第27話

「何から説明しようか……そうだな。まずは名乗らせてもらおうか。私は九桜くおう。手荒な真似をしてすまない。だが、こうするしかなかったのだ」

 

 まず猿轡さるぐつわ外せや。


「うー! ううー! ううう!」

「悪い。あまりにも自然だったから忘れていた」


 猿轡が自然ってなんやねん。お前いい加減にしとけよ。

 ちょっと、いや、かなり凛とした美人だからって何やっても帳消しになると思ったら大間違いだからな。

 クソッ、ポニーテール大和美人が誘拐犯とかなんのご褒——拷問だ。いい迷惑だぜ。アレンまいっちんぐ。


 だがこれだけは言っておくぞ。

 いくら俺が女に甘いからって伝家の宝刀【再生】をすぐに発動するような軽い男だと思わないことだな!


「赦してくれとは言わない。だが、もし村に蔓延した謎の病から救ってくれるなら。この通りだ」


 大和美人、それも凛とした鬼が俺に頭を下げてくる。

 煮るなり焼くなり……それはつまり俺の奴隷になっても良いと?

 ふむ……綺麗な脚してますね貴女。


 なるほど。色仕掛けですか。

 やれやれ。そんなものに何度も何度も引っかかるアレンではないわ!


「話を聞こうか」


 女神「誘惑に弱すぎィ! お前本当に美脚好きだな! きっしょ」

 ぶっ○すぞピー


 どうもみなさんこんにちは。

 しばらく前回までのあらすじをやっていませんでしたので、挿入してみたいと思います。

 えっ? 俺の物語が気になるから早く進めてくれ?


 たしかに俺もいつの間にか1万人以上の観測者が動向を追うような異世界転生者。主人公ですからね。

 最弱系でよくぞここまで辿り着いたものだ。全力で褒めてやりたい。

 だってヒロインちゃん、たまにしか褒めてくれないしさ。アレン承認欲求不満。

 思い返してみれば長い道のりだよ。必死に日銭を貯めて買った奴隷たちが覚醒してさ。次々に活躍の場を奪われたの。こんなん拗ねるに決まってるよね?


 ハッ、いけない。振り返ってみたら、色んな意味で遠くまで来たものだと感慨深くなっちゃった。切り上げよう。

 お約束通り、前回までのあらすじは手短に行きますね。アレン約束守るタイプの男なんで。

 出血大サービス。たったの8文字で的確に説明してやりますよ! いくぜ——、














 ——壊れかけのアレン。


 以上、前回のあらすじ終了。

 これで俺の身に何が起きたのか一瞬で復習できた観測者はどうかしてるぜ☆


 女神「アレンさんは猿轡さるぐつわがデフォでも違和感ないようですよ……ふふっ、あははは! お腹、お腹いたいよぉ」

 いつか貴様をヒイヒイ言わせてやる。ベッドの上でヒイヒイ言わせてやる!


 女神「えっ、そんな⁉︎ もう休憩時間終わりですか⁉︎ 私の転生担当者の子がこれから楽しそうなことになってるんです! 時間休を! 時間休を申請——ああっ、ちょっと先輩、羽衣引っ張らないでください! 伸びちゃう、伸びちゃう! 私の一丁羅が!」


 なんか知らないが早速女神が痛い目にあっている。ぶははは。いい気味よ。俺を愚弄した罪を償うがよい。

 だいたいお前、俺がピンチのときに欠かさず話しかけてくるとか暇人じゃねえか!


 女神「それはその……アレンさんは無能ですし、心細いかと思って。せめて不安を少しでも和らげてあげようと世界に介入できない私なりの精一杯だったんですけど……ご迷惑でしたか」


 女神ちゃん……!

 

 女神「これからもちょっか——アレンさんとお話ししたいです(潤んだ瞳)」

 

 女神ちゃん……! 

 ……まっ、まあ俺も? 別に本気で迷惑とは思ってないし? 

 なんだかんだピンチのときに気を紛らわせてくれる女神にはそれなりに感謝もしてるし? 

 この関係気に入っているというか、感謝してるっていうか……だからその、俺たち付き合っちゃう、みたいな?


