第9話
アレンです。
シルフィを商業ギルドに登録してから二週間が経ちました。
最近のマイブームは将棋です。シルフィに飛車、角、銀、桂馬、香車抜きでお相手してもらってます。
「ふふっ。頭の準備体操にピッタリね」とのことです。
サラッと煽られる雑魚男、アレンとは俺のことだ!
クソッ! シルフィといいノエルといい、一体どんな頭の構造してやがる。
俺はただ二人の服を脱がしたいだけなのに! マジでムカつく!
だが調子に乗っていられるのもここまでだ。娯楽TUEEEが出来ないなら他のチートに移行するまで。
俺は考えた。足りない脳みそを振り絞り必死に考えた。どうすればシルフィとノエルが脱いでくれるのか。
その答えは、酒だ。アルコールである。火照る躰。緩む理性。次第に多くなっていくボディタッチ。「ちょっと。どこ触っているのよ、あんっ」と絹のような肌に手を忍ばせ、気がつけば生まれたままの姿。
これだ。これしかない。元ヒョロガリクソ童貞の俺にシラフは不利すぎる。
「それじゃアレン。今日も行ってくるわね」
「行ってくる」
えっ、あのちょっとお二人さん⁉︎ 最近チミたち自主性に歯止めが効かないね⁉︎ どこ行くの⁉︎ ねえ、どこ行くの?
僕も連れて行ってよ!
☆
定年退職したお爺ちゃんが退屈過ぎて買い物に出かける奥さんに引っ付き回る気持ちがよくわかる。
暇だ。退屈だ。誰かと話したい。誰かと遊びたい。独りぼっちはもう嫌だ。
だいたいシルフィもシルフィだ。ご主人様の許可も取らずに何勝手に帝都へ出かけて——。
そこで俺はハッと気づく。シルフィは資金が底を突きかけていることを知っていた。
俺の【再生】開墾、シルフィの植物チート、ノエルの肥料&農具錬成により、食費の負担こそ軽減されたとはいえ、決して贅沢な暮らしはさせてあげられてない。
しまった! バカバカバカアレンのバカ! どうして自分のことしか考えられなかったんだろう⁉︎
シルフィとノエルは女の子。美味しいご飯だって食べたいだろうし、ファッションや化粧もしたいに違いない。
リバーシ、将棋、囲碁なんてお爺ちゃんしか満足しないゲームじゃん!(←偏見&失礼)
そうか。最初から答えは出てたんだ。ご主人様である俺に接待プレイはおろか、ボコボコのボッコボコにしてきたのは「こんな爺くさい遊びつまんねえんだよ!←(やっぱり失礼)」っていうメッセージ、いや、悲鳴だったんだ!!!!
やっ、やってしまった……!
女の子とゲームができるだけで楽し過ぎた俺は「楽しいねシルフィ/ノエル」なんてずっと声をかけちゃってた‼︎
そういえば彼女たちのはしゃいでいる姿を見たことがない!
シルフィはクールに「そうね」と答えるだけだしノエルも「楽しい」とそんな風には見えない素気ない返事だった。
あれ、これめっちゃ痛い男じゃね?
前世で例えるなら、娯楽で溢れ返っているのに「おはじきってめっちゃ楽しいよね♪ 一日中だって出来るよ」みたいな感じじゃない⁉︎ いや、戦後かよ!
そりゃシルフィやノエルが俺に愛想を尽かしても仕方ない。
やっべ!
俺の脳内に嫌な想像が広がっていく。貯金を取り崩す日々。資金は底を突きかけ、衣食住の保証義務のあるご主人様は食っちゃ寝リバーシ。嫌々オーラを発しているにもかかわらず、性懲りも無く対局を申し込む雑魚主人。
もしシルフィとノエルがもっとキャピキャピするためにお金が必要だとしたら?
そのためにご主人様に代わって帝都に出稼ぎに来ているとしたら……?
まっ、まままさか躰を売りに⁉︎
いっ、嫌だああああああぁぁぁぁ!
シルフィとノエルは俺のもんだ!
俺が五年間汗水流して買った初めての奴隷だぞ⁉︎
何一つえちえち展開もないのにその奴隷たちは娼館で出稼ぎとかなんの悪夢だ!
嫌な妄想に取り憑かれた俺は全身に汗を流しながら全力疾走。なるほど。これが生活のために水商売をせざる得ない恋人を持つ彼氏の気持ちというやつか。
辛すぎる!
このときの俺は周りが見えなくなっていたので、帝都中が異様な熱気に包まれていることに気がつけなかった。
彼らは視線を落とし、何かに夢中だった。
結論から告げるとシルフィとノエルは娼館にいるわけもなく(そもそも奴隷は主人の許可無しに働けないようになっている)、商業ギルドと錬金ギルドにいた。
「シルフィ! ノエル!」
二人を発見した俺は汗を拭うことさえ忘れて声を張り上げる。
必死過ぎて童貞丸出しだ。
彼女たちは俺の突然の来訪に両目をぱちくり。
「そんなに慌てて……何かあったのアレン?」
「食べたいものや欲しいものはない? 何でも言っていいよ!」
考えてみればこれはこれでダサいんじゃないだろうか。
美人(美少女)を金や物のチカラでしか繋ぎ止められない男。女性からしたらどう写るだろうか……! ステータスの一つではあるんだろうけど。
いや、そんなことを考えている場合じゃない! 今はとにかく償いだ。
元々はやりがい、金、性を搾取するつもりだったけど、俺はあまりにも彼女たちに与えてなさ過ぎてた……!
俺が美味しい思いをするためにはまず、二人の女の子が楽しい生活を送れるように頑張る視点が抜けてた! アレン反省した! 働きたくないけど頑張って働くから!
だから!
恐る恐る視線を上げると、シルフィは薄ら涙を浮かべていた。
「嬉しいわ」
泣くほど欲しかったものがあったんですかシルフィさん⁉︎ 極貧生活はそれぐらい辛かったですか。そうですか。全力で申し訳ない。
猿より弱いくせに対局ばかり申し込んでごめんね! 辛かったよね。俺も辛い。
本当はもう泣き叫びたかったけど男の意地でなんとか我慢したよ。
ただ、この騒動よりも衝撃的なことが後に待っていた。
契約上、主人になっている俺の口座に300万ドールが振り込まれていた。
この世界の通貨単位はドールで、1ドールあたり100円の価値がある。
えっ、ちょっと待って⁉︎ ということは0を2つ足して……3億⁉︎ なんで3億円も俺の口座に振り込まれてんの⁉︎
そこで俺はようやく帝都中が包まれている熱気の正体に気づく。
彼らはリバーシ、チェス、将棋、囲碁、ジェンガを喰らいつくように遊んでいた。
ん? んんんんんんんんんんんん????
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