46.でも、いつか。

「で、どうする。行くのか?」

「行くってどこに? 用事あるんじゃないの?」

「用事は──奈緒の墓参り。月命日だから」

 もう、1ケ月たったんだ。

 そんなことと同時に、あの日の恐怖がよみがえった。

 もし奈緒のクラブが遅くなっていなかったら──。

 何度も思ったけど、奈緒はもう、戻ってこない。

 学校を出て最初の交差点を左に折れて、坂道を登ったところに奈緒は眠っていた。

 周りを木に囲まれて寂しいけど、町を見渡せる。

 それにここは、小さい頃、奈緒といつも遊んだ場所にものすごく近い。

 私も弘樹も何も持っていなかったから、せめて墓石を綺麗に掃除した。それからしばらく手を合わせ、また来るね、と言ってお墓を出た。

「先生はあんなこと言ってたけど、から元気出さなくても良いよ」

「……いつから尾行してたんだよ」

「尾行じゃないって。弘樹が辛そうだから、心配してるだけだよ。奈緒を元気にしてくれて、弘樹には感謝してるし……奈緒は、空から……元気な弘樹を見たいかもしれないけど……」

 私だって、元気な弘樹を見たい。

 クラブだって頑張って、後輩の面倒を見てあげて欲しい。

 でも、立ち直るのが早すぎても、それはなんとなく悲しい。

「まだ、元には戻れないな。しばらくは……。ずっとだろうな」

「うん。早すぎたよ……」

 私は奈緒と出会って十数年。

 弘樹は、たったの2年。

 奈緒だって、ずっとずっと、弘樹と一緒に居たかったはずなのに。

「なぁ、夕菜、おまえ……あいつと……どうするんだよ」

 あいつ。牧原君。

 どうする。続けるのか。

 私が別れるつもりなのは、もう弘樹も知っている。

 牧原君から『日本には戻らない』というメールが弘樹にも届いてるから、牧原君がそのつもりなのも、弘樹はたぶん、知っている。

「最初から……別れるつもりで付き合ってたし。寂しいけど、今がその時期なんだと思う」

 牧原君と付き合いだしたとき、彼は私の気持ちを知っていた。

 弘樹のことが気になってる、って知ってて私に近付いた。

 しかも、もう、留学することは決まってた。だから、最初は、1日限定で、って、言ってた。

「今度いつ会えるかもわからないし。夏休みは、進学準備とか、大学の近くに引っ越しもするんだって」

「ふぅん。はは、俺とおまえ、一緒だな」

 弘樹は短く笑って空を見上げた。

「嫌いじゃないのにもう会えない──。それで、いつ別れるんだよ」

「わからない。でも、近いうちに」

「ま、いつでも良いけど。自分のことは自分で守れよ」

「どういう意味?」

「知ってるんだろ、夕菜のこと気にしてる奴らのこと」

 琴未と一緒に掃除をしたバレンタインの帰り道、正門で男子たちが群れていた。裏門から無事に脱出できたけど、今でも彼らの気配はおさまらない。

「今までは、あいつのおかげで逃げれたけどな」

 言いながら歩く弘樹は、お墓のほうを振り返った。

 自分が言った言葉は、私にも、弘樹にも当てはまる。

 今まで大切に守ってきた奈緒は、もういない。

 遠くても心の支えにしてきた牧原君とは、きっと終わる。

「大丈夫だよ。あの人たちのこと興味ないし、それに、高校の間は勉強に集中して……」

 彼氏は大学に入ってからで良い。

 それまでは、弘樹を支えたい。

 もちろん、本当の気持ちは絶対に言えないけど。

「一応、言っとくけど、俺──夕菜が心配してくれるのは嬉しいけど、彼女にはしないからな」

 わかってるよ、それくらい。

 弘樹はまだ、奈緒のことを忘れられない。

 私も、奈緒のものを奪うつもりはない。


 でも気持ちの整理が出来たとき、どうなってるんだろう。

 いつか、彼女になる日が、来るのかな。

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