第530話 山田と料理<T.K.O.>
行ってみると理由はすぐにわかった
見たことのない素材だ
料理部門には今でこそ世界の料理人が集まっている
元は世界の料理を作っていたプロたちの巣窟
怪我や病気、年齢で引退していた人たちを中心に、信徒たちが集まって切磋琢磨している魔窟だ
あまりにも美味い料理、飽きることがないレパートリー、一昔も二昔も前に料理本に載っていたシェフが腕をふるってくれることもある
まぁ店と違うから頼んだら出てくる「創作料理」や「シェフの気まぐれ料理」なんかはやばい、その場で実験台にされることもある
スイス人のフレンチシェフが「アフリカの料理を中華の技法で日本人の舌に合うように出汁は鰹節で作ってみた」なんてのはチャレンジがすぎる、味は美味しくも不味くもなかったが
聞いたこともないような料理が色んな食材で出てくることも多々ある
そんな場所に何故俺が呼ばれたのか?
ボクシングやってる時はずっと料理店でバイトしてたからだと思う、三上さんとは大昔にホテルのバイトで一緒だった
もともと力仕事のはずだったのに料理の腕を見込まれて引き抜かれた・・ナチュラルウェイトで戦っていたとは言え少しは減量もするしその時期は地獄だったなぁ・・・
机の上を見てわかった
ラクダ、カンガルー、ワニ、ヘビ、ヤギ、ヘラジカ、ダチョウ、見たこともない大量の鳥にわからない肉
他にもみたことのない野菜や珍しいたまごもある、ダチョウの卵とか恐竜の卵にも見えるな
異世界の食材を出されることもあるけど、今回は地球の食材だな
「ここにある食材を異世界でも簡単に食べられるようにしたいんですって」
「簡単に、ですか」
「向こうは食糧難、こっちで作るだけじゃなくて向こうに直接食材を渡すこともあるそうよ」
聖下は向こうの世界の食糧難も解決しようとしている
こちらの世界でも『飢餓で苦しむ』なんて人もいるらしいが向こうの世界はこちらの比ではなくどこの国でもその辺の道に死体が転がっていても普通のレベルだそうだ
何度か動画で見たが向こうの世界は殺伐としているっぽい
「ようくんはカレー粉や出汁、業務用のコンソメなんかもあるから今回は『簡単に、大量に作れるもの』をこっちで少し考えてみてほしいんだって」
食材で良かったのは犬と猫が入っていないことだ
国によっては食べられるそうだし批判もあるが食用は食用、あるかもしれないと思ったけど聖下がそういう加護を授かっているからと犬・猫・スライムそしてカタツムリは食べてはいけない
カタツムリはそういう神様から加護をもらったからで神がそんな姿だったらしい
それと人と話して魔法を使えるほどの知性ある鳥も駄目、そんなの知らな・・・いや定村さんについているタカくん様は魔法使えるし明らかに知性があるよね
問題は謎の肉だ
聖下が世界各国で食料を集めている
世界は広い、多くの種類の肉や野菜が食べられている
牛・豚・鶏だけが肉ではないのだ
机の上に目立っているのは多くのカンガルー、オーストラリアではよく食べられるポピュラーな食材だけど日本ではカンガルーは動物園に居て「わ~かわいー」としかならない
食べたことはあるけど調理するなんて初めてだ・・・
日本国内でもこれ食べれるの?と不思議に思うものもある
以前どこか日本海側に行った時にイベントで貰った浜料理、魚介入り味噌汁の中にカメノテと言うものがはいっていた
地元民は「これはカメノテだ、いれると旨い出汁が出る」と言われて食べれない出汁なら捨ててくれと密かに思ったが友人曰く貝の仲間だとか
帰って調べてみるとエビやカニと同じ甲殻類であったそうな「あの見かけで?マジカヨ」とビビったのは懐かしい
他にもイソアワモチやホヤ、ルッツといったマジでコレ食えんの?みたいな食材もあるし地方には生魚を切り刻んで発酵させて作る「切り込み」なる調理法もあったりと日本だけでも食文化は奥が深い
食文化は様々だし『分子料理』なんて言う、料理が科学実験のように作られる新たな調理法も生み出されてきている
ここでは研究局の人によって調理機材ですら機材が取り合いになっているし、聖騎士部でも何度注意しに行ったことか
分子料理は珍しいものではあるが昔の焼くだけ煮るだけだった料理だって科学の力は取り入れられてきた
料理は物珍しければいいというものではないがこれも進歩なのだろう・・料理を光らせたりしてるのは意味がわからないが
自国で発祥した食文化が外国で大きく変化することはよくある
日本に来た料理が全く別の形で進化して定着したように、逆に海外に進出して進化することもある
以前食べた寿司ではカリフォルニアロールは美味しかったがマンゴーやチョコ、フォアグラ、生ハム、メロンを使った寿司なんてものもある
既存の美味しいものを寿司と合わせようとしたのはわかるし美味しいは美味しかったが、酢飯や醤油あっての美味しさではなかったのが残念だった・・・むしろ酢飯も魚もなしのほうが美味しかったまである
中東で「HOMUBA EDAMAE ZUSHI」にはねぎとろのような見た目のアップルジャムがあって試しに食べた瞬間噴いたと親父が言っていた、赤色着色料ちょっと強いマグロかと思ったそうな・・・
若い頃にゲテモノも食べ漁ったり毒抜きも色々したって話をしたことがあったから呼ばれたんだろうな
世界のVIPもくるこの城、エスカルゴのような「定番だけど出せない料理」があるのは仕方ないが一般的な食材は網羅し、変わった食材だって美味しくして「ここに来た一生の思い出となる」ように作れるように研鑽と研究をしようとしている
ここの料理人は、いや料理人だけではないな
信徒や神官たちは怪我や病気で己の人生をうまく歩けなくなってリタイアしてここに来たものが多い
だからか、治癒で復帰して生まれ変わったような心境でチャレンジしていく人間が多い
100歳でロードバイクやパラグライダー、ジェットスキーを始めたり、スマホでレアナー教老人会SNSグループなんてものもやってる始末
挑戦する老人を可愛いとも少しは思うが危うく見えて仕方ない
ボクシングを半世紀以上前にやってたじい様方が、以前のライバルとここで出会ってボクシングするとか・・・年寄りの冷や水もいいところだ
いや、本人たちには大事な事で新たな人生を謳歌してるし、挑戦できて死ぬのなら良いとさえ言っている・・セコンドに立つ気持ちをちょっとは考えてもらいたい
寿命以外で死ぬことがないのもレアナー教だが即死は止められないしね
さて、先輩には「胃と舌は確か」だからと言われていたし毒見しつつ誰かが馬鹿しないように見守るとしようか・・・いやだなー
爆発するかもしれないし粉末が出ると機材がダメになるかも知れないし二酸化炭素消化器と窒素消化器を幾つかもってこよう・・・・・また電子レンジで卵をチンする馬鹿がいるかもしれない、ダチョウの卵もあるしな
後は・・味見で倒れないように・・・できれば良いなぁ、いつものことだけど・・・・・
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