第499話 パーティでのスピーチ
深夜まで続いた会場の治療を打ち切ってもう一泊することにした
世界中で集めてもらっている食料が集まる予定がもう少し先なのだ
なにやらスマートフォーンを見ると治療を続けないことに「無責任じゃないか?」という意見もあるようだけど仕方ない
だってこれ以上続けると僕にだって予定があるのだ
そもそも神官のいなかった大国に僕一人、続けると言ってもいつまで?
何年経っても終わらないだろう
しかも暴れる患者を抑える軍隊の人も全然足りなくなってきた
オークみたいに暴れる人もいるし人員が足りないし仕方ない
『治療した人が暴れて死傷者が出ました』とか最悪だ
ダートは何故かほくほく顔だ
国民が治って嬉しかったのかもしれない
集まっていた有名らしい人達や政治家の人や軍人さん達が集まってパーティをしていたので参加する
「皆が君を待ってるからね!今日はありがとう!!」
「ケイシーのエスコートは任せました」
「もう、おじいちゃんったら」
<フレーフレー!!>
なんだかわからないけどアメリカのパーティでは男女一組で行くことが多いらしい
レアナー様で良くないかと思ったが、思った瞬間にレアナー様は<あー、疲れましたぁ>といってまた小さくなって僕の肩に腰掛けた
絶対疲れてないし、ケイシーと僕が触れ合うのを見たいだけだろう
「おねーさん疲れてるなら参加しなくてもいいんですよ?」
「私は大丈夫、それよりずっと働いていた司教様は大丈夫なの?」
「大丈夫」
ケイシーは会場で暴れる人がいてからも外で並んでいる人を手助けしていたらしい
なんというか、この人を見てるとはるねーちゃんたちの顔がちらつく
胸のおおきなはるねーちゃん、背の高い黒葉、髪の金色のヨーコ
ケイシーは胸は大きいし、背は高いし、髪は金色だからか、不思議と連想してしまう
「どうかしましたか?」
「うぅん、なんでも無い」
今頃どうしてるかなぁ
会場に入るとものすごく歓迎された
こちらで治療した有名な人達、奥さんや旦那さん、子供や親、治した人もパーティに来ていた
泣いて感謝されたり拝まれたりもする
だけどこちらの文化の抱きしめてキス?と言うのは本当に慣れない
「どうかした?」
「この抱きしめてキスするのなんか慣れて無くて」
「わかる!私も日本育ちだから」
「いや、斬りかかられそうで」
「えっ」
向こうの世界でこんなことしたら普通に攻撃を考える
回された手には短剣が握られているかもしれない
挨拶が終わるとなにか話していたダートだが僕は席に座ってレアナー様に会場の料理を食べさせていた
「洋介くんもなにか話すかい?」
アメリカのパーティではスピーチというものが大事らしい
ふむ、ダートの話を聞いていてアメリカの未来は明るいやら行動しているやら聞いたが、つまり今何をしていてどんな結果を目指しているかを話せば良いわけだ
貴族が戦いの前に士気を高めるために話してるようなやつだね
「おねーさん、レアナー様任せても良い?」
「え?どうするの?!え、え??!」
レアナー様見えてなかったのか、少し魔力を捧げて見えるようにしてからダートのもとに行く
「こんにちは、レアナー教洋介です!」
「えーっと、スピーチってのはあまりしたことがない、と言うかさっきのダートのを見たのが初めてなのでなんとなく真似てみます」
はははと笑ってくれるパーティの人達
受け入れられていることだけはわかった
「えっと、この世界の将来が明るいかはわからないです!なぜなら、向こうでは今戦争が起きていて、予言が終わってなかったから!です」
笑いも止まってかたまった人達
ここの人達には初耳なんだった・・
「魔王の残党が居て、彼らは・・・・いや、これどこから話せば良いんだろう?」
「私に聞かれても・・ゆっくりでいいから話してみてくれるかね?」
「わかった」
ちょっと考えてから話す
やっぱりダートのようにうまくスピーチってのは出来ないな
「異世界は現れた強い魔王によって世界の半分ぐらい侵攻されて、十数人の勇者が僕の前にやられました」
よく考えて話す
向こうで常識でもこちらでは全く知られていない
「僕は最後の勇者、僕が死ねば、向こうの世界は瘴気によって滅亡して、その世界とつながる幾つかの世界も滅ぶという予言がありました」
何処からどう話せば良いのか、難しいな
「それで、神様たちは両親の復活を報酬にして、僕は魔王を討伐しました・・・・あ、ここ関係ないか、えと、事故した時に僕の側に両親がついていたので魂が近くにあったからできた方法だそうで・・・それと僕が弱くてよく腕や足を飛ばされていたから人の体を作るための素材があったのも良かったらしいですね」
スピーチって難しいな!!?
