第412話 不審者


しばらくクソ洋介の様子を見てついていくと桃色の髪のレアナーだと思われる人間が海の家、じゃなくて温泉の家に行った


クソ洋介は一人になった


チャンスだ



「少し話したいことがあるんだが」


「なんでしょう?」



思ったよりも高い声、まだ変声期も迎えていないことがわかる



「大事な話だ、ここじゃなんだから」


「あの、もしかし、え?」



すぐ近くが更衣室なので連れて行く


男同士だしこんな水着で話すのはよろしくはない


本来お互いスーツで会うのが正しいだろう


人目を避けたかったというのが正しいが



「ちょ、なに!?」


「君とは話さないといけないことがあるからね、なにすぐに済むさ」


「は?なんだよ!??」


「お互い胸襟を開いて話し合いたい」


「きょうきん?」



いかん、見た目は14歳ほどで、掴んだ手首も細い


テレビでは「異世界に居たから常識が異なる」なんてよくわからん解説もあった


漢字もしっかりとおぼえていないそうだし胸襟ではイマドキの子に意味が通じないのかもしれない



「そうだ、裸の気持ちでお互いの心をぶつけ合いたい」


「はぁっ!?~~~っ!?」


「なに、やましいことがなければ大丈夫だ、純粋な気持ちで答えてもらいたい」



壁に追い込んで逃げられないようにする


こんなチャンスはもう二度と来ない



「なぜ逃げる!??」


「だれかっ!!不審者だ!!このぉ?!」


「ふんぐっ?!!」


「HENTAIっ!!!だれかっ!!」



逃すまいとパーカーをつかむとジッパーが壊れて・・・ビキニの水着が見えた


ほんの一瞬、意味がわからずに居たのだが股間に蹴りを入れられた



すぐに逃げる


浜辺で見た戦士たちが水中では金属の武器を使って訓練していたがあんな武器を持ってこられたら死んでしまう


しかもここはレアナー教、治外法権的な部分がある


傍にあったローブをひっつかんで全速力で逃げた




クソ洋介、女だった・・・・・?







・・・・・・・・・・・・・・・・





「不審者は何処だ!!」

「警備は何をやってる!!?」

「草の根を分けても探し出せ!!」

「つるせ!!」



とっさに入った部屋の外から声が聞こえる


それよりもさっきのはなんだったんだ!?


元杉洋介は、男じゃ、ないのか??!


股間を蹴られ、下腹部に伝わる鈍痛がする


金的なんていつぶりか・・潰れてないよな?


それよりも駄目だ、男同士だと思っていたのに元杉洋介は女だった?ほわい?!





・・・・・やばいな





この巨大宗教の秘密を知ってしまった?


廊下で「吊るせ」という言葉があったが 殺されかねない



「あの、どうかしましたか?」



声をかけてきた青年、これまでに居たレアナー教のワッペンを付けていた連中と違って作業着で、雑巾とマスクをしている


掃除中か・・・ここは



「あ、なにか手伝えることはないですか?」


「ありがとうございます、なら手伝ってもらってもいいですか?」


「はい」


「その服だとあれなのでこの服を使ってください」


「わかりました」



あれ?ほうきとちりとりの横に、そんな服やサンダル、置いてあったのか?


元々掃除で人が来る予定だったのかもしれないな


私も服と一緒にあった手ぬぐいで口元を隠して掃除を手伝う


ここは、美術館のように壁に沿って神様らしき像が並べられている



「あれ?いつもならうるさいのに・・?まぁ静かでいいけど」



彼の手伝いをする


床を掃き終わるときれいな雑巾で像を磨いていく


ちらりと奥まで見ても出口はない


できれば生きて帰りたい・・・・・・



真面目に掃除しているこの青年も事を知ったら怒り出すのだろうか?


誠実そうな男性、だけど筋肉質で着衣の上からでもよく鍛えられていることがよくわかる


像に向かって綺麗にしますよーとつぶやいてから綺麗にしているし信心深いのかもしれない



「君は聖下について知ってる?」


「え?」



話をもっと軽いものから行くべきだっただろうか?


ここの人間の空気から普通の質問だと思う



「人となりというか、女性関係と言うか」


「意味がよくわからないです」



漠然としすぎたか?



「そうだね、えっと、そうだな・・・婚約しているっていう3人との関係と親との関係について教えてくれるかな?」


「なんでです?」


「知りたいからかな?ほら、外では12万人と結婚したとか、男と結婚したとかおじいさんと結婚とか、荒唐無稽な話かもしれないけど吾郷首相との付き合いもあるなんて話も聞くぐらいだ」


「あー・・・・まず3人との関係ですか、お、お互いを愛し合ってると思いますよ?」



少し照れたような青年、こういった会話に慣れていないのかな?


だが無言になられたり、出ていかれなくてよかった



「例えば?」


「お互いの良いところも悪いところも受け入れあって、それで一緒にいようとしてる・・・ところとか?」



とても大切なことだ


聞いた女性関係からもっとオラオラ系で「俺様についてこい」という強引さがあってもおかしくはなかった



「なるほど、大切なことだね」


「親とは、あまりうまくいってませんね」


「というと?」



大事なことだ


人間性と言うのは家族や親友、伴侶との付き合いで本性が現れることがある


体面の良い男であっても家で伴侶を殴るようなやつはいる


素の人間性は家庭でこそ見れる・・・こともある



「お父さんとお母さんとの、なんだろ?距離感がうまくいってないです」


「そういうこともあるよね」



うん、よくあることだ


私もうまく行っていない


私の仕事が良くないのかもしれないし、立派な父親とはいえない



まだ話していたいが・・トイレと断ってここから出ていった


掃除が終わってしまえばこの服を返せと言われかねないし今のうちに一度部屋の外がどうなっているのか確認したい


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