第一章ー7:銃撃戦は案外地味

*武義視点です。


「ごめん、待った?」


「ううん、全然待ってない...って言うと思った?」


壁に背を預けて可憐に佇む銀髪ショートボブでスーツ姿の美少女が言う。待ち合わせ場所のれべーたー前に早くついていたみたいで少しばかり期限を損ねてしまったみたいだ。


「おっそいわよ!さっきからここが抑えられていて前に進めてないんだから!」


「お久しぶりです、ミスター・マサムネ」


待ち合わせ場所で相手が別の誰かといる。浮気かな?


<馬鹿な事言っていないで早く手伝いなさい>


<へいへーい>


ビルのエレベーター前にあるのはラブコメ的な甘い空気ではなく、鉄の匂いが充満する現代の戦場だった。


エレベーターの前に続く廊下には分岐する廊下も多数あり、そのうちの一つにジャンヌ及び両殿下、そして辰の上家の工作員が数名潜んでいる。両殿下は皇族ならではの胆力ですでに気持ちを切り替え、それぞれ身を守る魔法を使っている。流石に攻撃や補助をする気持ちの余裕はなさそうだけど。


「状況は?」


「確認できたのは四人、一人はライフル持ち、それも恐らく狩猟用のじゃなく軍用、一人それでやられたわ。あとは分子固定か土系統の魔法辺りで臨時のバリケードみたいなもん作られて全然有利をとれない」


ジャンヌの言う通り、エレベーターの前にはライフル持ちが一人、そしてバリケードも床のタイルと土で固められている。ただし四人ではなく、魔法使いとライフル持ちをいれて七人だった。両殿下と天馬を含めなければ辰の上家の者を含めて四人だ。


今の戦力では強行突破、それも護衛対象というお荷物が三人もいれば少し心もとない。


「え?そんなのちゃっちゃと、ぐぇっ」


「馬鹿正直に前に出るな、死ぬ」


天馬が顔を出す前に襟を引っ張りながら膝カックンし、後ろに倒しながら受け止める。案の定廊下の突き当りに天馬の気配がした場所で破裂音がした。


「...マジ、かよ」


「そゆことよ~、本気と書いてマジよ。ここは引っ込んでお姫様達の相手でもして、素人がしゃしゃり出ても死骸が増えるだけだから。でも、これじゃあ時間がかかってしまうのはまずいわね...どうする?」


「...あのライフルがなぁ」<甲冑魔法でもぶち抜かれたんだろ?>


<ついでに甲冑魔法と空気の圧縮固定化で即席バリケード作ったけど...結果は見ての通り>

ジャンヌは廊下に転がっている亡骸を示す。


様子を見るふりで拳銃をチラ見せすると連続で破裂音がすぐそばで聞こえる。


<ワオ、生足のチラ見せしても無理そうだなぁ>


<投げられるのは札束ではなく鉄玉になるわよ?>「ってあぶなっ?!」


咄嗟にジャンヌは張り付いていた壁から一歩下がる。万が一の為に共有し続けていた空間把握でライフルの斜線に感づき、ぎりぎり避けた。壁にも拳ぐらいの穴が開き、超音速の弾丸の影響でジャンヌの髪が少し乱れる。


「ちっ」


開いた穴に向けて三発辺り打ち込むが手応えはなかった。逆に向こうの警戒心を少し上げてしまったみたいだ。


「無線は?」


「今度電波無線の方が妨害されて完全に死んでいるわ。魔術系の方はもう復帰済み、さっきミセス・ヴァイオレットから連絡で応援は難しいみたいよ。今日ビルにいる筈の応援が全員どっかで足止めを食らっているから私たちは現在孤立無援」


<向こうの援軍は?>


<こっち側の奮戦でデート場所に送れるそうだ>


<もうツッコまないわよ?>


様子を見ると反対側の廊下にいる人たちではなく、こっちの方が警戒されている。両殿下がいるのを知っているかなのか、人数が多いからなのかはわからないけど。


「ジャンヌ、甲冑魔法」


「ほい」


俺の思考を即座に読み取ったジャンヌは反対側の廊下の突き当りで魔力の盾を展開する。手で向こう側の者には出るなと命じ、様子を見る。


魔力の盾に銃弾が何発か炸裂するが、盾は破壊されなかった。ライフル持ちはやはり向こうではなく、俺たちの方を警戒している。甲冑魔法を使えるジャンヌがこっちにいると知っているから当然の警戒だろうけど。


