触れてくるとか犯罪臭ぷんぷんやぞ!

 この変態奴隷たちめ! 


「ザコの僕。お姉ちゃんと……良いことしちゃう?」

 

 メスガキ鬼の凛ちゃんがミニスカの裾を掴んでチラリしてくる。

 傷ひとつない健康的で柔らかそうな太ももが大胆に露出する。


 はぁー。やれやれ。甘く見ないでもらえます? まさか絶対えちえちしたいマンの俺が幼児化を甘んじて受け入れているとでも思っていらっしゃる? 舐められたものですね。


「抱っこ!」


『きゃー!』


 甘えるような仕草で言い放つ俺に女性陣から尊いお叫びが上がります。

 アレンさんはこれをきゅん悲鳴と名付けました。

 前世だと女性の後ろに立っただけで「きゃー!(金切り声)」と叫ばれていた同一人物とは思えない反応です。

 諸君。女性に秘められた母性は偉大である。


 あー、ちょっと。押さないで。慌てないで。痛いです。腕を引っ張らないで。落ち着いてください。みんなのアレンさんは逃げませんよ。


 クソガキアレンを奪い合う奴隷のみなさん。抱き寄せるや否や頬ずりから始まり、お乳様がグイグイ押し付けられます。

 あー〜〜〜〜〜〜〜〜柔らけえぇぇっ! たまんねえですよこの感触。突き立てのお餅のように柔らかくて、頬を弾き返さんマシュマロ弾力。むにゅ、ぐにゅうと歪む脂肪。たまりませんがな。

 えっ? 羨ましい? 交代して欲しい?

 ならば徳を積みなされ。こちとら何の努力もなしに確変タイムに入ったわけじゃないのでね。


 異世界転生してから爪を隠し続けたからこそ至れる境地なんでね。悔しかったら男をみがいたらどうでっしゃろ?

 女神「アレンさんは一度も爪を見せたことありませんけどね。それより女神界に遊びに来ませんか? 特別に抱っこしてあげますよ?」

 女神、お前もか! 俺の周りショタばっかじゃねえか!

 

 美人(美少女)が奪い合いという初めての経験に当然俺もホクホクである。

 シルフィとノエルに現代知識を搾取をされ続け、拉致られまくり、何度も無能を露呈し、無様な姿を晒してきたにもかかわらず、幼くなるだけでこの好遇である。

 なるほど。薄い本で幼い僕とお姉さんの危ない関係が後を立たないわけである。ショタ転生アリかもしれません。


 とはいえ、いつまでもこの姿とはいくまい。

 というのも俺の約束された勝利の息子——エクスカリバーがえくすかりぱーになってしまっているのである。

 これを装備していると必中でボディタッチできるのだが、男としての性的アピールが1になってしまう。

 しかも全然反応してくれないのだ。そう勃たないのである! 生殺しじゃねえか!


 おそらく奴隷のみなさんも俺の下半身が見事に幼稚化していることを見破り、母性とショタ養分を補充し、満たされているんだろう。

 間違いなく興奮しているにもかかわらず、反応しない肉体。なるほど。EDに悩まされるハゲの気持ちが痛いほど理解できる。

 髪を散らかし回るだけでも辛いのに、男としての機能を失うのはもはや死刑宣告と言っても過言じゃないだろう。合掌。南無阿弥陀仏。


「小さな村長さん。今夜は私と一緒に寝ますか?」

「ティナ! 抜け駆けはダメよ⁉︎」

「でもエリーさんだって——」


 当分はこの姿のままでもいいかもしれない。

 幼アレンとなった俺は愛くるしい外見を武器に「僕ね、一人で眠れないんだー」などと下心ありよりのありで言ってやったのだ。

 おそらくそれがズキューン♡したのだろう。食っちゃ寝ボディタッチリバーシはネグリジェ日替わり同衾どうきんに進化である。

 朝——と言ってもお昼なのだが、目が覚めると肌着姿の奴隷のみなさんがすぐ近くで「おはよう」と挨拶してくれるのである。

 眠気まなこをこすり女の子、うーんと伸びをして凶悪な果実を強調する女の子、俺を抱き枕何かと勘違いして抱きつく女の子。

 

