第394話 ロクタクロース・プレゼント


「じゃあ六太任せたよ」


「ウッス!」



クリスマス、一生縁のないものだと思ってた


レアナー教に居着いてから暴力はしなくても良い生活になった


・・・今も昔も結局は流されるままに仕事をこなしている



身長195センチ、筋肉質、あだ名は昔からだいたいゴリラ



ただそれだけでチンピラには絡まれるし自分から仕掛けたこともないのにいつの間にか一端の悪で・・・レッテルを貼られてまともに就職もできずにヤクザ入りした


喧嘩を売られて、ただ払っただけなのに骨折させてしまった


警察にとっ捕まって、名前が上がって、また不良共が力試しに来る


アイドルが好きで、ただそれだけは続けてきたけど後はテキトーな人生


徳田の親父は尊敬できたしついていこうって決めたが、色々あってがレアナー教にいる


力仕事もするが慣れない子供の扱いも任されている



「六太兄ぃ!これで最後だよ!」


「おぉ」



神田の長男坊の光太、物怖じしない腕白坊主


こいつとは安いボロアパートで出会った


住んでいるアパートが一緒で・・たしか腹をすかせてたとこに菓子をやった


甘いものは苦手だし親父にもらった羊羹がポケットに入ってたから邪魔くさくて渡した



「うめー!こんなに美味いもの食ったことねぇよ!!」



だけど小さな羊羹なのに、すぐに食べるのをやめた


個包装の、親指サイズのミニ羊羹、子供とは言え2口もあれば食べきれるはずだ



「どうした?」



もう後一口で食べれるだろうに、食べずに固まってしまった


味の好みか?



「ねー・・姉と妹にも食べさせたいなって」



この兄弟、普段からいいものを食わせてもらってないんじゃないか?


似たような服ばかり着てるし、こんなオンボロアパートに5人で暮らしてるっぽいしなぁ・・貧乏は辛いよな



「じゃあまだあるから三人で食え、全部持ってけ」


「あ、ありがとう!わわ、こんなに持ちきれないよ!!?」


「遠慮すんな!」



めちゃくちゃ喜んでたのは覚えてる


ポケットの底にあったいつもらったかわからない飴やかりんとうもあったが全部やった






音も聞こえるボロアパート、隣の部屋ぐらいならすげぇ音も聞こえるが少し離れた光太の部屋から声が聞こえて、光太のクソ親にムカついて助けて・・・それまでよりも懐かれた


一緒に生活していて光太も妹の莉子も猫みたいにくっついてくる


寝てたら乗っかってる時がある


あんなに怖い思いをしてきっと不安なんだろう


俺みたいに人間が出来てない輩と一緒にいるのはよくないと思うんだけどな


アパートに荷物を取りに行くのに光太を俺の部屋に上げたことがあるんだがマイエンジェル永遠のセンター綾野ちゃんのことを知られた



綾野ちゃんは最高のアイドルだ



光太にもブロマイドをあげて布教しようとしたが反応は良くなかった



「じゃあその綾野さんは六太兄ぃの彼女じゃないの?」


「違う、アイドルだ」


「ふーん」



まだ子供だしアイドルというもの自体わかってはいないのかもしれない


俺の彼女だと思った?そんなおこがましい


痩せてガリガリだった3人がビルでの生活で少しふっくらしてきた


こんな俺でも人の役に立てるんだと、これまで命よりも大切だったアイドルグッズを全部手放して3人の養育費に当てた


俺にとってはお宝だったが売りに行くと二束三文だった


俺がビルに連れてきて警察沙汰まで起こしたんだ、3人の養育には全く足りねぇが不思議なほど惜しくはなかった



クリスマスのイベントが始まったが既婚の神官や信徒たちは未婚の人間をサポートするとかいう出会い大歓迎のイベントっぽいことをしている





俺、未婚なのに参加できない




イベントの仕事があった




ダイナマイトで爆破してしまえ





「わー!おじさんありがとー!」


「これもらってもいいの?ほんと?ほんと??」


「おじちゃんおっきー!!」



ダイナマイトの場所まで頭によぎったが子どもたちの笑顔もこれはこれで癒される


真っ赤なサンタの格好で、そこそこ近くの孤児院に来た


勿論プレゼントを配る側である


レアナー教でも孤児や家出少年を引き取るようにしているがまだ違法だ


外でこういう活動もしていますってアピールには良いらしい



俺は馬鹿だから良くはわからん



だけど子供が喜んでいるんだから良いんじゃねぇか?


