第588話 異世界人のウェクンダン攻略


「崇め!伏し!敬服してその肉を差し出しなさい!」



本当に気持ち悪いことをいう子爵と名乗った魔族・・ユーキシアフだったか?


遥が前で戦っている間にこいつを打倒する方法を考える


魔族の中でも爵位を持つものは絶対に相手にしてはいけない強者だと異世界の子どもたちに教わった


魔族にも人が産まれるが瘴気に適応するものだけではないし瘴気の薄い場所でそういった人は働く、人間社会からも新たに瘴気に適応した人が入ってくるがどちらも魔族に敵対することもある


だから武力を持って魔族は統治する・・魔界では争いは絶えずにあるようで力での統治が重要視されるそうだ


爵位を持った魔族は普通の力では倒せないものもいて、天災と同じような扱いされるのだとか


絶対に敵にしてはいけない、戦いにすらならないのが爵位持ち魔族



――――この魔族、子爵と言えば高位魔族だ



公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、士爵などの順番であるが爵位を持つものが攻めてくるだけで都市が滅ぶことがあるそうだ


男爵以上の魔族は全く見ることはなく、魔族の領地から出てくることは殆どない


魔王は特別で、人や魔族から神によって選ばれるような・・・勇者と反対の存在だ


魔族の中でも人間に強い敵対行動をするものや神の使徒をまとめて『悪魔』ということもあるらしい・・こいつは間違いなく悪魔だろう



「痛みにうめきながら喜んでその肉を捧げると尚良い・・!」


「<気持ち悪いんだよ!クソ魔族がぁぁ!!!>」



そのムカつく顔にショットガンを打ち込んでやりたいが上の蝶も男も物理攻撃が効いているようには見えない


元杉神官は何と戦うにしても色んな方法を考えて、正道とか卑怯とか無視して色々考えて戦うのが生き残るコツと言っていた


どうやって倒すのが良いのか?


勿論毒や爆発物、魔道具は用意しているしフグ毒や科学者達に用意してもらった世界中の猛毒はあの肉の塊には効果的かもしれない


何も考えずにキノコとフグとクモとヘビの毒を使えばあっさり倒せるかもしれないけど、遥が切りつけて大きく出血しているからそれで倒せなくなって血液に猛毒が混じるようになったら手がつけられなくなるかもしれない


もっと別の方法を考えるべきだ


炎に自信満々の生意気な女子高生・・じゃないロムに来てもらう、氷の魔法が得意なフィルフェリアさんを呼ぶという方法もある


それともあれかな?上の蝶の効果か何かで幻覚か悪夢を見ているのであってあの肉にも実体はない・・可能性もある



そう考えるとここは引いたほうが良いかもしれない



でも、この先に元杉神官がいるのなら倒してしまった方が良いに決まっている・・・!



―――――考えて、考えて、考える



持ってる道具、取るべき手段、私のできること・・・!


蝶と男には全くダメージは与えられていないがエゼルさんが切った瞬間にダリアさんが殴って引き離し、セーさんと遥がその肉を潰し刻んでいる


しかしその肉は潰れて血が出ていても、血は肉の塊に戻ってスライムのように一番大きな本体に戻っていってしまっている



「<<キャカカカ!>>」



何かが反響しているような不快な叫び声を肉が上げている


傷ついた瞬間とは関係ないし、痛みを感じていないのかもしれない


表面に目玉や顔が浮き出してきて本当に気持ち悪い・・・!


こういう敵を倒す時のやり方を知ってる気がする、収納袋からピンときた目的のものを出して確認する・・・これなら!



「遥!これ使って!」


「え?これって・・・流石奈美ね!」



どういう意味だと言いたくなるが何も言わずにちゃんと渡して私も準備する









さすが奈美、受け取った魔道具を手に握りしめて魔力を通し、もう片方の重みを感じて握り直す


使い方は教わっていたし・・多分これで起動したと思う



「どうすんだ!ハルネー!?」


「この醜い肉は私がぶっ潰す!!」


「醜い?この生命の美しさがわからないとは・・やれやれ、まぁ良いでしょう、ウェクンダン、貴方を醜いと称したそこの女を食べてやりなさい」



少し自分の言葉で申し訳なくなってしまう


この肉人形、素材の元になった人はいるだろうし、こんなの自分で望んでなった人はいないと思う


いや、白衣の男のように頭がおかしい奴が元の可能性も十分にあるけど


しかし思わず笑いがこみ上げてくる


歯はないがぽっかり開いた穴をこちらに向けて突っ込んでくる肉人形



キンッ



ピンを抜いて投げ入れる


口に目的のものが入ったのを確認して



「ダリア!口を魔法で塞いで下がれる!?」


「おぅ!オラァっ!!!」


「全員下がって!!!」


「何をしようと無駄ですよ!この建物には逃げ場のないように結界で塞いであります!!何も出来ず、無限に再生する新人類に何日もかけて死んでいくと良い!!!」



全員で脱兎のように離れて大盾を出して奈美の前に出る


口に結界を作って塞いだダリアも意図がわかってくれたようだ



「<おねーちゃん!いくよっ!!>」


「<はいっ!>」



ダリアは両手で私の後ろで拳を床に殴りつけると私達の前に結界が現れた


セーが一緒に盾を持ってくれて、結界と私達の前に英霊騎士たちが盾を取り出して壁を作ってくれた



「<< コ コ ッ ! ケ カ キ キ カ ァ ッ !!!>>」



口の内側にダリアの壁を作られた肉人形は苦しかったのか少し身体をくねらせて動きづらそうにした後にこちらに突っ込んできた


更にダリアの結界と騎士たちの間にセーが障壁の魔法を出してくれた


一緒に訓練していたし、わかってくれている




――――まだかっ!!?




