王妃さまのご衣裳係 路傍の花は後宮に咲く
結城かおる/角川文庫 キャラクター文芸
序
序
「……はあ、つまらない」
今朝から数えて十六度めのため息が、ごく若い女官の唇から逃げた。
世界の中心にあって、天から命を
すなわち、この国の君主が天子さまに朝貢して「涼王」の称号を与えられ、君臣関係を結んでから既に三百年が経つ。「
若い女官は嘉靖宮の北側にある後宮のちょうど真ん中、
歳の頃は十七ほどで、黒々と
「つまらないったら、つまらない」
まるで彼女の愚痴に賛同するように、もしくは餌を催促してのことか、鯉は口をぱくぱくさせる。
「ごめんね。お前たちが可愛い尾びれを振って
女官は手にした小石をぽちゃんと
「ああ、お前たちはいいわねえ。私みたいな宮仕えの苦労も知らず、池の中が太平無事で治まっていて……」
「
軽い足音に続いて背後から投げかけられた𠮟責に、「鈴玉」と呼ばれた女官は振り返った。声の主もやはり女官姿の少女で、栗色に近い明るい髪と
鈴玉は同輩の
「別に怠業じゃないわよ、
彼女は疑いの眼を向ける同輩に背を向け、すたすたと持ち場へ戻っていった。
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