第463話 遠い誰かの過去


僕達は二人で一つだ


一緒に笑って一緒に過ごし、一緒に泣いて、それでまた一緒に笑った



君の笑顔は僕を癒やし、貴方の優しい瞳が私を癒やした




「今日はどこ行く?」


「湖で一緒に釣りでもしない?」


「いいね!」


「こら!あんた達仕事もしないで!!」


「やべ」


「逃げろー♪」


「待ちなさーい!!」



湖畔で日が暮れるまで釣りをし、僕達は幸せだった


厳しい時代だ、いつだってそうかもしれないが


だけど二人でならどんなことだって乗り越えられると思っている



「■■■と結婚させてください!」


「いかん!■■■には良い相手がいる!お前みたいなやつ相手にやれるわけがないだろう!!」


「お父さん!私は■■■■と一緒になりたいの!!」



精一杯の言葉だったがお父さんには通じなかった



「■■■■、私も君のことはそこまで悪くは思っていない、しかし考えてみてくれ」



聞きたくなかった



「相手は資産家で■■■を一生苦労させることはないだろう、それに比べて君はどうだね?」


「それは・・・」


「やめて!私は■■■■がいいの!」



考えてしまう


僕よりも、彼女の幸せのためならそうしたほうが良いのか?


■■も始まりそうで■の命なんて吹けば飛んでしまう・・かも知れない


彼女のことは愛している


彼女の幸せのためなら



「お父さんなんてだいっきらい!私は■■■■じゃなきゃ嫌なの!!」


「この親不孝者め!!誰か!!部屋に連れていきなさい!!!」


「止めて!触らないで!!離して!!■■■■!!■■■■ー!!!」



連れて行かれた■■■、しかし僕の目の前には何人も銃に手をかけた男たちが間に立っていて、動けない



「■■■■、君には悪いことをした」


「なら結婚を許して下さい」


「・・・すまない、君と結婚しても■■ーは幸せになるかもしれない」


「・・・・」



苦虫を噛みしめたように苦しい顔で■■■のお父さんは伝えてくる


これが男としての親としての誠意だと、わかるように



「君は好青年で、生まれは良い、努力家で誠実、素晴らしい人間だと思っている」



少し迷っているのはわかる


今ここで説得できなければもうチャンスはないかもしれない



「だったら!」


「だが!君よりも幸せにしてくれそうな男がいるのであれば!父親としてこれが私のやるべきことだ!!」


「納得できません」


「だろうな・・・これを持って帰って・・・二度とうちに顔をだすんじゃない」



ドサッと渡された札束



「こんなもの!!?」



投げ捨てようとしたがお父さんに腕を掴まれた



「■■■、私は娘のことを大切に思っている」


「だったら・・・!」


「君の家族は大きな借金を抱えているだろう?今にも君の家族は借金取りに連れて行かれそうだ」


「ぐっ」


「そんなところに■■■を連れて行ってみなさい、連れ去られて売春宿にでも閉じ込められてしまうだろう」


「・・・・・・・・」


「悔しいだろう、しかしこれが現実だ・・・・この金は君の新たな生活のための金だ」


「新たな・・・?」


「これだけあれば別の土地でもやっていけるだろう、あの日の礼だ、受け取りなさい」



持たされた金はかなりの金銭だ


だけどほしいのは金じゃない、■■■との未来だ



「君は君の家族とはもう別れるべきだ、反省せずギャンブルをし続ける父親に飲んだくれの母親、街の鼻つまみものだが君は違う」



耳が痛い、確かに父も母も今は良くはないだろう


だがいつかは立ち直ってくれるはずだ



「真面目に仕事し、暗い状況でも落ちてる財布の中身を抜かずに人に届ける、良い男だ」


「だけど、だけど■■■はっ!!」


「君には酷かもしれない・・けど、マ■■の幸せを考えるのなら・・・わかるね?」


「・・・・・・・・・っ!!!!」


「・・・・・私のバイクの鍵もやろう、これで別の地にまで行きなさい、さようなら■■■■、君の幸せを願うよ」




打ちのめされていた


身分が違う、住む世界が違う


■■■は絵画のお姫様のようで、僕は低所得​層、いや、それよりも悪いか


