第601話 勇者にして魔王
寿命なのか、神様の力なのか・・死んでしまったようだ
その時に神様が教えてくれた
僕も、■■■も、仲間たちも、皆が幸せになる、たった唯一の方法
どう足掻いたって僕は死んでいた
だけど他の選択肢と同じく、この選択も僕や僕らにとって最高の選択肢の一つだ
僕の死体を使うものがいて、僕は吸血鬼の魔王として復活して戦い続ける
■■■達は僕の中で眠り続けて、僕と■■■の子供の魂だけはユーレウラギス様が連れて行ってくれる
連れて行ってくれて、地球の何処か平和な国に生まれる
いつか、未来では僕たちはまた出会って幸せに暮らせるかうまくいかなくても僕たちの子供は平和な国で幸せに暮らせる
それはたしかに僕らの望みだった
けど問題もあって、運命の神であるユーレウラギス様の加護は呪いとも呼ばれるだけあって、僕たちの子供には良いにしろ悪いにしろとんでもない未来が待ち受けているようだ
もしかしたら王族に産まれて、庶民の子と大恋愛をしたり、競馬で一攫千金をしたり、友人に裏切られたり・・何かは起きるだろう・・・石油を掘り当てたりするのかな?
息子か娘かは知らないけど、とにかく幸せに生きてほしい
痛んだ酒を飲むしかなくて、ひもじい思いをすることもなく、美味しいものを食べて・・・・愛し合える大切な伴侶と一緒に幸せに過ごしてほしい
勿論100年以上体験した僕だからこそユーレウラギス様の加護でただで済むとは思ってはいない
もしかしたら苦しむこともあるし挫折するかもしれない
どんな子かはわからないし僕たちのことを知ることもないし、僕たちを恨むことも出来ないだろう
それでも僕たちは生きてほしかった
産まれてこれない我が子なんて悲しすぎる
どんな人生でも我が子だ
ただただ生きてほしい
失敗も成功もあって、挫折で枕を濡らすことも栄光を掴んで誰かと笑い合っているかもしれない
もしかしたら平和な国でも戦争は近かったし悲しみしか無いような人生しか歩めないかもしれない
それでも、ただ生きてほしかった
少し聞いたら<うまくいっても拷問を受けたりするかも>と漏らしていた・・おい、神、ちょっと待て
でもちょっと怖いこともある
運良く皆で暮らせるとしても、いくつかある世界で僕たちは別の時間に召喚されて、更にまた別の世界で、別の時間に飛ばされてしまった
息子か娘のいる地球が黒死病の流行る直前の平和な国だったらどうしよう・・
しかも会える可能性はあるって言っても僕たちがヨボヨボのお爺さんお婆さんになって、息子か娘が年上とかの可能性もあるわけだよね?
・・・この神様ならありえるな
ボーっとした状態で瘴気を撒き散らして突っ立つ
口から勝手に出るのは妻への愛の言葉ばかり
僕たちの、いや、僕の選択肢は本当に酷いものだ
僕たち以外のすべての生命体を滅ぼす可能性だってあるし、終末をもたらす大魔王に僕がなる可能性だってある
他の人々だって生きる権利や、幸せをつかむ努力をしているのに、僕はそれを踏みにじってでも幸せを手に入れようとしている
それがわかった上で僕は選択した
たとえ世界のすべてが敵に回ったとしても愛する者のためにできる限りのことをする
僕も以前は飲んだくれていた父や、母に妹・・それに新しい母親と母の違う妹のために頑張った
父はこの程度の稼ぎかと僕の金を奪い、新たな母はこんな家に来るんじゃなかったと僕に空の酒瓶を投げ、妹ももっと良い服がほしいと言っていた
本当に、本当にどうしようもなかった
もしかしたらもっといい方法があったのかもしれない、だけど、あの頃の僕は父に金を巻き上げられながら仕事をして、借金を少しでも返し、家族を支えるのが精一杯だった
僕の僅かに残った金の使い道は半年に一度だけ妹に送る手紙だけで残りはパンの一欠片だって買える金は残っていなかった
働いて働いて、それでたったそれだけ
一般的な家庭には・・届かなくて、まともな家族としてやっていけなかった
でも、それでも、もしかしたらなにかのきっかけで父も母も変わってくれていたかもしれなかった
そうなれるように苦しい生活から抜け出せるように僕は努力した・・それは確かだ