 ブチッ。

〈女神ネットワークが切断されました〉


 お前マジで地獄に叩き落とすからな——人生ゲームで。ここから生きて帰ったら覚えとけよダボ(方言)。


 女神の切断厨っぷりにイライラがMAXになった俺は意識を現実に戻す。

 九桜と名乗る美脚美人はここなら俺が暴れ回っても対処できると判断したのか、両手両足の拘束も解いた状態だ。


 おのれ……俺がここから逃亡できないほど最弱の無能だってか? その通りだよ!


「まずはいくつか質問させてもらえる?」

「スリーサイズは——」

聞いてねえよ」

? うむすまない。脚に視線を感じたような気がしたのでな。早とちりした」


 いかん。切断野郎に思っていた以上に怒りが溜まっていたらしい。俺の好みのボケに本気でキレて返してしまったらしい。

 せっかく大和美人の方から願ってもない情報を暴露しようとしてくれたというのに。勿体無い。

 まあいい。どうせ直接聞かずとも俺には魔眼【全部視えてるぜ】があるからな。とりあえずFカップはありますな。埋もれパイ! いや埋もれたい!


 いやいや。それよりもむしろ脚見てたのもうバレてんのかよ。

「えっと。ごめん。ちょっと別件で腹を立てることがあって。ここはどこなの?」

「倭の村だ」


 知らねえよ。倭の村だ(凛!)じゃねえんだよ! そもそもこっちは【色欲】の魔王さんが直々に足を運ばれる日に拉致されてんだぞ。本当に大丈夫なんだろうな。


「俺がいた修道院からどれくらい離れた場所なの?」

「そうだな。全力の影移動でも三日三晩はかかっている。測ってはいなかったので正確には答えられない。何百キロメトルは離れているだろう」


 めっちゃ拉致られてるんやん。

 諸君。もう一度思い返して欲しい。シルフィとラア、ネクたちの言動を。

 風魔法の結界で修道院全体を監視、監視蜘蛛の張り巡らせた蜘蛛糸による振動察知。

 無能院長は誰にも連れ去られない! (ドヤ)だったはずだ。

 これだけの監視体制、環境でさえ村長は誘拐されてしまうほど雑魚ということか。誰か嘘だと言ってくれ。


 なにせここには俺を連れ去ることができた事実があるわけで。

 率直に九桜に聞いてみることにした。これで「監視体制? そんなものは一切なかったぞ」などと打ち明けられた場合、俺はもう修道院には死んでも戻らない。

 大嘘つかれてめっちゃ嫌われてとるやんけ我。


「いやいや。貴様のいた修道院はなかなかの安全保障セキュリティだったぞ。風魔法により空気が五感同調されていたからな。24時間当番制になっていたおかげで切れ目も死角もない。空気に触れた時点で侵入者が映し出される。風操作に関して精細緻密なエルフたちだからこそ張れる結界だろう」


 疑ってごめんねみんな。しかも24時間当番制で見守ってくれてたの? 

 しっ、知らなかった……! 今度から深夜番の子たちの家には立ち寄らないようにしなきゃ。

 こっちはてめえの保護監視で寝不足だってのに、リバーシなんてやってられるか、とか言われそうだし。

 クソッ、言ってくれたらバカな俺でも気ぐらいつけれたのに。これでは完全に気の利かない男である。


 女神「道理でモテないはず——いやあ先輩! 羽衣! 羽衣はやめてくださいってば!」


 強制遮断された恨みは一生忘れないからな。先輩女神さんの目を盗んで話しかけずにちゃんと仕事してろ。夢で待っとくから。


 女神「女たらし」

 こいつ……!


 九桜は嬉々として安全保障セキリティがどれほど高かったのか、説明を続けてくる。


「そうそう。張り巡らされた蜘蛛の糸。あれも厄介だったな。なにせ微かな振動でさえも察知する。あれにより風と同化して監視をすり抜けるというエルフたちの盲点も潰されていた。うむ。今思い返してみても素晴らしい」


 あっ、そうですか。そうなってくると反対に申し訳なさしかないんですけど。

 それに何者だよ九桜さん。あんたの方が凄えじゃねえか。


「よせ。照れる」

 手放しで褒めたわけじゃねえよ。お前言っとくけど拉致という犯罪を犯したことを忘れんなよ。

 撫子美人だから口には出さないけど。俺が女に甘い性格じゃなかったらパンパンやな。


「結論から言うと私は鬼だ。鬼の起源はおぬでな。昔から潜むことに関しては天下一品なのだ。あの修道院に唯一穴があったとすればぬしがなんの対策もせずに呆けた顔で眠っていたことだろう。まあ、そのおかげで影に落とすことができたわけではあるがな」


 ほらやっぱり原因俺じゃん。なんの対策もって言われても俺固有スキル【再生】しか持ってませんし。

 それもなんか微妙に使いずらい制限付きですし。やっぱり魔法を発動できないってどう考えても弱すぎると思うのアレン。


 あと、自然ナチュラルに毒吐いてんなお前。呆けた顔とか言う必要あった?

