第567話 勝利 < 生存
「帰らなくてもいいの?」
「ええ、話し合ったのですが勝利条件は人類の存続であってザウスキアの打倒ではありません」
「敵は倒せばいいというものではないのさ」
たしかにそうだ、敵が潜伏しているのがザウスキアであってザウスキアを倒せば全て終わりというわけではない・・・ザウスキア自体もかなり非道な国だからザウスキアも倒すべきだとは思うけど1対1の戦いじゃないんだから色々と考えないといけない
皆がこっちにいるのはまぁいいけど・・アダバンタスは様子を見るからと一度領地に行ってくれるらしい
ミルミミスと一緒に世界で食料を収納して領地に【転移】する、セーセルリーと領民も一緒に
アダバンタスもコンテナに荷物を入れるのも手伝ってくれたけど信徒たちに大人気だった
大きいからかどこに行ってもよく目立つ
アダバンタスは領地でコンテナを降ろすのに最高に役に立った
僕がコンテナを降ろすには上につけてある太いワイヤーの先のフックを飛んでいる杖に引っ掛けてゆっくり降ろすか、フックをドワーフ製のクレーンに引っ掛けて降ろしていた
でも使えるクレーンはまだ2個しか無いし本当にゆっくりしか動かないから降ろすのに時間がかかっていた
アダバンタスがいればコンテナごと持ち上げられるし、クレーン2個よりも早い、ドワーフたちがすごい対抗してたけどクレーン壊れたら意味ないし止めさせた
お酒入ってたら壊れるかもしれないって誰かが言ってピタリと慎重になったのは面白かった
「こちらで情報を仕入れるのでできるだけこちらの世界には居ないようにしてください」
「わかった、またね」
「はい・・無理しないでくださいよ?」
セーセルリーも海の近くに降ろしてすぐに日本に【転移】する
とにかく『こちらの世界に居ないこと』と『ミルミミスが近くにいること』が重要だ
どういうわけか予言の現場には僕一人しか現れない、ミルミミスがいる限り同じ状況にはならないしミルミミスがいたら多分どんな相手でも倒せる
日本でまたみんなと戦闘訓練し、予言のしーじーの作り込みを頑張ってもらう
百に一つも勝てないなら、万に一つ勝てる道を探すだけだ
強くなっておいて損なことはない
「お兄様帰ったの?!こんな下賤共の中に私をおいて!!???」
「言葉遣い」
「ハイ、ゴメンナサイデスワ」
アダバンタスは領地側で情報収集と軍との兼ね合いがあって領地にいる、関羽となんか仲良くなってた
そしてアダバンタスの妹さんは城に残ってヨーコによって調教されていた
領地で子供に聞いたところロムは死の予言対策になにか作ってくれているらしいし、みんなが僕の死の回避に動いてくれている
流石師匠である
「そもそも、戦う必要はないのではないでしょうか?」
「っていうと?」
「死の予言を始まらせないように向こうに行かないというのも一つの方策と思いますし『戦って打ち勝つ』のは最良の道ですがそもそも戦おうとせずに全力で逃げれば良いのです」
「・・・あ、そうだね」
たしかに、エゼルの言う通りである
未来を避けられないからこそ戦うという考えで鍛えているがそういう場面で全力で逃げればまた未来が変わる可能性もあるはずだ
僕が死ねば向こうの世界では人類は滅ぶ可能性がある
僕が何もしなくても向こうの人類が僕を殺せる可能性のある相手を倒せればいいが、ザウスキアの戦況はよろしくないらしい
国際連合軍が再編されてゴミクズ貴族達が幅を利かせているそうだ
「どうしてそうなったの?」
「それが・・」
魔王との決戦の後、それまで居た生き残った仲間は領地に部下を連れて一度帰った
もともと国際連合軍には世界の貴族たちが参加したわけだけど、それぞれ考え方が違っていた
初期の国際連合軍では貴族の長男もしくは加護や権力の最も強いものが領地に残り、連合軍には妾腹の子や継承権の低い『死んでも問題ない』貴族が中心となっていて付き従う兵も庶民の次男三男で禄に戦闘訓練も受けていないものが多かった
