32.夏休み前に
それから特に何もないまま、1学期は終わろうとしていて。
クラスの友達はみんな、早々と渡された夏休みの宿題を自習時間に片付け始めていた。
もちろん、私も同じ。宿題なんか早く片付けて、夏休みは思いっきり遊びたい。
試験の結果がどうだったかは、聞かないでください。
「もうすぐ夏休みだねー。ねぇ、海行こうよ!」
休み時間の教室で誘ってくれたのは琴未。
「うん、行く! あ、でも……」
「どうしたの? 予定あるの?」
奈緒たちとの日帰り旅行の話も進んでいて、確かお盆の前だった。
それとは別に旅行の前日、牧原君と2人で会う予定もある。
「え、っと……8月のあたまは予定があるから、7月が良いな」
「私はいつでも良いよー」
詳しくは日が近づいてから連絡とろう、2人じゃ寂しいから他にも誰か誘おう、ということになって、琴未との海の話は終了。
「ねぇ、予定って、どっか行くの?」
「……日帰りだけどね。あんまり遠くには行けないから、普通に遊びに行くような感じかもしれないけど」
「じゃあ、違うなぁ」
「何が?」
「ん? 夕菜、最近ちょっと嬉しそうだから良いことあるのかなぁと思ったけど。違うか」
その琴未の言葉に私はすぐには返事が出なかった。
「……違わないよ。それが、楽しみ」
「誰と行くの? デート?」
琴未は目を輝かせて聞いてきたけれど。
「あ──ごめん。でも、本当に、嬉しそうだから……」
「琴未って、鋭いね」
高校2年になった頃、私は何も言わなかったのに、「好きなんでしょ? 木良のこと」といきなり聞いてきた。今も何も言ってないのに、何かに気付いている。
……私がわかりやすいのかな。
「ちょっとだけ帰って来るんだって。牧原君」
そう言うと、琴未はもちろんびっくりしていた。
牧原君は出て行くとき、しばらく日本に帰る予定はない、って言っていたから。
「修学旅行のとき、弘樹が連絡とってくれたんだって。私を元気にするにはこれしかない、って」
「夕菜はそれでいいの? 確かに、牧原君に会ったら元気になるかも知れないけど……」
琴未は続きを言わなかったけど。
言わなくても、私にはわかっていた。私は本当に牧原君を好きになって付き合った、でも、まだ弘樹を諦めたわけではなかったし、牧原君もそれを承知の上だった。
そのことを奈緒は知らないし、もちろん弘樹にも言っていない。
「じゃーね! また遊ぼうね! 海、行こうね!」
終業式を終えたあとの教室で琴未と分かれて、私はいつも通り、奈緒と弘樹が待つ教室へ──行こうとして、担任に呼びとめられた。
「高野、荷物を持って、生徒指導室へ行きなさい」
「どうしてですか?」
という私の質問に担任が答えることはなく、そのまま教室を出て行ってしまった。
「生徒指導……って、私、何もしてないよ?」
どちらかといえば、マジメなんですけど。
他人を傷つける……とか、器物破損……とか、まったく記憶にないんですけど。
奈緒と弘樹に一言伝えてから、私は生徒指導室へ行った。
そしてドアを開けて、目を疑った。
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