第587話 蝶の神と肉人形


「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


「とても画期的だろう?英霊や強者の肉を集めて作られた肉を六徳の蝶神<マティディッカ>に捧げて作ったこれこそが新人類ウェクンダンである」


<イカれてやがるな・・フレッシュゴーレム、生き物の肉でできたゴーレムだ>


<チーテック、どうすれば倒せるのよ?>


<普通は切れば死ぬ、だがどこぞの神が作っただけあって何らかの不死性がありそうだな>



肉の中から、ダークエルフの男性の顔が出てきて、ダリアが振り上げた拳を止めた


噛みつかれそうになったダリアを全力で抱きかかえて後ろに下り、肉の塊をセーが金棒でフルスイングした


英霊騎士たちは周りに現れた魔族と戦っているし、エゼルは蝶と睨み合っている



震えるダリアだが・・酷い、子供にも老人にも・・・なんでそんな非道なことをしておいてこの男は笑ってるんだ?


心底愉快そうに、まるで最高の出来事だったかのように愉悦に浸っている・・・罪悪感が全く感じられない



――――・・・なんで、なんでそんなに誇らしげに言えるんだ?



「狂ってる・・・人を何だと思ってるのよ」


「そう!狂おしいほどに信仰しているからできるのさ!!我が六徳の蝶こそ世界を支配するべき神であるっ!!メクタの神など滅んで然るべきなのだ!!!ははは!!!!はははははははははは!!!!!!」



手を大きく広げて蝶を見つめる男



「これぞ信仰の道だ!今いる旧人類など!滅んでしまえば良い!!」



ヂンッ!



エゼルが蝶ごと男をまた切った


しかし蝶にも男にも全く影響がない



「・・・聞くに耐えませんね、私達に痛みを与えた意味はあったのですか?」


「勿論さ、肉人形は感情が薄くてね・・強い感情は肉にも宿るのだよ」



肉人形の皮膚に現れた更に別の誰かの苦悶の表情を男は恍惚の表情で撫でた



「<<ゲケケケ!!!!!ピカァアオ!ピカァオ!!>>」



何処でどう鳴いているかもわからない肉の塊


その哀れな生命体にも底しれぬ気持ち悪さを感じるがそれよりもそれを愛おしそうに撫でる男が生理的に受け入れられない



「そういえば名乗るのは初めてでしたね?子爵の位を賜っているユーキシアフ、いや。最高神マティディッカに仕える救世の使徒ユーキシアフと名乗ったほうが良いかな?」


「そうですか、以前は別の名前で呼ばれていましたが同じ方ですよね?」


「以前は現地人の名前を使ってましたからね、この出会いを神に感謝を、新鮮な活きの良い素材が帰ってきてくれたのだから・・・・・!!」


「ご丁寧にどうも、私も心置きなく貴方を殺せます」




エゼルの闘気が奔った


顔を曇らせていたダリアに、肩を押された・・闘志が蘇っている


先程の男性とは知り合いだったのかもしれないな



「すまねぇハルネー、もう大丈夫、だっ!」


「ウェクンダンよ・・そのダークエルフを取り込みなさい!」



襲いかかってくる肉人形、しかしそれよりも早く、ダリアが殴りまくっている


今度は拳の前にはこのような結界を作って猛烈にだ


殴られた箇所はへこみ潰れているが、スライムのように腕や足、口が出てきてダリアを食い破ろうとしている



大きな蝶はただそこにいるだけ


だが、もしもあれが動けば私たちは全滅の可能性もある


本当に神であればどうなるかわからない


セーもエゼルも攻撃を重ねているが有効な攻撃は与えられていない



「無駄だよ、無限の再生能力、素晴らしき適応能力・・新人類には使われた素材に傷をつけることができないのだよ」



だからなのか?


流星群が地表に落下しているかのような激しい攻撃でも肉は怯むどころか勢いを激しく増している



「新たな可能性!これこそ新たな人類!この世界を統べる存在を作ることこそ我が神の望みだ!!貴様ら適応できなかった旧人類は奴隷として、素材としてただ列をなして待つが良い!!神にその肉を差し出しなさい!」



私もダリアに向かっていくこの肉の後ろ足らしき体を支える部位に向かってハルバードを振り下ろす



ドジャッ!!!