 天国である。目が覚めたら昇天しちまったのかと本気で疑うほどである。これで宝具をぶっ放せたら何も文句はないのだが、それが唯一にして最大の欠点である。


「ダメよティナ。今日の予約は九桜に決まっているんだから」

 とシルフィ。

 改めて恐ろしい女である。


 この作戦は間違いなく彼女が立案したものだ。リストラ計画を妨害、雇用を継続しつつ、奴隷の弱点であるえちえち命令を物理的に禁じる。

 見た目を幼くすることで、下半身を無効化。奴隷たちの持つ母性を引き出し生理的に無理な俺を愛でる対象にしてみせた。

 おかげで目の前にぶら下げられた餌——幸せすぎるボティタッチと目の保養により俺は仕事に精を出すようになっていた。知識を提供したり、相談を聞いたりやシルフィが99.9%片付けた仕事の最終判断を下すだけの事務処理である。


 ぶっちゃけ上がってきた報告書に承諾するだけと言っても過言じゃない。とてもじゃないがIQ287の処理能力に追いつけるわけがない。

 下処理や実務はシルフィやノエルを始め奴隷たちが終わらせている。いつの間にか自動化、いや自働化する環境が出来上がってる。


 しかし、このままハンコおじさんでいるわけにもいくまい。元の姿に戻るためには黒ずくめのシルフィからやればできる存在であることを証明しなければならない。

 無能が有能を演じなければ元の姿に戻れないという。キチいぜ。いくらなんでも容赦がなさすぎる。俺が一体何をしたというのか。あっ、奴隷五十人の雇用契約を切ろうとしたのか。むしろ当然の報いということか。凹む。


 さて、そんなわけで新たに加わった鬼二十五人を合わせた七十五人をしばらく雇用し続けなければならなくなったわけで。

 そうしないと元の姿に戻れなくなったわけでして。

 エッチするまでは死んでも死に切れない俺は珍しく真面目に考えてみることにした。


 あらかじめシルフィにお願いしておいた資料——修道院の現況を再確認する。


【人財】

 村長…アレン(現在、幼アレン)

 破損した肉体を【再生】可能

 他、特筆すべき点なし(クソが!)

 バカの一つ覚えが得意(バカすぎる!)


 エルフ奴隷25名(【無限樹形図】描出済)

 エンシェント・エルフ1名…シルフィ

 ハイエルフ1名…アウラ


 自然に愛された種族

 全エルフ固有属性【木】発動可能

 最も得意な属性【風】次点【水】、【火】【土】も申し分なし。

 ただし、万物の根源である【土】はドワーフの方が適性あり


 ドワーフ奴隷25人

 エルダー・ドワーフ1名…ノエル

 ドワーフスミス1名


 モノ作りが天才的な種族

 全ドワーフ固有属性【金】発動可能

 次点【土】【火】


 派遣された鬼25人

 幻鬼1名…九桜

 黒鬼1名…凛ちゃん


 偵察、諜報、隠密、気配遮断・察知、闇魔法を得意とする種族 

 剣術の達人

 ジャパニーズ文化に通ずるところあり


【農作物】

 大豆

 小麦

 芋(じゃがいも・さつまいも)

