俺の親友と幼馴染みが付き合うと思ったら
国見 紀行
第1話 二人は付き合い始める
「俺、告ろうと思うんだ」
昼休みの屋上。
幼馴染みの
「誰に? 何を?」
俺は最後の一切れになった焼きそばパンを、口に入れる前に尋ねた。
「昨日の部活の帰りさ、
加奈ちゃんが誰かに告白されること自体は、別に珍しいことじゃない。
こいつと俺、
「でも、加奈ちゃんが誰かに告白されるのって、別に珍しいことでもないだろ?」
加奈ちゃんは、いわゆる『清楚系美少女』を絵にかいたような女の子だ。
髪は背中の真ん中くらいまで伸ばしており、前髪は眉と生え際の間辺りでまっすぐに整えられている。スラッとした体型には年相応の色気が漂い、その笑顔はまともな高校生男子なら一瞬で虜になるほどのかわいさだ。
成績もよく、陸上部に所属していながら毎回テストで学年20位以内をキープしているほど賢い。
そんな彼女を他の男子が放っておくわけもなく、高校入学当初は部活終わりの告白タイムが恒例になっていた。
「そりゃ、あいつが告白されることは中学からあったことだけどさ、あいつ、いっつも断ってるじゃん?」
そんなの簡単だ。他に好きな奴がいるんだろう。
例えば小学校からずっと一緒に帰ってるやつとか。
「でさ、たまたまこの間あいつの告白シーン目撃したんだよ。サッカー部の備品しまうときに倉庫行ったら、たまたま」
こいつがたまたまを強調するときは、何かやましいことがあるときだ。
「で、多分話が終わって別れるときに、俺と目があってさ。……泣いてたんだよ」
「……それも珍しいな」
加奈ちゃんは、実は結構ドライな方だ。今までも数ある男子の告白をきって捨てては特になにも感じない。翌日俺たちに平気で告白の話をしてくるくらいに。
だからだろう、こいつがそんなところを見て心を動かされたのは。
「なんとなく、あくまでなんとなくなんだけど、『あいつか加奈のこと泣かしやがって!』って思ってさ」
まるで保護者のそれ。
「気がついたら、なんか『告白しなきゃ』って思ってた」
きっかけは唐突だけど、この唐変木がその気になったのなら百歩前進。
「ねえねえ、何の話?」
そこへ小さな弁当の包みを持った黒縁眼鏡の女子が声をかけてきた。
中学校からの友人である
そういえば櫂は学年でも高い方で、ざっくり170を越えてる。顔もどちらかというと整ってるし、なんなら何度も女子から告白されてる。だというのに一向に彼女を作らない。お前の方こそ何でなんだ。
「櫂が加奈ちゃんに告白するって」
「やめときなよ。絶対無理だって」
秒で否定。
とはいえ、愛栖ちゃんも結構長い付き合いだ。なんとなく加奈ちゃんの回答が読めるのだろう。
「ダメならダメで。なんか、あいつにしてやりたくてさ」
「だったら今までの関係でも良いんじゃない? 無理して告白して友達ですらいられなくなるかもよ?」
愛栖ちゃんは包みを開け、弁当を開く。こじんまりとした弁当がちょっとかわいい。
「あいつに彼氏ができるって事実が大きいと思う。少なくとも告白はなくなるだろ?」
「振られたら一緒じゃない。私の推しを泣かさないでもらいたいわ」
小さなフォークでこれまた小さな卵焼きを刺して口に運ぶ。間に座っている俺は両端に座る二人の邪魔にならないよう、軽く後ろに引いてお茶を飲む。
「そんなこと言うなよ…… そうだ! 愛栖は加奈と同じクラスだろ? 部活終わりに倉庫奥に来るよう伝えておいてくれないか?」
「……昨日の今日だけど? それは知ってる?」
愛栖ちゃんは昨日も告白されたけどそれは知ってるの? というニュアンスで櫂に聞く。
「昨日のことがあったからだよ。なあ、頼む!」
「わかったわかった。伝えとく」
雑に扱う。この辺は俺たちよりも手慣れたものだ。
「よし! サンキュー! じゃあ今からイメトレだ!」
妙にテンションが高くなった櫂は、そのまま屋上から退散していった。
「……ねえ、保くんはどう思う?」
もぐもぐと少しずつ咀嚼しながら愛栖ちゃんが聞いてきた。
「うまくいくかどうか?」
「そう。私としては、まだ加奈姫に彼氏は要らないと思うんだけどな」
愛栖ちゃんは、中学校にあがりたての頃に転校してきて、その際軽いいじめにあっていた。
それを助けたのが加奈ちゃんだ。
それ以来、愛栖ちゃんは加奈ちゃんのことを『推し』といって
しかし、そんな二人をはた目で見ると少しアブノーマルに見えないでもない。
「でも、二人とも仲は良いし、幼馴染みとしてはくっついても良いと思う」
俺は別に加奈ちゃんに恋愛感情を持っているわけでもないし、櫂の『守ってやりたい』からくる恋愛感情なら応援もしてやりたい。
「意外。保くんはもっと幼馴染みにこだわる人だと思った」
相変わらず耳元でささやくように小声で毒づく。別に、俺はみんなが幸せならどんな形でも良いと思うんだけど。
「ならさ、二人のカップル誕生の瞬間を見に行こうよ」
「悪趣味だろ?」
「私は行くよ。加奈姫が泣くようなら原因を叩き潰しにいかないと」
意外とこの発言は冗談に聞こえない。
「それは止めないとな。特に叩き潰す方」
そんな話で盛り上がっていたら、昼休みの予鈴が鳴り響いた。