父は名士だったが人に騙され続けてギャンブル狂いに、母は妹を連れて出て行ってしまった


今の母は新しい母で父とは競馬場で出会ったらしい


名士であったのに、金も権利も全て使い潰し、だれも住まないようなすえた匂いのする小屋に住んでいる僕ら



マ■■はまだ父がまともだった頃に家族の付き合いで出会った女の子だった



お互い仲良くするようにといわれてお転婆なマ■■の子守のような役割にいつの間にかなっていた


住む場所が変わって、環境が変わって、ボロい服を着るようになった


それでも彼女はずっと一緒にいてくれた





湖畔で思い出を懐かしむ





今日が終わったら、朝になったらここを去ろう


誰も知らない土地で、やり直すんだ


■■■の幸せを願って・・・





だったのに





「どうしてここにいるんだ?」


「貴方を追ってきたのよ」


「どうして・・・君の幸せのため



パーンっ




頬を平手で叩かれた


全身の力を込めた本気の一発



「本気で言ってる?」


「・・・・・あぁ」


「ふん!■■■■、私には貴方がいないと幸せにれないのよ!!」


「■■■・・・」



ヒリヒリと痛む頬


でも考えないといけない、僕一人でここを出ていくのか


それとも二人で



「さぁ行くわよ!」


「どこへ?」


「ここじゃないどこかよ!」


「でもお父さんが」



あの頑固親父なら娘がいなくなったと知れば怒り狂って猟銃を持って山狩りでもしてくるはずだ


あの人が一声かければ何十人、何百人も集まってくる


逃げられっこない



「手紙残してきたから大丈夫よ!!」



いや、そんなわけないだろう?!


だけど頭の良い■■■のことだ・・もしかしたら・・・いや、どうだろう、■■■のやることだ、半分は悪いことになる



「・・・手紙って何を書いたの?」


「『追ってきたら舌噛み切って死ぬ、■■■■は私と幸せにならないなら家の人間に言って■■■■の妹を殺してもらうように伝えるからね、絶対に私を護ってくれるから』って書いといたわ」


「酷いな!!?」



胸を張って笑顔の■■■、相変わらず無茶苦茶する



「まぁいいじゃない、きっとこれで大丈夫よ・・・もしも追手が来たらそういうふうに暴れて時間を稼ぎなさい!」


「わかったよ・・・僕の彼女は過激だね」


「彼女?違うでしょ?妻よ?」


「んぐっ!?・・・でも本当に良かったの?」



突然妻と言われて驚いた


そうだよな、もうこれ駆け落ちみたいなものだ


だったら、聞いておかないといけない



「何が?」


「相手はお金持ちで、応援してくれる家族があそこにいて、贅沢な暮らしができたはず・・・どうどう」


「チッ」



手を振り上げたので両手を上げて止めるように促した


舌打ちして不機嫌そうな■■■、でも不安で、聞いておきたいのだ



「そうね・・・きっと贅沢な暮らしができたことでしょうね」



胸が痛む、お父さんからお金をもらったとはいえこの金はそもそもそういう金ではない


以前道で拾った泥だらけの財布、中に知ってる写真があったから届けただけだ


いや、それにしては貰った額が大き過ぎるが何も無しからの生活、これっぽっちじゃ全く足りないだろう




「幸せな両親、美味しいご飯、隙間風のない家・・」




マ■■が指折り数えていく




「銀食器で料理を食べて、使用人もたくさんいて・・・」




■■■の今までの生活にあったものだ


この先、僕と行けば二度と手に入らないものかもしれない




「朝起きると顔を洗うお湯が用意されていて、昼に紅茶を飲んで、ドレスを着て夜会に出て・・・・」




かつては僕にもあった生活だ


これを失うというのは、とても女性には耐えられないだろう


母は耐えられなかった







「――――・・・でも、朝起きると貴方がいなくて泣いちゃうわ、■■■■は私が泣いてもいいって言うの?」



「だけど、全部失った生活はもっと辛いかもしれないよ?」



「全部失っても良いわ・・だって貴方を失うよりはずっと良いもの」



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