第602話 レアナーの本懐、結婚式


やっと動けるようになってきて、やらなきゃいけないことが増えた



「ダート、吾郷、ありがとね、敵の首魁は倒せたかはわからないけど、それでもお陰で敵の主力倒せたよ」


「いや、地球が滅亡するかもしれないと聞けば流石に他人事じゃ済まないからね」


「そうだね、我々も刑務所覚悟だったけど成果が上がってよかったよ・・・発表は慎重にしないといけないけどね」


「・・・・・・」


「いや、吾郷、大々的にするべきだろう?彼らは英雄として語られるべきだ、自衛隊の人々もね」


「ですが魔族は知性のある存在ですし「どうにか共存できたんじゃないか?」間違いなく、そう言われて叩かれるでしょうね、こちらではまだ被害はないわけですし」


「まーそうだな、だが偵察機で見たあのゾンビやスケルトンがもしもこちらに来てたと思ったらゾッとするよ・・牛の臓器のポン酢あえというのもいけるね!オリバー食べてるかい!?」


「・・・・・・はい」


「言い方!いやミノとかハツって翻訳だとそうなるのか?仕方ないな・・なんとも美味い、ここの料理は最高だな」


「ありがとうございます」



吾郷とダートにはお礼しなきゃいけない、兵士の人達にも城で好きなだけ飲み食いしてもらう


オリバーさんはアメリカに行った時に奥さんを治して・・それから向こうに行ってもらって指揮してもらっていた


奥さんが治って幸せな時間だっただろうに、少し申し訳ない気もするが手紙と動画でやり取りしていたようでその点は問題なさそうだ


ただ、ダートと吾郷と一緒にいることで物凄く緊張しているようだ



それにしても三上の料理は最高だ


はるねーちゃんの豪快な肉料理とは方向性の違う肉料理の美味しさがある


特に唐揚げが美味しい



「はいあーん」


「・・・・あーん」


「ダンテス!洋介ちゃんが食べたわ!ほんと美味しいわねこれ!」


「マリー、いい加減離してあげなよ、日本とアメリカの大統領がいるんだから」


「えぇっと、洋介くん、そちらは?」


「前世のお父さんとお母さんで「ペーとメーでしょ!パパンとママンでも良いけど」・・・・・前世のパパンとママンでパパンはボクが倒した元魔王です」



ペーとメーはフランス語でお父さんとお母さんの少し言葉足らずな感じらしいがお父さんとお母さんでは駄目らしい


凄く大きなパパンは僕を壊れ物のように扱うし、ママンは逆にすごくグイグイきてとーさんと対立している


僕も不思議と「前世の両親」と言われても頭ではピンときていないのに、心では「そうなんだ」とつながりを感じる



「どうもよろしく・・第二次世界大戦の勝戦国と敗戦国のトップなのに一緒にいてもいいのかな?」


「ダンテス、あれから結構な時間が経ってるわけだし、植民地にしたんじゃないかしら」


「あー・・二人は第二次世界大戦ってのが始まる前にフランスから召喚されたらしい、で、第二次世界大戦って何?」


「「Oh・・・」」



なんでもそこそこ近代にあった戦争で、日本はアメリカと敵だったようだ


僕が世界史の勉強してて最近知った、後ろにはパパンとママンもいて興味津々だった


パパン達が地球からいなくなったのは戦争の始まる前で、自分の居た場所のことはやっぱり気になるよね


 