俺は残りのお茶を飲み干して適当に話したあと、二人で屋上を後にした。
◆◆◆◆
放課後。
部活も終わり、運動場辺りには用具を片付ける運動部の部員が少しだけ残る時間。
俺は放送部なので結構早く終わったため、スマホで適当に時間を潰していると、同じ文化部で文芸部の愛栖ちゃんが倉庫近くで待っていた俺を見つけてゆっくり近づいてきた。
「早いじゃない。やっぱり興味あるんだ」
「バカいえ。ただ早く終わっただけだよ」
俺はスマホを胸ポケットにしまう。
「まだどっちも来てないみたいね」
そういううちに、櫂が倉庫裏にやって来る。いつもの堂々とした雰囲気からかけ離れた、ひどく動揺してソワソワしている。
その少しあと。
長い髪をポニーテールにした加奈ちゃんがやってきた。
「来た!」
二人が倉庫裏に消えたところで、俺たちも見つからないように二人の近くへ移動する。
「……なんか、他人の告白なのにすごくドキドキするわ」
「なんか、俺も」
なんとか二人の会話が聞こえる位置まで移動すると、二人の会話が聞こえてきた。
「珍しいよね、櫂が私を呼び出すなんて」
どことなく嬉しそうな声の加奈ちゃん。
「いや、あのさ…… ちょっと気になったことがあって」
それに引き換え、櫂の動揺全開の声。
「気になったこと?」
「昨日、お前ここで男子に告白されてたろ?」
「見てたんだ、やっぱり……」
加奈ちゃんの急に声が小さくなる。
(やっぱりやめさせた方がいいかしら)
(やめとけって。もう少し様子を見ようぜ)
俺たちは再び二人の声に耳をそばだてる。
「あの時さ、その、泣いてたろ?」
「どうだったかな? でも、忘れた」
加奈ちゃんはちょっと明るめに答えた。
「……お前が『忘れた』っていう時は、強がってる時だ」
少し、二人に沈黙が訪れる。
「そうかも、しれないけど、櫂に」
「嫌なんだ」
櫂は少し語意を荒げる。
いつもと違う櫂の声に、俺を含む全員が動けなくなる。
「お前が泣いてるところとか、見たくない」
「櫂くん……?」
加奈ちゃんの、櫂を呼ぶ声が震える。思わず俺も胸が高鳴ってきた。
「俺、お前のことが好きだ」
再び沈黙。
あまりの長さにしびれを切らした俺は、二人の様子を見るべく倉庫の壁から慎重に顔を覗かせた。そこには、まっすぐ加奈ちゃんを見つめる櫂と、顔をそらして腕を抱き締める加奈ちゃんの姿があった。
(これは、ヤバイ雰囲気……?)
(だから言ったのに)
俺の頭のしたから同じように愛栖ちゃんも二人の様子を伺う。
体感でかなりの時間が経過したあと、加奈ちゃんが大きなため息をついた。
(あ、流れが変わった)
「小学校二年生の時、覚えてる?」
「え、二年生?」
(なにがあったの?)
愛栖ちゃんは知らない、俺たちだけの時だ。だけど、二人だけの話だとすると俺も知らない。
(いや、俺が知らない話かも)
「私の方から告白した話」
(ええええ!?)
(ええええ!?)
これは初めて聞いたぞ!
ていうか、俺たちが聞いて良い話じゃない!
そもそも、ここで盗み聞きしている時点でアレなんだが。
「あのとき、櫂くん私のこと振ったよね?」
さすがの櫂も、黙りこんでしまっている。
「ごめん、覚えてない」
「ううん。今でも覚えてる。『誰かを特別扱いできないから、加奈ちゃんだけ好きになれない』って言ってくれた」
それは小学生的発想。小学生で告白する加奈ちゃんもだけど、しっかり返事した櫂もさすがとしか。
「だから、思った。すっごく勉強して、すっごく運動うまくなって、すっごく綺麗になって、櫂くんの方から告白したら、思いっきり振ってやろう! って」
(ダメみたいね)
とても嬉しそうな愛栖ちゃんの声。
だが、そこでまた二人は黙りこんでしまった。どうやら、櫂が加奈ちゃんの次の台詞を待っているようだ。言いたそうにしているのに、言葉にならないのをずっと櫂は待っている。
「でも、無理」
言葉に涙が混じる。
「櫂の方から好きって言ってくれて、嬉しくなっちゃってる。顔もまともに見えないくらい、泣きそうになってる」
それを聞いた櫂が、一歩加奈ちゃんに歩み寄る。
「ごめん、泣いてるところ見たくないって言ったくせに、もう泣かしてる」
櫂は優しく加奈ちゃんの肩を抱きしめた。
(……もういいか)
俺は、収まるところに収まった二人を目に焼き付けると、愛栖ちゃんを引っ張ってその場から離れた。
「ちょ、ちょっと! まだ肝心なところが!」
「いいから。もう二人の世界にしてやれよ」
◆◆◆◆
翌日。
いつもなら集まってみんな一緒に登校するのだが、俺は気を利かせて一人先に学校へと行った。
すると珍しく櫂は遅刻寸前の時間に登校し、顔を会わせたとたんに一目散に俺のところに来た。
「保! 昼また屋上で話がある!」
それだけ言うとチャイムが鳴ってホームルームが始まってしまった。
一体なんだろうか。
覗いていたのがバレたのか。
ドキドキしながら午前の授業を過ごし、昼飯を購買で買って屋上に行くと、すでに待っていた櫂はとんでもないことを口走った。
「なあ、女の子と手を繋ぐにはどうしたらいいんだ?」
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