第375話 グレた神官


城に帰ってこいと言われても、帰ることが出来なかった



―――・・あの場所が俺をまともにしてくれた



眉毛もないし、見かけも強面、何もしなくてもイライラしていてすれ違いそうになっただけで相手をボコボコにしていた


ちょっと、いや、かなり無茶苦茶していた



喧嘩もしたしカツアゲもした


暴走族になって意味もなく祭りを荒らしてみたりと、かなりの屑だったと思う


生きる道なんざ刑務所を往復かヤクザか生活保護、それかタコ部屋で一生使われて終わり、そんなところだっただろう


オヤジに拾われ、まぁイライラしながらもやっとまともな生活が送れるようになった


ムカつくことはムカつくし、礼儀もなってないとよく言われたが茂木の兄貴には何度もボコボコにされた


ただ、礼儀知らずでも許されたのはカチコミは絶対に先頭を譲らなかったしムカつきはしても仲間は見捨てなかった


拾ってくれたオヤジが見る間に病気で弱り、昔を思い出した



俺の病気で家族が宗教にドはまりして一家離散した、あの頃を



どんなに抵抗しても無駄だった


父親は俺の治療費を払うのに働きすぎて事故を起こしてもうすぐ死んでしまう


母親宗教にハマって目がうつろになって狂って戻れなかった


両親が生きてるのか死んでるのか居なくなって、なんとか俺は治療の甲斐があって生きられはしたが親戚をたらい回しになった


母親は宗教で借金を作っていたとかで親戚の家に来て、俺は厄介者、捨てられた



大人になっても、宗教ぐるいはムカついて仕方ない



布教してる駅前のカスどもは路地にまで連れて行ってボコボコにした


組に迷惑がかかるからとカシラにボコボコにされてもう止めるようにしていたのに



そこにクソムカつく詐欺師が来た



子供で宗教狂い、ヤクザの本邸にいるってのに恐怖もかけらもない


完全に宗教に染まったガキ


オヤジの病気で金を詐欺りに来たゴミクズ、茂木の兄貴の目をさますためにも追い払ってやろうと思ったら目にも止まらない速さでボコボコにされた


魔法かなんだか頭が締まるようになって、もう一度チャンスが有ったから今度は仕留めるためにもドスで突っ込んだ


全体重をかけたドス、手で掴まれて、ドスはプラスチックみたいにポキポキ折られた


2度完璧にボコボコにされて信徒になったわけだが・・・




「トイレはどこでしょうか?」


「このすぐ奥です」


「ありがとうね」




神官になって、驚いた


普段なら怒鳴り散らすかぶん殴っていたと思う


なのに人からお礼を言われて、怒りが湧いてこない


レアナー教に入ったからか頭にいれられたクソ痛い入れ墨のせいか、いつの間にか何にでもイライラする事はなくなり、まともに人と接することが出来るようになった


自分でもポリ公にもクソ陸斗にも何度も注意されていたが「宗教なんざクソくらえ」とずっと思っていたのに、常にどこでもイライラして手を出していたのに


自分でも心のあり方に驚いた


聖下の行動にも驚くことばかりだ


剣で殺されそうになったり、ドスでぶっ刺そうとしたり、クソデカイカニを出したり・・・色々あったが感謝している


見知らぬ、死んだってどうとも思わないはずの人間にお礼を言われて心が豊かになるなんて生まれて初めてだった


こんな場所をくれて、恩のあるオヤジも助けてもらって



本当に幸せだった





幸せが壊れるのはあっという間だった




安藤とかいうクソが攻め込んできやがった


絶対に許せなかった


かつての仲間に頭を下げ、戦った



全力でそれまでレアナー教を叩いてきた奴らを襲撃した


彼らの処分は聖下とレアナー様が決めるべきだしレアナー城に連れて帰った



聖下が帰ってきたと聞いて驚いた



もう聖下は殺されてる可能性もあったし弔い合戦の気持ちもあったからだ


クソ陸斗にも説得されたが戻るツラがなかった


さんざんやらかしてきたし戻っても迷惑だとわかる


せめてまだ捕まってないクソどもを城に連れて行ってレアナー教の役に立とうと思っていたのに



「侵入者だ!やっちまヘカシ?!!」

「ぐがっ??!」

「おぶ!?」


「はっはー!殴り足りねぇぞっ!!」



黒い肌のエルフさんを伴って、俺の希望が帰ってきた



「おかえりなさい」


「いや、帰るのはここからだよ」


「そういう意味じゃねぇっす」



さっきまで帰る気はなかったのにな


姿は全く聖下じゃないのに、対峙してこれが聖下だと一瞬でわかって、戻れないとか考えていた意地はどこかに消えてしまった

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