知らなかった・・すごい三上の笑顔が固まったけど歴史の時間をまた増やされそうな気がする


今では良い関係を築いているそうだ



ん?ふたりともレアナー教に入ったし「レアナー教国になる?」って聞いたらもしかして・・・・・・いや止めておこう


レアナー様は大きな混乱を好まないし下手したら戦争が起きるかもしれない



「そういえばさ、もうすぐなんだけど、なにか気にすることってある?」


「そりゃあ―――」





『とにかく真摯に、何も誤魔化さず、誰かの言葉ではなく自分の言葉で話す』


『女性にはしっかり膝をついて気分が高揚する雰囲気を作ることが大切だ、それが永遠に思い出になる』


『お互いが苦しいときでも、絶対に見捨てず大切にすることだ』


『『お互いを想い合って最良の選択肢を取り続けること』』



それぞれの答え、みんな違うけどどれもきっと彼らにとっては正解なんだろう




――――赤く、きっちりまっすぐ敷かれた絨毯をかーさん達に寄り添われて歩く




「うぅっ・・たった一ヶ月でうちの子がお婿に行っちゃうなんて・・・」


「よう君、かっこいいよ!」



本来、こうやって歩いてくるのはお嫁さんであってお婿さんじゃない


だけど僕はまだまだ万全の状態じゃないし「これはこれで良いんじゃない?」というはるねーちゃん達全員の意見が一致してこうなった


それに、はるねーちゃん達は皆ドレスだけどドレスって歩きにくいから結構転けたりはあるらしい


だから皆には壇上で待ってもらっている


僕はスーツじゃなくていつもの神官服


海外の結婚に近付けた結婚式で日本でも一般的なものを真似た


レアナー教だから完全に同じにする必要はないけど内外にわかりやすい結婚といえばこういうスタイルが好まれるらしい、日本式はまた今度



とーさんたちはドレスのかーさん達の後ろを歩いている


数万人も入る会場に華やかな音楽が鳴り響いている


賓客に信徒や子供、親族に仲間達



皆僕たちを祝ってくれようと集まってくれた



「よう君を、お願いね」


「任せてください」

「精一杯、頑張ります」

「勿論ですわ」



とても綺麗なドレス姿


つなぐ手をはるねーちゃん達に引き継がれた・・・資料も見たけどやっぱり逆じゃない?



「ま、まだ結婚は早くないかしら?」


「僕はもう18歳だし、待たせたちゃったからね・・マリーママン、かーさん、ありがとね」


「マリー、下がろう、な?息子が結婚しても僕達の子供だから、ね?」


「わ”か”った”ぁ”・・」



僕よりもママンが倒れそうである


壇上にははるねーちゃん、黒葉、ヨーコ、ミルミミス、セー、ロム、ダリア、エゼル、フィルが白のドレス姿で待ってくれている


他の仲間も何人か結婚したがったけど、向こうのレアナー教でお披露目もしてないし今日はこの人数である


本当ははるねーちゃんと黒葉とヨーコだけだったはずなんだけどな・・ミルミミスは止められないし、セーちゃんはレアナー様推奨、ロムは結婚しないと燃やすとかいう守護神様からの犯行予告、ダリアとエゼルとフィルは元々決めていたと譲らなかった


いや僕もみんな大好きだし、一緒にいられると嬉しい


だからそんな脅さなくてもいいのに・・フィルだけ狼だけどちゃんとドレス着てくれているのは可愛いな


他の仲間、特にニロンとアタマオハナバタケと他数名は式自体をむちゃくちゃにするってわかってるから石化して座らせている


向こうの世界と違ってこっちで暴れられると何人も怪我しちゃうからね



レアナー様に魔力を注いで大きな姿になって神官の代わりをしてもらう



エッサイに来てもらおうと思ったがレアナー様は譲らなかった


レアナー教の結婚ではお互いの愛を大々的に周知することが基本で、白いドレスや神殿で行う、家族を呼ぶ、料理を食べて蝋燭に火をつける、ケーキを切り分けるなどといったものとは全く関係ない