送るものは子供用の服や勉強になる本、そして食い物


金のほうが便利だろうが、そういうものはマージン抜かれるかもしれねぇしな



「びぃええええええええ」


「大丈夫?六太兄ぃはおっきいけど優しいから大丈夫だよ?」


「うぅ、ほんと?」



光太は将来いいホストになれそうだ


俺一人ならもっとビビられているだろう


仕事が終わると車には待っている人がいた



「ろ、六太さん」


「うん?」



光太の姉、彩香だ


心配になるほど軽くて、痩せていた


クソ親にボコボコにされた光太を運ぶのに叩かれて動かなくなっていた彩香も莉子も一緒に担いでビルに駆け込んだんだが、3人まとめても軽すぎて驚いた


恩に感じているのか、光太が俺の周りにいるのが心配なのか、彩香はよく俺のことを見てくる



「あの、その、これ!これどうぞ!」


「おう、ありがとな」



人からプレゼントをもらうなんてなかなかあるもんじゃない


チビ達からの贈り物はやっぱ嬉しいなぁ・・・



「だめだ、六太兄ぃに通じてない」

「どうしようか?」

「任せて」



なにやら小声で光太達が話している


プレゼントを貰ったのをもっと大喜びした方が良かったか?



「六太兄ぃ、六太兄ぃ」


「なんだ?」


「この表紙見て」



これは先々週の週刊誌で綾野ちゃんが表紙のやつだ


冬コーデとか好きなものとかが載ってる、意外と家庭的でお味噌汁とかが好きなんだよな



「綾野ちゃんだな」


「彩香ねぇ見て、見比べて?」


「ん・・・?んん?え、あ?ええ???!!」



そっくりだ



髪はボサついて、唇はわれ、鼻血が出て頬が殴られて膨らんだ痩せた子だと思ってた


なのに綾野ちゃんそっくり、いや、それ以上に可愛い女の子がそこにいた



「六太さん?」


「・・・・・・・綺麗だ」


「あ、ありがとうございます!」



痛々しくて、傷があるのを見るとちっこくても女だし傷つくかと思って見ないようにしていた


ぷるんとした唇、顔も似てるが服装は雑誌そのまま、何度も見比べてしまう


これは夢か?



「六太さん、結婚を前提に付き合ってください」


「・・・・・・・・・・・・・おう」


「よかった!嬉しいです!!」


「やったね、ねぇさん!これで六太兄ぃさん本物の兄ぃさんだ!!」


「お、おう」



ちょっと頭は回らないけど付き合ってくれって・・まぁズボラらな俺のことを見りゃすぐに諦めるだろ・・・?


グイグイと近づいてくる彩香


やめろいい香りがする



「私、彼女として頑張ります!」



子供の・・・子供の・・・・・言ってることだ、本気にしてはいけない


ゴリラ顔のおっさんの俺が子供の言うことを本気にしては・・・・・・



「あ、私18歳なんで!もう子供じゃないし結婚できますよ!!」


「じゃあこのまま結婚すれば?」


「気が早いわよ」


「でも六太兄ぃもいいよね?」


「・・・・・おう」



そのまま役所で婚姻届をもらって帰った



今、俺サンタなのにプレゼントなのか?



いつの間にか肩に乗ってる光太と腕にくっついてる彩香、出迎えてくれる莉子、ニヤついてるレアナー様



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?

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