第327話 『愛』が何かわからない


「次の議題ですが、聖下の領地についてです」



いつもと変わらずつまらない会議


だけど楽しみを待っている今、この時間ですら心地よい



「聖王!もうこれ以上はおやめくださいませ!」


「そうです!聖下に無体を働くなど・・神々も問題視しております!」


「黙れ黙れ!我等が王が間違っているわけ無いでしょう!!」


「そうだ!」


「うるせぇ!レアナー神はこの件については、こほん<アーアーキコエナーイ>といってますし!神々326神からの抗議が来ています!このままでは腐れザウスキアが勇者領地を「声真似があってないぞ!!不敬すぎる」そこじゃねぇ!!」


「聖王がそうしてるんだから~~~~~」


「~~~~!~~~~~~~!~~」


「~~  ~~~~~   ・・・・・・」




相変わらずピーピーと煩い



これさえ上手くいけばこの国のためになるというのに・・・いやまぁ国のことなんて知ったこっちゃないけどな、だな、うん


甘い時を過ごしたいのに、なかなかに勇者殿は頑固です


待つ時間も楽しみの1つだがこうも焦らされるとは



あぁ早く従順な貴方を見てみたい



憎しみに染まる顔も、照れて赤くなったその顔も見てみたい


貴方のすべてが見てみたい



涎が出そうだ



大丈夫、表の私はこの程度で表情を変えないわ



流石だね、流石は僕だ



「どうなさるつもりか?」



エッサイ神官長、騒ぐ神官たちの中でどうやってか私の意識にまですっと届く声を出せる変人


ここ最近は反抗的だ



「私の行動は愛ゆえにです、褒められた手段ではありませんがレアナー様も黙認してくださっています・・・なにか問題が?」


「問題だらけです、聖下の人気に比例して貴女の支持は減っています、各国から聖下の領地が結界外にある点や彼らの生み出す莫大な富によって聖下にも彼らにも引き抜きが行われております、ザウスキアなどは勇者召喚の功を国際連合軍の議題に上げてレアナー教国から聖下の領地を独立させようとしています、その後聖下ごとザウスキアに編入させる気でいるようで、他にも「そう、でもこのまま続行しますね」


「だめです」


「じゃあ決闘です」


「・・・応じましょう」



ボコボコにしてやった


ちょこざいにも私を倒そうとしてきたがその程度では足りんのだよ、小僧が


まぁこうやって歯向かう部下も一つの楽しみである


あぁもっと責め立ててくれないかな?


でもここ100年直接逆らってくるのはエッサイぐらいしかいない


他の奴らは一度仕置をすれば静かになってしまう



そもそも人間や感情がわからない


聖王は聖王として生まれ、ずっとこの国にいる


母神は私を創り出してすぐに神の座から降ろされて名前を付けることも出来なかった



産まれた時から肉体はこの姿ですが人間という生命体と姿は変わらなくても人間が理解できない



楽しさが、悲しさが感情がわからない



私はそもそも統治のために作られたものだ


人に似せて作られた、何十何百もの人格を混ぜ合わせて作られたのが私


最大多数の最低限以上の幸福を求められるために作られた聖王という装置


それと来たる未来において世界を救う一助となるための小さな歯車の1つ



ただ自己を不幸と嘆くこともないしやることはやらないといけない



作られた理由であるのならやらなければいけない


すべてが足り得ないこの世界では切り捨てる人間は多い



「貴女に慈悲はないのか!?」


「無い」



刑の執行は俺が執り行う、慈悲を与えるべき対象に賊は含まれない



彼と出会ってから色褪せていた日常が明るくなった



彼は他国で召喚された勇者


幼く、あどけなく、滑らかで、純粋


あぁ、彼のような人間を守るために私は創造された


叩けば死んでしまうそれを可能な限り手助けする


初めて見た瞬間に私は壊れ始めたのかもしれない



ただ、行動はできなかった



教官をつけ、激しく打ちすえられる彼を見て目が離せなかった


私も同じ武器で打たれてみたりしてみる、なるほど、痛い


彼のような人間の痛みを解消するために私は生まれたのではないか?


しかし彼は勇者であって最低限の人間ではない


ずっと考え続けて、僕たちが壊れていくのがわかる


彼の身体は旅でどんどん俺たちに近くなった



くびったけ、でしたかしら?もう彼がいなければ私は私をたもてない



でも最大多数の悪となる今代の魔王を倒さないと彼の勇者の役割は終わらない



今は勇者が来てくれて私たちは変わった


祈って、食べて、会議して、勇者を見に行って、祈って、治癒して、結界を調べ、触媒を作り、会議して、楽しんで、寝る



世界が輝いて、色付いて見える



こんなにも満ち足りた生活は生まれて初めてだ


嬉しくて愉快で楽しい、心が弾んでウキウキする


私を、私達を1人の個人と見てくれたのはあの人だけ



キュンと来た、ドキッとした、最高だった、じゅてーむ、なめたい



旅の最中も舞い上がって本気で好きになって、限界まで正直に真摯に愛を伝えた


伝えても伝えても伝えきれなかった



壁から、天井から、地面から、貴方の記憶に私が残るように



貴方を食べてみたい、貴方を舐りたい、貴方を痛めつけたい、貴方に痛めつけられたい、血の流すところを見たい、腕が外れるところを、汗を流すところを、道端に倒れている死体に嘆く貴方をもっと見てみたい


求めて求めて、もう彼なしでは生きていけない



そんな彼が異世界に帰ってしまったのは悲しかった

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