 とはいえ、状況は掴めてきた。

 結界もきちんと張られていたようで一安心だ。これで俺はシルフィたちにとって少なくとも利用価値のある存在であることは証明された。

 大金を生み出す現代知識が尽きないうちは生脚やファッションを楽しめそうだ。いつかは俺を捨てる算段かもしれないが、心理効果に単純接触というものがある。


 これは接触する機会が増えれば増えるほど好感度も上昇するというもの。

 気がついたらアレンの子を孕んでいた、という既成事実で一発逆転を狙ってやりますよ! ぐへへ。


 ゲスがひょっこりはんしたところで頭を切り替える。

 とりあえず連れて来られた場所が修道院から遠く離れた先だということがわかった。加えて九桜の補足によれば拉致してから三日が経過しているとのこと。


 影の中には特殊な空間になっており、俺が徳永アレンになっていた体感時間と大きな差があるとのことだった。いや、そもそも徳永アレンってなんや。


 さらに九桜は倭の村に蔓延する謎の病と口にしていた。そこに【再生】持ちの俺が誘拐された事実。

 チートのことを直接彼女に明かしたわけではないが、隠の天才なら修道院で観察済みだろう。今さら確認するまでもない。

 彼女の望んでいることも手に取るようにわかる。

 

 九桜が口にした自己犠牲も嘘ではなさそうだ。なんと【聖霊契約】を持ち出してきた。

 諸君。筆おろしの日は近いぞ! うひょ。

 ただ、心配なのは修道院である。よもや三日も経っているとは思わなかった。


 女神の切断厨により俺もブチ切れてしまったわけで【色欲】の魔王様のご機嫌が気になる。

 火の海になっていなければいいんだが……。

 そこはシルフィさんたちを信じるしかない。もしも怒り狂うなら【再生】持ちの俺に当たって欲しい次第だ。

 俺ならいくらでも復活できる。


 シルフィさんたちは一度売れ残りの奴隷、不良債権にまで落ちてしまった過去がある。できればもう二度とあんな目に合わせたくない。トラウマだって出来ているだろう。フラッシュバックをさせたくない。

 できえば笑っていて欲しい。

 リストラ計画を企てるなど相反している気もするが、もちろん本音である。


 とはいえ、身を案じていても事態は変わらない。俺は俺の環境で全力を尽くすしかない。

 九桜も拉致という犯罪の意識がある以上(あるよな?)村の様子を確認する前に修道院に帰してくれと言ったところで応じないだろう。当然だ。

 前世で「お兄ちゃんって本当にお猿さん以下だよね。一緒にお風呂入ろっか」と罵られたことのある俺でも理解できることだ。

 高校に進学したあたりで美月ちゃんは混浴願望が強くなっていた。もしや俺を性犯罪者に仕立て上げるつもりだったのではあるまいな。


 閑話休題。

 幸い俺は【再生】というチート持ちだ。

 九桜の求めていることに応えられる可能性は高い。当の本人も己の命を差し出してまで村人を助けたいと願うような鬼だ。

 心の底から悪いやつというわけではないだろう。

 色々と気になることや納得の行かないこともあるが、行動に移さない限り進展はない。


 やれやれ。どうやら俺はやれやれ系主人公のようですね。

「それじゃとりあえずその謎の病を患った村人のところまで案内してくれる?」

「! 恩にきる! えっと——」

「アレンでいいよ。俺も九桜って呼ぶけどいいかな?」

「あっ、ああ! よろしく頼むアレン」


 結論から言うと俺はこの一件で思わぬ収穫を手にすることになる。

 やった! もしかしてえちえち展開⁉︎ 


 女神「んなわけねーだろ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る