「<愛し子よーすけは、この先の生、彼女たちと困難に立ち向かい、決して見捨てず、共に歩んでいくことを誓いますですぅ?>」


「はい、誓います」


「<愛し子よーすけを愛している娘たちはよーすけと支え合い、生きていくことを誓いますですぅ?>」



「「「「「「「「「「はいっ」」」」」」」」」」



「<良い子達ですぅ!私が見届けたですぅ!さぁ!ちゅーしちゃってくださいですぅ!>」



神様、厳かさとか神聖さとか、もうちょっとこう・・・いやいっか



「これからよろしくね」



みんなに軽くキスしていき、この場で婚姻届を書く


無駄に大きなモニターに、僕たちが書いてるところが映し出される


僕の字汚いな・・・い、いや、まぁ半数はそもそも書いてる文字が違うし、狼のフィルに至っては肉球である



「やっとちゃんとした婚姻届がかけたわね」


「前のは無効だったもんね」



この婚姻届も無効なものが大半かもしれない


ヨーコなんて名前が長すぎて盛大にはみ出してるし


だけど、こちらに合わせて書いているだけで・・そもそも結婚とは他人に認められたくてやるものではない


自分たちがお互いに認めていればそれで良いのだ


約束の形は何だって良い、空や星に誓うでも、血判を押すでも、何かを送り合ったり、魂に誓うでも良い


これは形式的なことをするってのと、はるねーちゃんの希望だ



「前のは・・私は洋介のために書いたものじゃなかったからね」


「そうなの?」


「そう、でも洋介が私のためにって書いてくれたのが嬉しくて捨てられないでいたのよ・・あのときは奈美もありがとね」


「うぅん、ワタシしあわせダヨ?」


「だめだ、奈美が倒れそうだからちゃちゃっとしよう」


「うん」



キスして、婚姻届も書いた


なにかのアクセサリーを贈り合うのも良いかもしれないけど、僕とレアナー様はこの場でそれはやめた


今後結婚する人々に『結婚のためになにか高価なものが必要』という前例を残したくはない


多分普通の結婚式とはまるで違う


普通はレアナー様は神様用の台からニマニマ見るだけで前に出てきたりはしないし、宗派によってはもっと厳かでやるべき儀式もあるだろう


三上も辞書みたいなサイズの本でいろんな結婚式があって多様性がどうのと言っていたが・・きっとこれで良いはずだ



結婚はお互いに認め合い、お互いの魂に誓う


それがいちばん大切だと思うからだ



皆にはすでにそれぞれアクセサリーを贈って身に着けてもらっているし、結婚した相手からのものは絶対身につけるのなら12万以上の指輪が必要になる、指足りない




「<この結婚に疑問・異議・文句があるものはこの場で名乗り出なさいですぅ、後から名乗り出てもいいですが公然で正々堂々と申し出るですぅ>」



ただこれは絶対にすると決まっていた


ニロンたちが暴れると普通に死人が出るから流石にだめだが多重婚OKなレアナー教では結婚相手の旦那さんや奥さんもいるから、そちらが嫌だというのなら話し合うか・・殴り合うことはよくある


向こうでは「もうすぐ結婚式だから」と鍛えたりは日常茶飯事だった


ただ、日本でこう言うのでは出てくることは殆どないそうだ


だって、地球では基本が一夫一妻制であり、別の人と本当に愛し合っているのなら結婚自体を取りやめれば良いだけである・・・それでも一応あるにはあるそうなので形式的に残っている




「「「「「その結婚待ったァアアアア」」」」」




・・・いっぱいでてきた


あとはお互いの出会いとかをモニターで映して、皆でお酒飲んで終わりのはずだったのに・・!!?


数十人のほとんどは大したことがなかった


エゼルやダリアを中心にファンの人がいて、結婚したいという人達で・・・そもそも初対面


狼のフィルにまでファンがいて「かみ殺すぞ」って駄目だからね?血で汚れちゃうよ?


黒葉やはるねーちゃんにも初対面だけど結婚してほしいという人の列ができていて、うん、僕の前にも何人も・・・・・皆論外で連れ出したり帰ってもらったけど3人ほど顔を知っていてやばい人がいた



「えっと・・・婚活会場の人ですよね?ゴメンナサイ、お帰りください」


「そ、そんな!?この私が結婚してあげるってのに!そんな貧相なガキどもよりも私と真実の愛を育みましょう!はっ、はなしなさいよっ?!わ、わたし諦めないんだからねっ?!!」



オバボンさん、なんかごちゃごちゃしたど派手なドレスで来ていた・・反省してなかったのかな


それよりも問題は二人



「春樹、真莉愛、あんたらなんで来てんのよ?馬鹿なの?死んでよ」


「ぼ、僕は「あんたが幸せって聞いてさ、どうせならあんたの良い人奪おうと思ったわけよ」僕は!今っ全然上手く行ってなくて!遥とよりを戻したら全部元通りになるんじゃないかってっ!!」



この2人、確か結婚式場と大学ではるねーちゃんともめた人だ


頬がこけて、痩せて不健康に見えるのは吉川春樹さんではるねーちゃんの元彼氏だったはず


坂上真莉愛さんははるねーちゃんから吉川さんを奪ってはるねーちゃんの悪評を広めた人だ


どちらも白いスーツとドレスである



「寝言は寝ていうもんよ?それにあんたには星野さんだっけ?彼女がいたでしょうが」


「・・・フラれた・・・・で、でも君がいれば僕はやり直せる!僕は!君がいないとだめなんだ!遥!僕と結婚してください!!」


「絶対無理、私には洋介がいるからね・・それと真莉愛はあれよね?腹黒いあんたのことだから式をぶち壊しに来たのよね?あんたも彼氏いるでしょうに・・で、洋介どうするの?」


