第529話 聖騎士候補山田の苦悩


いち早く魔力の操作を覚えて『エース』と褒め称えられて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・調子にのっていた


車を持ち上げられるだけの筋力、ビルの5階までの高さまでぴょんと跳べるだけの脚力


単純な筋力で競う競技ならおそらく人間を超えた


聖騎士候補の中でも、強化の魔導具無しで戦えると仲間たちからも称賛されて・・・・調子にのりすぎていた



「俺はダメな奴だったんだ・・・」


「まぁそうだな」


「ひでぇ!」



ボブに敗北して、自分を見つめ直す機会ができた


世間で『圧倒的に身体能力はあるのに負けた』ってボブの引き立て役として全世界で報道された


ネットでは「力任せでテクニックもない山田は何故世界チャンピオンに挑んだのか?」「山田イズ ルーザー」「山田ダサい」「KA・MA・SE・I・NU」「全国の山田に謝れ」「ワンパターン山田」などとボロクソに叩かれ、ネットの玩具にされている


親友にも「ダセェな!なんであそこであぁしなかったんだ」と言われてますますへこんだ・・・しかし親父は「世界チャンピオンに挑めるなんてさすが俺の息子だ」と言ってくれた


仲間もわかってくれて気にするなと慰めてくれた


ネットやテレビに出回る動画は見やすく、わかりやすく編集されていた


最近のスマホマジすげーと思う


普通の人の目だと、ボブとの戦いは目にも止まらないほどの速さだったはずだ


ボブも「俺のダチをけなしてんじゃねーよ、カオルはブランクもあったしおれが無理に頼んで挑戦したんだ、心無いことを言うぐらいならやつのパンチを受けに行ってみろ」なんてコメントしてくれて、持ち上げられたがあれだけ叩いてたネット民からの手のひら返しは嬉しくもなんともなかった



いつの間に友達になったんだよ初耳だったわ



・・・・・この機会だから自分の悪い部分を仲間に聞いて見る


いつの間にか、知らないうちに俺は魔力も使えてエースなんてもてはやされて調子にのりすぎていたんだ


もしかしたら俺は周りの仲間にも迷惑をかけていたかもしれない



するととんでもないことを聞かされた



「俺ら試合だったら負けるけどさ、真剣勝負なら多分お前弱いぜ?」


「・・・・・は?」



まって、それはダメ


最後に残された俺の自信だ


そこまで奪わないで


怒りすら湧き上がらず、躊躇してしまう・・・・・もしかして本当にそうなのか?



「試してみるか?」


「お、おう」



いつものように10人を相手にしていつものように体重を載せた一撃を繰り出す


ボクシングで学んだ後、武道にも手を出した


ボクシングにはない踏み込みと体重移動、威力の出し方に感銘を受けた


ボクシングでは他の武道と違ってステップによって『自分の力を出しやすい』状態を作り出して拳を繰り出す


しかし武道では腰を落とし、踏み込んで力を発揮する



――――体重は威力になる



背面蹴りや胴回し回転蹴りの破壊力の高さは格闘界では常識だ


カポエイラでもブレイクダンスのように蹴ることがある


全身全霊の力を込めるわけでもなく、疲労感もないのに自ら体幹ごとずらして全体重をのせた蹴り


まともに入ればどんな相手でも一撃で倒せるだろう



本当に、感銘を受けた



ボクシングでは体重による階級があり、その枠内でそれぞれが競い合う


すべての階級が同じではない・・同じにしてしまえば重いほうが有利すぎる


もちろんレアナー教の聖騎士に体重制限や階級は存在しない、しかも武器や防具・・更には魔法までありだ


武器あり用意に胴回し回転蹴りなんてことは出来ない、だから示現流だかのチェストーと叫ぶ一撃必殺の上段切りを自分なりに考えた


全体重、全筋力を載せる渾身の一撃


それを今の自分が出来るやり方にアレンジし、敵に向かって高速で跳んで全体重を載せた一撃必殺の戦闘スタイルを編み出した


今では縦に斬りかかるだけではなく横に跳んで水平に切ることも出来る


・・・このやり方で聖騎士部の中の試合で勝ってきた


無手も武器ありでもだ


ただ関節技の技能はなかったが教官に教わり、後は魔力による強化で強引に勝ってきた




聖騎士部の仲間10人にいつもとは違う形式の試合を願い出て・・・・そして全敗した


最後には笑いも出ない


いつもの一対一での試合では一撃を決めればおしまいだが今回は違う



最高の一撃、最良最適の・・こ完成された戦闘スタイル・・・のはずだった



が、盾で受け止めるか逸らされて反撃された



他の皆も魔力による強化が出来るようになってきた


俺の動きに反応も出来るし、一撃であれば最低でもかろうじて受け止めることが出来る


だから、この威力を受け止めた段階吹っ飛ばすか大きく体勢を崩させて終わらせられる試合と違って、真剣勝負形式であれば俺は弱かった




すごくへこんだが俺のやり方を知らない相手には有効だろうし指導するヨーコ様に注意されなかったのは「褒められて伸びる子だと思った」と言われたが・・やはりすごくへこんだ、ボロ雑巾のように物凄くへこんで・・・もう穴掘って自分で入りたい気分だ


完璧にパーフェクトな戦闘スタイルと思っていたのに致命的な欠陥が見つかってしまった


どうすれば俺が強くなれるのか、アドバイスを貰った



「調子にのって防御をおろそかにし過ぎ」

「急所の狙い方が雑い」

「絶対に一撃必殺じゃないんだから、もしも外したら自分が死ぬことになりかねないよね?」

「集団戦闘で周り見てなさすぎ、前しか見てないから狙いやすい」

「山田くんはお好み焼き作れるし良いんじゃない?」





最後のは関係ないだろう


これからも努力は続けるが凹んでいると三上さんに呼び出された



「料理部門でアドバイス欲しいから来て」


「俺聖騎士部なんですけど・・・だいたい先輩も料理うまいじゃないですか」


「来てくれば助かるんだけどな」



頼まれるとひょいひょいついていってしまう


気分転換も必要だろう


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