第8話

 女神「非モテのままでよろしいのですか?」

 俺(アレン)「今のままではいけないと思います。だからこそ俺は今のままではいけない」←ドヤ顔


 女神「モテるためにどのような対策をお考えですか?」

 俺「女の子にモテるためには楽しく、クールでセクシーでないといけないと思います」


 女神「www」

 俺「なに鼻で笑っとんねん」


 女神「シルフィが農業を、ノエルが工業で活躍している現状については?」

 俺「私、芋が大好きなんですよね。一緒に芋を食べましょう。いいの? って顔、嬉しかったですね」


 女神「(芋関係ない!!)貴方が何もしていない現状にどう対応していくのかを伺ったのですが。私は芋の話は聞いているつもりはないんですよ?」

 俺「それも絡みますから」


 以上、女神との漫談でした。

 おはようございます、アレンです。

 ちょくちょく夢の中で会いにくる女神がウザいです。

 まあ、お笑い好きでビックリするぐらいの超絶美人だから役得ではあるけどさ。

 女神「反省はしていますが、反省が見えないという自分に対しても反省しています」

 もういいからァ!


 さて、それではみなさんお待ちかねのぼやきから。

 威厳を見せつけるため全力にもかかわらず、脱力男だと思われていることなんて夢にも思っていない俺、アレンは焦っていた。

 えっ、あの、シルフィとノエル⁉︎ ちょっと自主性が出過ぎじゃない。キミたちもう俺の奴隷だってこと忘れ始めるよね?


 女の子の服を脱がすため、発案した娯楽——リバーシ、囲碁、将棋、チェス、ジェンガは見事に俺をフルボッコするための道具へと変貌。尻の毛まで毟り取られたのは俺の方だった。

 今では無制限待ったという舐めプでも完膚なきまで叩きのめされるという……。

 両目の光と左腕を【再生】し、食料を恵んでいたご主人様に「お前弱いだろ」と煽る奴隷たち……イジメやで? 君たちは楽しいかもしれないけど被害者は心の中で泣いてるんやで? なんでこんな酷いことできるん?

 お願いだから服を脱がさせてよ!


 商業ギルドに登録したいとのことなので、帝都へ。

 商業ギルドとは商人組合のことで、営業者の利害を守るための組織とのことだ。

 何かあったときに責任を取るのは当然主人である俺だ。組合員としてシルフィを登録する。

 後になって思い返してみれば、シルフィの「私、また何かやっちゃいました?」が始まったのはここからだ。それ俺の役回り!


 このときの俺は奴隷紋を解除せずに済んだことに安堵し、ルンルン気分でスキップ。

 それを見たシルフィが「やったぁ」と小さくガッツポーズしていたのを俺は見てしまった。

 ……やったぁ? えっ、何が? というか、可愛い過ぎィ! 美人系がそれやっちゃダメでしょ。


 ケチだと思われたくない俺は帝都を散歩しながら欲しいものや見学したい施設があれば気前よく支払っていた。

 ノエルは錬金ギルドなる組織に興味が惹かれたようなので登録してあげる。こういう小さなポイントを稼ぐのが大事。女の子に気持ち良く脱いでもらうために娯楽を利用するなんてバカがすることだよね。凹む。


 それからというもの、【再生】を利用した開墾しかやることがなくなっていた俺をよそにシルフィとノエルはちょくちょく帝都に出かけるようになっていた——それも勝手に。

 こういうのってご主人様の許可取るもんじゃないの? というか、修道院に放置て……! 

 

 ☆


【シルフィ】


「面白そうじゃない。私も混ぜてもらえるかしら」


 アレンがノエルに娯楽品を製造させたいことを嗅ぎつけた私は内心緊張していた。

 一見、彼はただの脱力男のように思える。けれどそれこそが彼の凄さ。鼻水を垂らした幼い男の子のような言動は全て演技!

 きっと真のアレンは賢者にも引けを取らない人格と知恵の持ち主。

 偉大すぎるチカラを手にし、葛藤と苦悩の末、他人の目を欺くことにした。


 でなければ、こんなボロボロの修道院で自給自足しようなんて考えるはずがないもの!

【再生】という神技を持ちながら質素倹約。どうやら彼から勉強しなければいけないことは山のようにあるようね。


 私はアレンが発明した娯楽品の説明を聞いて叫んでしまいそうになっていた。

 リバーシにチェス。帝都にリリースすれば間違いなく大富豪の仲間入り。

 想像力のない無能でも理解できることだわ。なのにアレンは平然としている。

 なに……どういうこと? もしかして私たちは試されているのかしら。世界の飢饉を無くしたいという思想。

 

【再生】という超越したチカラ。

 賢者顔負けの叡智の数々。

 考えなさい! 考えるのよ! ただ暇だからという理由だけでこれだけの娯楽を惜しみもなく披露した? ハッ、笑止。

 冗談もいい加減にしなさいよシルフィ! 貴女が考えなくてどうするの⁉︎ 

 きっと何か裏がある。それをアレンは口にしないだけ。彼は私たちのを尊重し、期待——重視しているに違いない。

 

 少なくともここで楽しく遊ぶことが最適解じゃない。それだけは間違いないわ。

 ざわ…ざわ…。

 胸がざわつく。


「というわけでルールは以上。もしシルフィとノエルがよかったらだけど、勝者は敗者に何でも命令できる、なんてのはどう?」


 ! 勝者は敗者に何でも命令できる……?

 どっ、どういうことかしら。思考を停止させちゃダメ。食らいつくの。きっと飢饉を無くしたいという目標に繋がっているはずよ。


「その方が面白そうね。いいわよ」

 なんて答えたものの、手が小刻みに震えてしまう。

 チラッと彼を見れば悪戯好きの少年が悪巧みしているような笑みを一瞬だけ浮かべていた。


 試されている! 間違いないわ! 私たちはいまアレンのお眼鏡に合うか試されているのね。


 私はノエルに目配せし、全力を出すように意思疎通する。

 彼女もまた何か妙な雰囲気を感じ取っていたらしい。


 えっ、ちょっとアレン⁉︎

 考えられる122,840,389通りの中で⁉︎ そんなありえない一手を連続で19回⁉︎ 

 そこで私はようやく確信する。発案者である彼がここまでヘッポコのわけがない。これはむしろ発案者だからこそ可能となった領域。至極。極髄。

 そう。これは私たちに白星を揚げさせるための戦略。


 最初からアレンは私たちに勝利することなんて微塵も考えてない。

 私たちに勝者の命令をさせるために——そしてその中身を審査するつもりね。


 私は脳を本気で稼働させる。アレンの資金はもう底を突きかけている。

 悠長に構えてられない経済的状況。娯楽で遊んでいる場合じゃないのは誰の目から見ても明らか。豚でも理解できるわ。


 つまり、これは資金調達を目的にした試練。それに私たちが辿り着けるかを懸けた真剣勝負。


「私を商業ギルドに登録してくれないかしら」

「娯楽品の所有権が欲しい」


 考えられる最善。現在の私にはこれが限界だった。

 果たして彼の答えは——。


 スキップ⁉︎ アレンが商業ギルドの登録を済ました途端、スキップしているわ!

 えっ、何か欲しいものや見学したい施設はないかって? やったやったご褒美ってことよね?

 アレンからすれば及第点だったのかもしれない。けれど彼の高みに一歩近づけたような気がして私は小さくガッツポーズしてしまうのだった。

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