「いや、ごめんなさい、僕への愛も感じないし、はるねーちゃんへの悪意しか感じない人とはお話するのもちょっと・・」


「よく言った!」



愛のためでもなくただはるねーちゃんを傷つけて僕たちの式を駄目にする目的で来たのか・・



「男どもと遊んでる遥よりも私が一緒にいてあげるってのに不満なわけ?」


「それはあんたが流した嘘でしょうが」


「僕ははるねーちゃんを信じます」


「そう、じゃあ二人揃って仲良くくたばりやがレっ!!?」


「ひっ?!ま、まりあ・・?」



包丁を取り出そうとしたママンと似た名前のおねーさんは石化してしまった


はるねーちゃんが危ないと思って前に出た僕はそのまま転けそうになって、むしろはるねーちゃんに抱きかかえられた


石化する直前に黒葉がドレスの太ももにつけていたムチで拘束されていたし、そもそも前に出る必要もなかったかもしれない


すぐ横で尻餅をついた吉川さん


レアナー教ではこういう結婚式のときには決闘することはよくあるし武器の持ち込みはありなんだけど・・正々堂々しないのはよくないよね



「結婚をぶち壊しにする?他にもいっぱいきて全然目立ってなかったし出来てなかったわね?それにこれ全国放送中よ?馬鹿ねー・・裁判楽しみにしてなさい、誰か連れていって!」



障壁張ってるから盾にはなれたんだけど、なんか格好付かない


持ち上げられて横抱きにされてる僕に向かってキャーキャー聞こえるがそこは包丁出した人に向かって悲鳴を上げるものじゃないかな普通


パパンが鬼の形相で真莉愛さん持っていったけど・・大丈夫だよね



「大丈夫?はるねーちゃん」


「むしろあんたが大丈夫か聞きたいわ、まだ本調子じゃないのに結婚式始めちゃってごめんね?」



本当なら去年の4月、17歳で結婚する予定だった


だけど僕が死んだり寝てたりして1年延期してしまった


僕が起きて、去年の準備の流れでちょうど一年、帰ってきたことで同じ4月にするんだよねと皆して準備万端だったのだ


なんでも治るレアナー教だと思われてるみたいだけどなんでも一瞬で治るわけじゃないんだけどな・・


黒葉は大学を卒業していたし、各国のおえらいさんも日が決まってないのに「何日でも待つよと、公務?いつでも空けられるようにしとくよ」と揃って皆で待ってたのもあって決行した


それにレアナー教では


「<それに結婚は何回あってもいいですぅ♪>」


心読まないでください


それよりも黒葉は大丈夫だろうか?ドレスのスカートの裾を大きくまくってムチを出したから真っ赤になって固まってしまっている


ダリアとエゼルはキスしてから照れて赤くなってるし、フィルはなんか照れてる・・・皆向こうの結婚式と違って暴れたり叫んだりしないように言ってあるからものすごく静かだ


エゼルとダリアは寝る時によく頭や手の甲にキスしてきてたのに僕からすると照れるのか・・フィルにいたっては顔を舐め回してくるのになにを照れているんだか



「ううん、僕も待たせちゃったよね」


「うん、凄く待った・・心配でたまらなかった」



おでことおでこをコツンと当てられ、鼻をこすり合わせるように抱き寄せられた


心配させちゃった・・けど僕も僕で色々隠したかったんだ



「遅くなってごめんね、愛してるよ、はるねーちゃん」


「うん、私も愛してるわ」



もう一度ほんの軽く、触れるだけのキスをした



「そこー!二人だけの世界作らないでくださいまし!」


「そうだよ!そういうのは師匠であるボクの役目だ!」



後はいつもの・・やつだった



「<みんなー!みてみてー!うちのよーすけが結婚しましたですぅ!!>」



僕も杖で【清浄化】を空に打ち立て、皆との出会いやレアナー教のビデオを見ながら、皆で美味しいものを食べて笑って結婚式をした



「どうかした?」


「――――ううん、なんでもない」



僕にも僕の居場所が、大切にしたいって思える人や場所が出来たんだな・・・


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