 綿

 サトウキビ

 米 NEW


 ※エルフの【発成実】と【水創造】により24時間365日栽培可能。栄養補給のみ課題


 ※肥料はドワーフが錬金術で錬成

 材料の綿実油粕、大豆油粕は修道院内

 魚かす、肉骨粉はシルフィ安価で調達


【料理】


 ジャぱん

 ポテトチップス

 わらびもち

 きな粉

 日本酒


【娯楽品】


 リバーシ

 囲碁

 将棋

 チェス

 ジェンガ


 ※全て帝都流通済み

 現在は使用料の振込額は一定

 どうやら爆発的に普及したようだ


【商会】

 所在地…帝都

 アレルフィ商会 会頭…シルフィ

 主力商品 娯楽品、ポテトチップス、

      ジャぱん、わらびもち


 輝星堂きせいどう 代表…アウラ

 主力商品 乳液


【提携】


【色欲】の魔王…九尾

 アレンを【怠惰】の魔王に推薦……?


 アラクネ姉…ネク

【色欲】の魔王幹部の一人

 蜘蛛モンスターの食糧(主に芋)&ラアに衣類や衣服の製作委託、完成品の売上と引き換えにアラクネ&蜘蛛型モンスターの糸並びに縄張りの森を提供


 アラクネ妹…ラア

 ネクの妹

 染織せんしょくの天才。「染める」「織る」「組紐」「刺繍」と抜かりなし!

 糸を定期的に納品


 修道院並びに帝都販売の衣類・衣服製作における最高責任者


【資産】


 設備 

 紡績機、織機


 土地

 アラクネ姉妹から広大な森を賃借


 酒蔵


 預金

 天文学的数字

 

【労働内容】


 エルフ

 【発成実】【水創造】を中心とした農業

 シルフィのアレルフィ商会&アウラの輝星堂のお手伝う

 結界による修道院監視


 ドワーフ

 肥料錬成

 耕転(土魔法発動による)

 モノ作り全般

 現在は酒蔵に必要なものを調整、設計中


 鬼

 修道院の監視

 日本酒づくり


【貯金】

 天文学的数字w

 

 いや、チート過ぎだろ。

 はっきり言えば現状維持でも十分に遊んで暮らせる環境と資金だ。


 だがしかし、エルフはとにかく退屈を嫌う種族。好奇心旺盛なのだ。できれば性欲も旺盛であって欲しかったのだが、色気より未知。中でも陰の黒幕シルフィは俺を【怠惰】の魔王に推しながら本人は真の魔王に君臨するつもりである。


 ポロッと漏らしてしまった統合型リゾート(IR)に食いつき、咥えて離さない。そういうのは俺の約束された勝利の息子だけにして欲しい。今はえくすかりぱーだけど。


 さらにドワーフも厄介だ。いや、厄介などという言葉を使いたくないのだが、彼女たちはことモノ作りになると、ワーカーホリックなのだ。

 俺の頭に前世の偉人たちが積み重ねて来た知識があることを知っているため「新しい発明をさせろー」「モノ作りさせろー」「開発はまだかー」と尻を叩いてくるのである。


 諸君。立場が下の者が上司を突き上げるのもある種のパワハラである。パリーグなのだ。絶対にしないように。


 そんなわけでIR実現もあながち夢や幻ではなくなりつつあるように思う。これが良いことなのか悪いことなのか。もう今の俺では判断しかねる。感覚が麻痺ってきたのかもしれん。もうどうにでもなればいい。だって俺、見た目は子ども、頭脳も子どもだもん。アレン、難しいことわかんない。


 とはいえ、ローマは1日にしてならず。

 目指すはゆっくり急げである。

 幸い、エルフは興味津々、ドワーフは働く気満々。焦らずとも一つずつ形になっていくことだろう。目の前の小さなことから積み上げていこう。俺はそれすらもできない無能だけど。


「まずエルフのみんなが当番してくれている結界は廃止にしよう。農業に集中させるのが良いかな」

「今後の監視体制はどうするの?」


「監視蜘蛛の【振動察知】は維持しつつ主担当は鬼に任せるよ。九桜に確認したら俺の護衛を24時間365日体制でやるらしい。修道院の監視の責任者は彼女の弟子で上位種、黒鬼の凛ちゃんがしてくれるって。とはいえ、有事に鬼だけ戦わせるわけにはいかないから就寝時間になったら監視蜘蛛が室内のベルに糸を張ってもらうことにしたから。何かあったら叩き起こされることになるけど、それは赦してね」


「わかったわ。警報発令と同時にどう対応するか、手順をエルフとドワーフ、もちろん鬼とも共有しておくわ」


 さすフィ。物分かりと仕事が早すぎる。

 この口だけしか動かさない仕事が終わったら抱っこをねだってみようかな?