ダートも、ここの人達もそうだけど、よくうまく話すよね!?
「・・・・・何処まで話したっけ?何話せば良い?」
「魔王を倒してところまでだね、では何故地球の未来が明るくないのかもしれないのかね?」
ダートに言われて助かる
こういうのは本当に僕向きじゃない
「そうそう、瘴気を撒いて世界の半分を滅ぼした魔王は確実に倒したんだけど、予言の魔王は彼じゃなかったのかもしれないんだ」
これにはびっくりしたよ
だって、もしも僕が倒した魔王が魔王じゃなかったのなら報酬で生き返ったとーさんとかーさんはどうなるのかと
レアナー様によると全く問題なかったけど
「向こうの世界では今その残党を倒すためにザウスキアって国と30個以上の国が戦ってるんだけど、そこに別の魔王みたいなのがいるみたいなんだよね、うん」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・そ、それで終わりなのかい?」
あれ?説明これで終わりじゃ駄目だったかな?
「え、うん、これ今起きてることだからね」
「その戦争の状況は今どうなっていて負けるとどうなるか教えてもらってもいいかい?」
あ、そういう部分も気になるのか
「うん、えっと魔王は瘴気ってのを出していて、建物や畑、人をなかなか治せない病気にするんだ」
「なるほど」
「その瘴気が人にかかったら死んでアンデッドや生きたまま死体になることもある、ゾンビだっけかな?ザウスキアは奴隷が居て、彼らは死んだらアンデッドになりやすい場所にいれられていたらしいからすごく数が多いんだって」
奴隷、その一言で会場の人達の眉がひそめられたのがわかる
手で口を覆った人もいる
「戦況、は?」
「首都まで追い詰めたらしいけどさすが覇権国家ザウスキア、そこから先には進めなくなってるみたい」
だけど僕が前に出ても危ないだけだから後ろにいるようにしている
「だから、僕は・・・食料をこっちで集めて、向こうで使って、奴隷を買って、魔法で支援してる」
奴隷を買う、その一言でパーティの人達がかたまったし嫌な顔をしている人もいる
こっちでは奴隷や人の売り買いって言葉は良くないって聞いていたしね
「洋介くんは奴隷を買っているのは何故なんだい?」
ダートに聞かれたので答える
こちらでの当然の疑問を、ダートは聞いてくれる
僕にとっては何が疑問かわからないから本当に助かる
「奴隷は向こうの世界だと普通なんだ、前に出ている軍隊にとっては足手まといだったり攻撃してくるかもしれない奴隷なんて邪魔だからお金払わないと殺されちゃうからね」
「そのお金は何処から出てるんだい?食料も、奴隷も、そもそも向こうの世界の話だ・・・・君がする必要はないだろう?」
「お金は僕のお金使ってる、レアナー様も納得してるよ?だってそれで人が救われるならそれで良くない?」
なんだか暖かかった会場の空気が変わった気がする
地球の中でもこの国は奴隷という言葉に敏感なのだと誰かに教わった気がするしそういうことかな?
「・・・・・魔法学校の計画も関係するんだったかな?」
「そうそう、魔法学校!瘴気って言うのは広がっちゃうと誰も住めなくなるし、生き物は魂を穢されるからよくないものなんだ」
「それでなんで魔法学校の計画?」
「予言では『僕が死んだら、こっちの世界も滅ぶ』ってあるしそれがどんな形かはわからないけどこっちの世界と向こうの世界がつながるかもしれないってことだよね?」
「そう、なのかな?」
「瘴気でお墓に入った人がゾンビになったら大変だろうし、もしもの時にその予言にあった状況をひっくり返せる人がこっちに生まれてたら予言もひっくり返せないかな?大気汚染とかにも効くらしいよ?」
「色々聞かせてくれてありがとう!とても興味深い話だったよ!」
なんだかダートによって強引にスピーチは終わった
一応会場の人から拍手が聞こえるしレアナー様も<わーぱちぱちぱちぃ>と言っているしこれで良かったのだろうか?
スピーチって大変だね
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