大きさゆえ切り落とすことはできなかったがダリアとエゼルの攻撃と違って激しく出血した


効いている?人であれば致命傷であろうダメージのはずが、巨大さ故か全く私に構うことなくダリアに向かっている


セーの金棒の棘でも出血はしているが基本は打撃であるし、あまり効いてはなさそうだ



「この、ウェクンダンは新たな世界の新たな人間だ、六徳の蝶によって生み出された新たな人類、怪我もせず、進化し続けるのだよ・・嗚呼・・・本当に・・・・・本当に美しい」


「っ!危ねぇ!ハルネー!!」



ガガッ!!



反射的に後ろに跳んだ


肉の腰から伸びてきた肉の先端が鉄の槍が降ってきたかのに床を破壊した


ダリアが声をかけていなければ食らっていただろう



「ハルネー・・?あぁ君は勇者の姉というハルネーかな?いやぁ勇者に見せてやりたかったよ!君の肉が削がれて、勇者を恨んで勇者を憎んで勇者を呪う様子をね」


「私が洋介を恨むことなんか絶対にない!それより洋介は何処よ!!」


「ふむ・・『勇者は何処?』ね・・・今頃兄上の足元で泣いて命乞いしてるかフレン老によってアンデッド化してるんじゃないかな?」



は?


洋介が命乞い?するわけないじゃない


こいつが何言ってるのかわからなかった


だが、万が一にも、億が一にもそれが真実だとすれば



こいつは洋介をいたぶったのだろう



全身の魔力が燃えるように、憤怒が滾った



「< 死 に 晒 せ こ の 外 道 が ぁ っ !!!>」



ハルバードに魔力を通し、醜い肉塊を切り刻む


苦し紛れか横から肉を腕のように出して薙ぎ払おうとしたようだけど更に前に出て腕ごと切り落とす


肉を蹴って駆け上がり、上からハルバードを投げて肉の中央を床まで貫いた



「<ちぇぇりゃあああああああ!!!!>」



追加のハルバードを出して顔のような箇所も真っ二つにする


顔の中央で裂けたはずなのに、元に戻ろうとしている



「<<クェカカカカ!!>>」



伸びた首を切り裂いた


しかし、致命傷にはなっていない



「新人類に向かって魔力も持たぬ異世界人がよくも・・!!おぉ!!そういえばこんな事をいっていたかな?助けてはるねー!怖いよー!死にたくないよー!!だったかな?」



スッと頭が冷えた


洋介は私をはるねーちゃんという、こいつは私を怒らせて楽しんでいるだけだ


ムカつくことを言う白衣の男に向かって2本目のハルバードを投げ飛ばす


男は無傷、2本目のハルバードはわざと投げた、怒り狂っているふりだ



考えろ、考えるんだこいつらを殺す方法を、いや、違うな、洋介を助けに行く手段を



「奈美、怒ってるふりしてるからこいつら倒す方法考えてほしい」


「了解」



空いた両手で焦っているように両手で頭を覆い、耳につけたインカムを使って小声で連絡する



「<このクソッタレが良くも洋介をぉぉぉおおおお!!!!!!!>」


「くははは!!!みっともなく小便を漏らしながら言ってたよ!連合軍の弱みを!おかげで簡単に連合軍を倒せたよぉ!!ははは!ははははーはっははははは!!!あの顔は本当に傑作だった!!!」



3本目、槍を出してわざと男に向かって突撃し、追ってきた肉の塊に向かってかろうじて避けるふりをして苦戦を演じる


セー達も敵はこいつらだけではない、サイのような獣人らしく敵がセーと殴り合っているし湧いてくる魔族に対してエゼルは音を立てて斬撃を繰り出し続けている


ダリアは攻撃目標を蝶に変えてみているが蝶にも攻撃は無意味のようだ



「無理なら無理でいい、こいつらを回避すればいいだけの話だから」



だけど、こんなのがいるならどちらにしろ洋介を連れては帰れないだろう


後ろで別の魔族と戦っている英霊騎士達には余裕がある


別のルートを探したって良い


サシル様は洋介の居場所をここと示したようだけど別の部屋にいるか、もしかしたら私達の突入で別の場所に移動しているかもしれない


私達が暴れれば暴れるほど、ここと城に行ったヨーコとタヌカが中を探りやすくなるだろう


突破するか、迂回するか、戦闘を長引かせるか、一旦引くか・・・


良い面も悪い面も含めて冷静に状況を考えながら、怒りに任せたような戦い方で時間を稼ぎ活路を見出す



「< く た ば れ こ の ク ズ が !!!!!>」


「くははははははははは!!!!」



笑っているが良い、腐れ外道がっ!!

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