思えば父は、騙されたつらい過去を忘れて幸せに生きるために、酒とギャンブルに溺れたのかもしれない
酒浸りの父親も、僕を残して出ていった母親も、働こうとしない継母もどうでも良かったが・・罪のない二人の妹は気がかりだった
母について行った妹は僕からの手紙が無くなってどれほど心配に思ったことか・・家で帰りを待つ妹がどうなっているか・・・それだけは気がかりだったけど、あのときの僕には選択肢がなかった
新たな妹は僕に「もっと構って」と文句を言いつつも■■■の妹に物凄く懐いていて、メイドとして働き始めていたし・・正しさや騎士道を体現する頑固すぎる・・・厳格なお義父さんならきっと正しく導いてくれるだろう
■■■が僕の家族を人質に駆け落ちするなんて書き置きしたし、多分・・きっと・・・・なんとかなった・・・・・・はず・・・・・・・・・だとおもいたい・・・・・・・・・■■■の知らないところでお義父さんは僕に「娘に手を出したら君の股ぐらにマスケット銃を銃床まで突っ込んで暴発させてやる」なんて言ってたしなぁ・・・うぅん
―――人は幸せになるために何かを犠牲にしたり、害することができる
父は自分が酒を飲んで幸せになるために僕から金を巻き上げたし、新しい母親は名士だった父と幸せに暮らすためにそれまでの生活を切り捨てて結婚した
お義父さんは■■■の幸せのために、僕を排除しようとした
幸せのために過去の僕は時間と労力を使って金を稼いでいた
僕は―――僕の大切な人たちとの未来のために、世界の全てを犠牲にするかもしれない
こんな僕を、もしも子に会えば許してもらえるのだろうか?
僕の中で眠ってる■■■は、仲間たちは許してくれるだろうか?
勝手に動かせない身体で、物凄く永い時を一人で考え続けた
何人か勇者も来たが身体が勝手に攻撃してしまって、あっさり殺してしまった
もしかしたらこの中の誰かが僕らの子供だったのかもしれないし身体の中で眠る誰かの家族や友人だったのかもしれない
そう考えると本当に苦しかった
何人倒したのか、あれからどれだけの時が経ったのか、もしかしたら全ての人類は滅んでいて、子も、仲間たちが守ろうとしたもの全ても破壊して、永遠に独りで思考し続けることになるのかと思っていた
ある日、ずっと変わらなかった世界が変わった
空から何かが降ってきて、光が僕の目を灼いた
吸血鬼の身体には弱点がある、空から照らす光にも浄化の力が混じっている
激しく壊れて瓦礫となった屋敷の中に誰かがやってきた
ひと目見てわかった、これは僕たちの子供だ
髪は黒くて、まだまだ幼い、薄っすらと身体に傷が見えた
きっと苦労したんだろう、新しい勇者だ
身体は拒否していたのに、我が子を、勝手に傷つけてしまう
これが僕への罰なのか!?
殆ど見えない目で、我が子を殺してしまうほどの傷を与えたのを見た
どうなったのか、わからないままに、とにかく僕は死んだ
神に迎えられた気がして・・身体を得ることが出来た
目を開けると意味がわからなかった
目の前には我が子、大量にいる・・・あ、ついてる、男の子か、10歳にもなってないぐらいだろう
身体の中に、ずっと一緒だった■■■の気配は感じなくなっていた
仲間は・・・ちゃんといる、胸のうちに感じる
<どうなった?>
<よくわかりませんね、■■■なら横で寝てますね>
<ちゃんと俺達に相談しろよな!この阿呆が!!だけどまぁよくやった!>
<起きたらその頭の中で1日中叫んでやるからなクソが!俺達だってお前の選択肢は尊重するしついていくのに!後からウジウジ悩んでんじゃねぇよ!>
<ばーか!ばぁぁかぁぁぁぁぁっ!!!!>
ユーレウラギス様の僅かな可能性は成功したのか、していないのか
全くわからない
全身全霊の力で、隣で寝ているらしい■■■の顔を見た
うまく動かせない手で、ただのせるように彼女の髪に触れる
<愛してるよ■■■、ずっとずっと逢いたかった>
君に触れられる日が来るなんてな・・
―――こんなに幸せな気分になるなんて、どれほどぶりだろうか?
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