第599話 出し抜け!


―――○▲日目、セーの監視記録をチェックすることになった


奈美がまさかセーを怪しんで監視してるなんてビックリだ・・現在と過去の分、結構な量を調べるようだ


あれだけ調べた寝室


レアナー教の教えには一夫一妻どころか多夫多妻・・重婚もあるし、相手の結婚も関係ない


だから寝室には脱出用の穴があるなんてこともある


流石に個人を監視するなんてやりすぎだと思ったが―――成果が出た



いつものように洋介の服や・・私達のブラとかベッドのシーツの匂いを嗅いでたのは少しは慣れていたはずだけどやはりショッキングであった・・・それよりも洋介だ


ベッドの下、頭側の何もない壁


そこに匍匐前進で入っていくセー


カメラは床を映していたが立ち上がる時に別の部屋を映し出した


そこで、結界か障壁の魔法、いや、城の機能かもしれないが中継動画が止まった・・




・・・そのブレる動画の最後に、たしかに洋介が写っていた




作戦会議は勿論セー抜きで行われた


セーが何かを黙っている以上、隠し事であるかもしれないし突き詰めれば隠されるかもしれない


場所を変えられたらもう二度とチャンスはないかもしれない



なにせ一度洋介をさらった前科持ちである



しかもレアナー様の反応にサシル様の反応


セーはレアナー様とサシル様の妹でもあるし加担している可能性もある


直接問いただすのは危険すぎる



普段の時間にはいつもどおり洋介を探し、寝る時間からセーが部屋に来る深夜までに部屋を調べる



「開かないわね?」


「動画を見直してもなにか開けるような仕草はなかったですが・・」



レアナー様にも近付かずに探す事に集中していく


レアナー様は心読むし、距離に意味があるのかは分からないが見つからないように進める



「・・・・壁って数メートルよね?」


「絶対壊さないでくださいよ!!?」


「そうですわ!最悪入り口が無くなって元杉が出られなくなりますわ!?」



ちぃ・・


この日は何の成果も得られなかった


厳密には「こういうやり方では駄目だった」っていう成果は得られたが・・まどろっこしいな


すべての部屋に監視カメラを設置し、セーがどうやって洋介のいる壁を開けたかを調べる


秘密空間や秘密通路は壁の何処かを押せば開く場合もあるが・・部屋の何処か別の場所を押していたりなにかの手順があるのかもしれない


寝る時間限定で開くのかもしれないと麓の元杉家で「元杉家の味を覚えるのだ」と寡黙なおばあちゃんや親戚の女性一同に一晩中料理を教わり・・・その間に予定通り追い出された私が調べに行ったが開かなかった


奈美もヨーコも「このやり方なら自然に追い出せるから」って言ってたけど・・・すごい解せない


あの手この手でレアナー様とセーを城から引き離してその間に色んな方法を試す




―――↑↑↓↓日目、今日も策を弄する


「娘は嫁にやらん!返してほしかったら代表者が誠心誠意話しに来い!」



父さんに頼んで時間稼ぎしてもらう


セーさんは私と家族の関係を知らないし、去年に一度騒がせてしまったこともあるから自然に城から引き剥がすことが出来た


「セーさんだったね!うちの娘が君のところの洋介君にプロポーズを受けたというのに結婚式もなく、一体どうなっているのかね!」


「それは・・「聞くところによればその伴侶の居場所はセーさん、貴女が知ってるって聞いたよ!どうなってるんだい!」


「それは・・「日本の結婚をなめてるのかい!?相手のご両親なんてどうでもいい!そう考えているのかな!レアナー教では愛する2人を引き剥がす趣味でもあるのではないかね!」



マンションにセーを呼びつけてもらってブチギレ頑固オヤジとして3時間は持たせると言っていた


私の部屋には録音した私の声のデータの入ったノートパソコンをもたせて私は城で調べる



・・・全然うまくいかなかった



難攻不落とはこの事を言うのだろうか?


自分たちの寝室なのに、クソぉ・・


ポポンや鎧騎士たちに手伝ってもらってもうまくいかない


ポポンはスライムだけあって隙間さえあればそこから体を滑り込ませて開けられると思ったのに隙間が存在しない・・・



次の手だ・・少しずつ増えてきた魔力覚醒者達、魔法学校も少しずつだけど増えているし「日本とアメリカで魔法学校の必要性と意義」と「国連への治癒魔法の効果の質疑応答」をセーさん代表で会食や会見を1週間かけていってもらうことになった


セーさんはいつからかは知らないけど長い間、本家本元のレアナー教の王様だったわけだしね


吾郷さんとダートさんに協力してもらってもてなせるだけもてなしてもらう、転移魔法で簡単に行けるかもしれないが、もてなされたという実績も大切だと言うことを説得するとすんなりいってくれた



だが・・ぜんっぜんうまくいかない・・・!


この壁の先にいるというのに・・もしかして元杉神官の人形かもしれない?セーさんならありえる・・・いや余計なことを考えるな、ここにいるかもしれないんだ!たった数メートル、もしかしたら手の届きそうな範囲だぞ?!