「う~ん...あまり時間かけたくねぇんだよな」


「...お二人とも余裕ですね、辰の上のご子息にしては」


話しかけてきたのはアストリッド殿下の方で、エルウェミニア殿下はやはり俺に根を持っている。当然だけど。


けれど両殿下にはあまり余裕がなさそうで、炸裂音や壁がはじけ飛ぶ度に警戒している。幼少の頃から才能がある王族や華族は魔物や魔獣との戦闘に慣らされ、経験と魔力を積み、そして魔法体質を育てられている。けれどその訓練という名の練習には危険性の問題で知能が低い魔獣や魔物が使われる以上、明確な殺意と狡猾さが蔓延る人同士の戦場には慣れていないだろう。


ほぼ確実に精神的には追いやられている。不幸中の幸いはこちらの死者を目の辺りにして天馬と違い、一歩間違えればああなると二人は知っている。


<本当にあのパツキンチャラ馬鹿が身体強化だけでしゃしゃり出たとき肝が冷えたわ>


<わかってくれりゃあいいんだけどなぁ>


「ん~、一か八かやってみよう、ここで時間を食っていたらまずくなるのはこっちだ」


「オーケー、カウントは任せる。後、あんたいつも忘れるけど、残弾数確認しておきなさいよ?」


反対側の廊下に潜んでいるうちの工作員に隙をついての攻撃することを手信号で伝え、カウントも手で伝える。ジャンヌも銃をしまい、甲冑魔法の展開に備えて俺からの空間情報に集中する。



工作員の数人は残弾数を確認し、魔法の使用に備えているのが反対側に一人いたけど今更打ち合わせする暇はない。俺もついでに確認し、弾倉を新しいのに入れ替える。



アストリッド殿下は俺たちが何かを実行に移そうとしている事に感づいたが、幸い自分が出ていい場面ではないとわかっているみたいだ。



「なあジャンヌ、どうふぐぁっ!」


「少し状況を読んでください、あと黙っていてください」


なるほど、やはりアストリッド殿下は空気が読める。逆に天馬はかなり読めてない、KYTだ。



<馬鹿の事言ってないで>



<行くわよ>



瞬時にエレベーターへ続く廊下のど真ん中、そして十字型の廊下の突き当りにも魔力の盾が展開される。反対側の廊下にいる工作員の一人は炎系統の魔法が使えるらしく、陽動の為に天井に向けて放つ。火球は轟音と共に天井にぶつかり、盾に集中していた相手に隙が生じる。


一人、二人、とこっちの工作員が隙をついて相手を無力化する。


俺もバリケードに隠れていながら隙間からこっちを伺っていた三人を立て続けに銃弾を撃ち込む。空間把握がある以上、よほどの事がない限り狙いは百発百中。


「まずっ」


「ちょっ?!」


警戒していたライフル持ちは手榴弾を投げた。


ジャンヌにも伝わっていて彼女は瞬時に魔力の盾を展開しようとしてくれているけど、時間的に再展開は間に合わない。


空間把握により集中する。頭痛がしてくる。当然だ。


女神様に恵んで貰ったこの天恵魔法をまだ扱える体質ではないから。空間の把握だけではなく、分子のベクトルまで読むのはまだ早い。


でも、手榴弾のどこを狙えばいいのかわかる。


ガキィン


鈍い金属音、そして数秒立たないうちにバリケードの向こう側で爆発が起き、残りの相手がいなくなったのを確認した。


「ふっ、鉛を食いたきゃ、そう言いな」


「何髭面のM19使いみたくかっこつけているの、こっちはひやひやしたんだから。というか今の芸当はも〇こりマンのほうじゃない?」


「...それツッコみ?」


ジャンヌは今頭痛がひどいのを知っている、けれどいつも通りに接してくれている。無理するな、とは言わない、多少は無理をしなければ辿り着くところへたどり着けないから。だから少しでも長く歩けるよう...ツッコミはちょっと多すぎるかも。


「...ふん」


「なぁ、ジャンヌ、武義」


少しばつが悪そうに天馬が話しかけてくる。今の戦闘で自分がしゃしゃり出たことに少し負い目を感じているのか?


「無事に戻ったら、俺を鍛えてくれないか?その、魔法や体力の事はわかるけど、戦闘に関しては、な?」


「...」

「別にいいけど...」


「「無事に、っていうフラグ立てないで(んな)」」


「お、おう...ありがとう」


天馬は少し戸惑いながらも笑う。少し哀愁があるけど、それでも感謝が伝わる。


「あっ...」


「どうした、ジャンヌ?」


「手榴弾、エレベーターにはじき返したでしょ...」


「...マジ?」

エレベーターの方を見ると扉が開いており、ある筈のものが無く、ただ千切れたケーブルしかない。手榴弾を打ち返したら運悪くエレベーターの扉も開いていたみたいだ。


「階段ねぇ...」


「階段かぁ...ここ何階だっけ」


「最上階じゃないだけマシの60階っ♪...はぁ」

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