第427話 さまよう鎧


春日井が迷宮に行こうと言い出したのは驚きましたわ


領地にいても拝まれたりして身動きが取れなくなるし元杉とミルミミスさえいればここは安全でしょう


春日井の武器は大きく目立ちますし処刑用の武器のような威圧感がありますから解放された奴隷の目には酷でしょう


戦況はとてもいいようですね


ザウスキアは数多くの勇者を召喚してきた善の国


これまで魔王との戦いに貢献してきた国だったのでしょうが昔からおかしな部分は見えていました



覇権国家ザウスキア、強欲国家ザウスキア、奴隷国家ザウスキア



奴隷制度は昔からある


敵国の人間というのは戦争が終わった後にすぐに仲良くなれるわけではない


攻め滅ぼされた国の人間は憎しみは果て無く続き、破壊工作を行うものだっている


だから奴隷にすることはよくあることだし区別でもある



善の神の多くは人に近い形をしている


故に人こそが至高の存在であり、尖った耳の私達や獣人はひれ伏して従うべきだと彼らは考えている



理解は出来ます、納得はできませんが



魔族が居て、魔王がいる


純粋な人から離れた存在ほどを敵として教え込まれるその思想は脆弱な人間が身を護るためなのかも知れません


そして人に近いほど人の結束は高まり、人から姿が離れるほど区別される


姿や寿命、性質が違うと関係は簡単に不和を産み、やがていがみ合って戦うこともある


連合軍は『どの種族も平等』というという建前を元杉が言ってくれて助かりました


似たような発案はこれまでにもありましたが発案者は神々が認めた『最後の勇者』


結局はどの種族も純粋に魔王を討伐するというのではなく魔王を倒した後の為の権力争いでしたが・・・『最後の勇者』が負ければ人の世は終わる


彼は親の復活のために命がけで何度も死にそうになっていたのは見ていて連合軍のギスギスした空気を変えさた


我が子を見るように、ハラハラしていたことでしょう


おかげで一度襲撃したわたくしは今でも認められておりませんが



ザウスキアはわたくしの国にも無茶苦茶言ってきたことが何度かありましたが善の陣営としておかしな点はありませんでした


せいぜい元杉が戦ったのだから世界各国の勇者領地はザウスキアのものだとかいつもの戯言や、領民はザウスキアに所有権があるなどと言って冷ややかな視線を送られた程度だ


決定的におかしかったのは魔王討伐の後だ


魔王は倒され、いつものように母国の力を使って強欲に資源を奪いに来た後


連合軍と勇者の一行が生き残った魔王幹部を討ち滅ぼそうと残党を討伐しようと各地を巡っていて、追いかけた先にザウスキアの迷宮があり・・・・・ザウスキアは協力を断った


なぜなら『魔王は斃された、これ以上の協力は不必要である』からだと



迷宮は神々が作ったもの


入り口とは遠く、別の国に抜けることもある


数体の魔王軍幹部の行き先がザウスキアだった


そしてザウスキアの国王は勇者の仲間たちを妨害し、更に勇者領地を狙った


亜人を物としか思っていないザウスキア、列強諸国の中でも純粋な人こそが世界を統べるにふさわしいという思想も腹立たしいがそれでも善の神を祀る


属国も多く、彼らを攻める理由もなければ攻めるだけの余力もなかった、無いはずだった



勇者領地に協力者がいて助かりました、全世界に情報を伝えてくれました


何も知らずに危機を迎えるなど危険すぎます



ザウスキアの属国、ゼルヴェゼ、プリケシュ、アレパンウェラも反旗を翻していますし、いくら大国であっても30を超える国々が相手ではザウスキアと言えどもただで済むことはないでしょう



どうせならこのまま滅んでしまえばいいのだ



わたくしはこの迷宮を裏から入りましたが表は普通の迷宮と同じようなものだ


ただ元杉の魔力を強く感じる


奥に行けば危険はないそうで通常の迷宮とは全く異なる作りだそうだ



「グゥオオオオオオオオオオオオ!!!」


「おらぁっ!!!」



洞穴や砂場、草原などとは違って石造りの迷宮


オーガがでてきましたが春日井ならいけそうですわね


獰猛に暴れ、木の棒を振り回していますが春日井も武器を合わせています


わたくしでもあんなことは出来ません


元杉に頂いた[守護の指輪]が発動していない以上、まだ問題はないでしょう


いつでも仕留められる位置で待機していましたがオーガの手足を切り裂き、落ちてくる頭に下からハルバードですくい上げるように頭を割りました


とんでもない膂力です



「はぁ・・はぁ・・・どうだった?」


「成長しましたね」



近付いてタオルを渡す


彼女にとっては強敵でしたでしょうし、きっと疲れたことでしょう



「ありがとう、改善点は?」


「硬い頭を狙うよりも首のほうが良かったのでしょうが・・悪くはなかったと思いますわ」


「むぅ」



訓練のためにも何体か倒して行く


春日井も安定して倒せるようになりましたが奥からカチャリカチャリと嫌な音がします



先行して見に行くと・・・全身鎧が数体いました



彷徨う鎧、強い戦士が死亡して生まれた存在


英雄の死後、迷宮から出れずに迷宮に取り込まれた霊


多くは大したことがないのですが迷宮の主よりも強いものも存在することもある、厄介な存在


とても希少な例ですが彼らは生前の力を持ったものも居る


下手をすればわたくしよりも強い可能性がある



問題なのは彼らが敵であるのか、ですが・・・



ひきましょう、春日井もいますし




「あ、久しぶり、もうこんな所まで来たのね」


「春日井・・・?」


「大丈夫、味方だから」



手を上げて彷徨う鎧に向かう春日井



ガシャ、ガシャ、ガシャ



彼らは春日井に向かって膝を折りました


敵対しなくてよかったですわ


彼らのような存在は稀に加護をそのまま使えますし魔法も使える知性が残ったものもいる


悪辣な手段を用いてくるか、それとも手助けしてくるかはわかりませんし迷宮で出会えばとても危険です


罠も人を癒やすものばかりで危険なものもないですし、とても希少な彼らが何十も集まって、更に知性が残ったまま、皆人の味方をする


なんて非常識な迷宮なのでしょうか

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