 無理かな? 働いてねえくせに要求ばっかしてんじゃねえぞ。殺すぞ、とか脅されないよね? 幼アレンだとご褒美だって言ってたし、大丈夫だよね? 嘘じゃないよね?


「次にアウラには下着と生理用品分野に進出してもらうことにする。前者はブラジャーを後者はナプキン。主にラアとネクの連携だね。金具の取り付けもあるし、もちろんノエルたちの出番もあるかな」


「その様子だと他にも方針があるのね?」

「……うーん。まああるにはあるんだけど」

 とチラッ。物欲しそうな瞳でシルフィをチラ見。

「なにかしら? 私でできることなら何でもするわよ」


 諸君、聞いたか! 言質を取りましたよ!

「帰るとき抱っこしてくれたら話すよ」

 よく言った! よく言ったぞアレン!

 やはり精神は肉体に宿る。この身体と容姿だと素直に甘えられるんだよな。結構いいかも幼児化! 

 さあ、どうだ!


「ええ。そのくらいなら喜んで。だから話の続きを聞かせてもらえるかしら」

 やっ、ややややったぜ!!!!!! 

 ショタ万歳! ショタ大歓迎!!!!

 諸君、修道院で最もお美しくスーパーモデルも霞むであろうシルフィ様から抱っこを引きずり出しました! 怖い者知らずとは俺のことよ! やったぁぁぁぁ! おもいっきりおっぱいの感触楽しんじゃうもんね!


 現代知識と引き換えに抱っこを獲得。

 ショタアレンになることでシルフィの生理的無理ゾーンを脱し、生理的にギリ許容ゾーンを勝ち取ってやりましたよ! ぶははは!

 ぶへははははは! 


「どうやら九桜たち鬼も日本酒の製造にドップリはまり込んじゃってさ。自分たちが納得がいくものが完成するまで待って欲しいんだって。俺が命名の【鬼殺し】が完成したらアレルフィ商会で扱ってもらおうと思うんだ。だからドワーフのみんなにはガラス製法を伝えようと思う」


「まさか日本酒を入れて販売する気かしら? ガラスは高級品よ?」

「回収——リサイクルって言うんだけど、日本酒が気に入った客には空になったガラス瓶と引き換えに商品の価格を下げるようにするよ。【浄化】して再利用すれば新たなにガラスを作る量も抑制できるだろうし」


「わかったわ。詳細を聞かせてもらえるかしら。すぐに召集するわ」

 とシルフィさん。【風の知らせ】という意思疎通の風魔法。

 すぐに、

「呼んだかアレン!」「呼ばれた」

 とラアとノエル。


 合流が早すぎる。というか【風の知らせ】という風魔法でしたか? 社員間で自由に連絡できるネットワークみたいなものですよね? それ、一番最初に展開しないといけない人、つまりご主人様であり、この修道院の代表でもあるアレンさんをお忘れではなくて?


「アレンは魔法を発動できないでしょう」


 お忘れだったのは私の頭の方でしたね。

 残念です。色んな意味で色んなところが残念です。主に股間と脳が。


 いや、もうマジでネグリジェ日替わり同衾がなかったら、そろそろ首吊ってたところですよホンマに。


【あとがき】


 修道院の現況、結構書き漏らしたことがありそうです。気軽にこれ抜けてるよ、とコメントください。「それだ!」は加筆します。

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