迫りくる肉人形にヒヤリとした


もしもわたしが失敗していたら?このまま突っ込まれる?


もうやってしまったし取り返しはつかない






――――キュカっ






ダリアの結界に触れた瞬間、そんな音が聞こえたと思う



聞こえたのは一瞬で、激しい爆発音でダリアの結界の向こう側は爆炎で見えなくなった


ダリアとセーの結界も破れて、騎士たちも何人か尻餅をついてしまっている


そして目の前にまで迫ってきていた巨大な肉の塊はその殆どが粉々になっている



「っ!?驚きましたよ、そんな強大な力が一瞬で使えるなんて・・あの小僧も似たようなものを使っていましたし・・・存外異世界というものも侮れませんね」



使ったのはG達スパイが自作した高性能爆弾だ


銃器の訓練で銃や爆弾はこちらの世界で一応あるがこんなに力の強いものはそうないと知っていた


だからとても有効だ、ガレティレさんのような強者を奈美が麻酔で眠らせられたのもそれが理由だ


勿論手榴弾のような既存のもののほうが安定して使えるそうだけどこちらの生物はオークがいたように人間という規格を大きく超えている


洋介は空からの攻撃が可能だからか普通の手榴弾が気に入ったようだし私達もそれが使いやすく思っている


でも足りないと思った相手には?


手榴弾をいくつもつなぎ合わせたものもあるが、更に破壊力の高い箱に爆弾を詰めた自作の手榴弾、箱爆弾とでも言うのだろうか?


製造コストは既存の手榴弾よりも物凄く高いそうだけどこんな事もあろうかと用意していた



「しかしウェクンダンはこの程度では・・・ウェクンダンっ!!!??」



もう一つ奈美に渡された魔道具、それは以前辺境でオークが使っていた魔道具


勇者を傷つけるとそれだけ持ち主の力になる邪教徒の魔道具


戦闘後壊れていたそれを持っていた


調べたところ正確には勇者の力を魔族に与える魔道具ではない、加護を持つものの流れる血を結晶化し、使用した持ち主に純粋な力を与えることができる・・・そんな魔道具


これを利用してセーや洋介が訓練に参加した時に怪我をした時の力を吸うことで昇華を少しでも止めるために持っていたものだ


本人たちも効率が上がるからと修理して使うように言ってきていた、しかもこれだけでは足りないと同じ魔道具を探していた


・・・訓練程度でしか使えないし置いてきたと思ったが奈美が持っていて助かった



散らばった肉片が小型犬ほどしか無いが最も大きな肉に引き寄せられているが、その途中で細かな肉片と血が結晶化し、魔道具を持つ私に力が集まってくる


これで再生できないだろう



「え?そんな、そんな莫迦なぁっ!!!??ウェクンダン!!ウェクンダン!!!!!」



無限に再生する肉人形はダリア達の加護持ちの肉から出来ていて、ダリアの普通の拳ではダメージを受けていなかったしエゼルの剣も無効化していた


しかしダリアの拳の前に出した結界では殴れていた


打撃はあの肉に効力を発揮していなかったがそれでもダリアの剛腕が当たっているのに意味がないのは何かしらのからくりがあるはずだった


どんなからくりか、分からないが今できる手札で対処するべきだ


ダリアもわかってくれている、大きな肉片の周りに壁を作り出して回復しないようにしてくれている



吸い込んでいく力が大きすぎて、私は動けない


・・・だけど耐えられるはずだ


お義父さんとお義母さんが洋介の収納や魔法の力を受け継いでいるように、魔法的に結婚した私も器が大きくなっているはずだ


レアナー様もそう言っていた


全身の筋肉を固めて流れてくる力の奔流に耐える



「せっかく!せっかくここまで大きくするのに300年もかかったのにィイイっっ!!!!嗚呼わが神よ!<マティディッカよ!!!癒やしの願いを聞き入れ給え!ウェクンダンの契約の元!我が手に六徳の蝶を顕現させよ!>」



男が蝶を動かし蝶がとまった肉片がゆっくりとだけど膨れ上がってきた



「奈美っ!」


「後方よし!撃ちますっ!!」



パシュッ・・ダァァァァンッ!!!!!



「<ウェクンダァァァンっっ!!!!!!????>」



奈美の使ったロケットランチャーで、肉は粉々に砕け散った

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