体の良い口減らし「うちの国はこれだけしましたよ」という体裁を保とうというものが多かった
勿論「貴族としてあるべき姿だ」として強い加護を持つものが自慢の精兵を共にして参加した例もあるが少数だ
国際連合軍は大いに戦い、戦果を上げた
戦果からか神々も注目していたのか生き残った連合軍参加者や仲間は加護や恩寵、祝福を授かったものも多くいた
領地に帰った彼らは継承権のある次代にとっては相当目障りだったのだろう
それまで蔑んでいたものは国際連合軍に参加し世界に影響力がある
その上生き残って力までつけている
領地に残っていた長男たちは貴族としての継承権が危ぶまれた
再編される国際連合軍に参加し、さらなる戦果をもって帰らないといけない
運の良いことに死刑宣告のように行かねばならなかった国際連合軍設立時とは違って敵は残党で・・しかも覇権国家ザウスキア、倒せれば旨味も大きい
広大な領地に鉱山、奴隷・・・これまで貯めてきた財宝を得られる機会でもある
各国は新たな国際連合軍は多くの兵を伴い国際連合軍への再編に参加した
そういった理由で以前の国際連合軍とは打って変わってしまった
『滅びかけていた世界で戦って勝たないと生き残れない次男三男の集まり』から『勝利寸前で略奪できそうな国との戦いに参加する長男達』では戦うための意思が違いすぎる
しかも新たな国際連合軍ではザウスキアの広い国土で別々に戦うものだから言うことを聞かない
財宝のあるであろう首都を狙いたいのに場国際連合軍は各地に存在するアンデッドが発生する穴を監視しなくてはならない
まともな軍ならちゃんと国土に幅広く展開している意味を理解しているが言うことを聞かない軍もいるし、いつの間にか軍ごと突如として消える現象が起きている
おそらく魔族によって各個撃破されていると・・・
「このままではザウスキアに潜んだ魔族が勝利し、ヨウスケ殿が戦うまでもなく人類は敗北する可能性もあります」
「駄目じゃん!人類!!!」
思わず、机を叩いてしまった
机の上のお茶とお菓子が転けなくてよかった
「勿論各国には国際連合軍に出している兵よりも精兵がいるでしょうが・・瘴気があふれれば軍は意味をなしません・・・あひゅいっ!」
「水飲む?」
「・・・・っ!!」
コクコクと首を振るエゼルに水を差し出す
収納から出したお茶、話してて時間が経ったから少しは冷めたと思ったんだろうけど日本製の冷めにくい水筒から出したからびっくりするほど熱かったんだろうね
魔法じゃないらしいけどとても信じられない熱さだ、科学ってすごい
「た、鍛錬もいいですがしーじーによる状況を考えると砂は効果的かと思われます」
「砂?」
「はい、戦闘では距離が大切です」
砂、砂か・・・買いに行こう
確かに、僕が受ける初撃は剣だ
『切りかかってくる』ということはエゼルみたいに離れていても空間ごと切り裂くわけじゃない、目の前に来て切りかかってくる
仲間がいるなら仲間が前にでてくれるけど一対一なら自分でどうにかしないといけない場面が多かったから仲間とも離れるような戦闘方法は除外して考えてしまっていた
旅での戦闘も、僕がむやみに逃げると仲間が僕を見失ったりするし・・・うん、砂なら相手が倒せないまでも近づけないよね
僕の目や首を切り裂けるってことは僕の障壁も無視してくる相手だ
でも目の前にいきなり砂の壁が現れれば剣で切り裂こうにも剣の長さよりも先は切り裂けない
魔王と違って絶対に倒さないといけない相手ではない、勝つのではなく生き残ることが大切なのだ
うん、ちょっと希望が見えてきた!
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