「あだっ!!?」


「大丈夫?」


「う、うん」



ベッドのすぐ下の空間は勿論狭い


頭打った



「<ずんずんずん♪ずんずんずん♪たったらー・・・私参上!!ちゅっ!>」


「うわぁ」



ブローチが少し床にあたって駄目なのが出てきた


元杉神官にもらったブローチ、宝石と細いチェーンが付いていて手首に巻くこともできる・・分類上よくわからないアクセサリーだ


耳に着ければイアリングにもできるが絶対に耳裂ける


元杉神官にもらった風の精霊が入っていて勇気の出る効果のある・・・男の子から初めて贈られたアクセサリー



「<駄目なのとはなんじゃいっ!この大天才様捕まえて!えぇっ!>」


「じゃあ大天才様ここの開け方教えろ、ください」



ただ以前セーさんに元杉神官がさらわれた時、そのダンジョンの管理精霊レーマ・ワリもここに押し込められてしまった


うるさくてたまらないこいつは元は神様で、私の悩みのタネの一つだ


トイレでこいつが出てきて歌い始めたときなんて・・大切なもののはずなのに身体が勝手にぶん投げそうになった


指輪の代わりにこれで手遊びしていたこともあったのにな・・・こいつが来る前は



「<きゃはははは!な!なにいってんの!!馬鹿じゃない!!?ヒー!お腹痛い!ヒー!!むぎゃ!!?>」


ちょっと口が悪かったがここまで笑われるとは思わなかった


「<え?マジで分からないの?・・ぶははっ!はは!ああああああいたいぃぃぃ??!!!ごめんなさいぃぃいい!!>」


思わず思い切り握ってしまった


元の存在はサシル様やレアナー様と同じ神だとはとても思えないな、しかも最高神で光の神様・・・レアナー様はポヤポヤしてるし、サシル様はちゃっかりしてるけどクールだし全然似てない


・・・・そうだ



「<おかしくれんの!?美味いので頼むZE!>」


「お酒もつけましょう、だから開け方さっさと教えてください、心読むなって言ってんでしょうが」


「良いお酒だったら教えようかにゃー」



サイドテーブルに最高級酒とパティシエ作の桃のホールケーキを置く


お酒は小さめのぐい呑みに注いで・・



「いっただっきまー・・「先に答えを」


「先に教えたら俺っちこれ食べられなくなるからな!ダメダメ!」



もしも、これで無理でしたーって言ったら何億年も誰とも会えないし過ごせない宇宙空間に放り出してやる、外が見えないようにコンクリで固めて


「ひぇっ!わ、わかってるって!奈美たんは心配性だな♬小じわが増えるーぞいっ♪」




ここから3時間、頭の血管が何度か切れそうになりつつも酌をしてホールケーキと酒がなくなるのを待った




「そろそろ、教えて、くれる、よね?」


「なんだっけ・・?すやぁ・・・・・」


「・・・・・」


「いだいっ!?そっか!?鍵、鍵だよな!!?奈美ちゃんドアの前で鍵持ってるのになんで入らねぇんだよくくく!」


「鍵?」


「そーだ、よ♪ちゅっ、ちゅっ!」


「うざっ!」


「はぁはぁ・・なみたん、お肌すべすべね!いいねいいね!おバカで天然な奈美タン可愛いよ!はぁはぁ・・はっは!はぁぁぁああああん!!!??」



このアホ妖精は・・・思わず握りつぶしてしまったがドウドウと遥とヨーコに止められた


・・・・・もしかして?


ブローチを壁に近づけると穴が空いた



「空いた!空いたよっ!!」


「<信じる者は救われる、そう!わっちを信じれば良いのじゃ!!ふぉーふぉっふぉっふぉっ!!>」



アホ妖精がなにか言ってるが、ブローチを叩きつけるようにぶつけてこのアホをしまう


それよりも入り口が開いて胸が高鳴ったのがわかる



―――・・この先に、いるかもしれない!



「行きます!あ、閉じるの怖いから遥は足掴んでついてきて!」


「わかったわ!!」


「わたくしが先行して安全を確認しましょうか!」


「そんな待てない!」



もう、待てる訳がないっ!


たった数メートル、向こう側が少し見えている


匍匐前進は訓練でしていたが石の床でなんてしたことがなくて、狭さでもたつく


わずか数メートル、だけど息が詰まるほどに焦がれた人がそこにいるかもしれないと思うとどうしても気持ちが抑えられない


足をつかんでもらっている遥の手が邪魔くさい


だけどこうしないと遥達、入れないかもしれないし



「元杉っ!!しん・・かん・・・・・・・?」


「いたの!?い・・いた・・・・ね、なるほど」


「これは・・隠すのもわかりますわ・・・・・」



なんで隠していたのか・・なんで1年かかるのかわかった


気にしないでもいいと思うが私でも同じ立場ならそうしたのかもしれない


むしろ私ならもっと見つからないところに隠す



・・・安心したけどどうすれば良いのかわからないな



遥とヨーコも苦笑している


いつもの寝顔、撫でたくなるが途中で手を抑えて止める



「もう、心配したんですからね」


「ほんとにね、起こす・・のは無理か」


「お義父様達呼びましょう!連れてきますわ!!」



こんなに近くにずっといてくれて、笑ってしまう


ホッとして、それまでなにかに怒っていた気もするけど全部どっかにいっちゃった


もしも意識があるなら、ごめんなさい、それでも探したかったんです


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