第298話 記憶の世界『安心できる場所』


寝ている体勢の洋介そっくりのイミテーション



偽物とわかると一発いれたくなった



何だよあの豚骨らーめんの問題は・・・握った拳をおろす


この偽物の洋介を叩いて何がおきるかわからないしね



早くこのだらしなく寝ている顔の、本物の洋介を見たいな




「スゥーハー・・」




深呼吸して周りを見回す



ここは私達の母校だ



私は洋介の隣に住んでいたし校区は同じで当然同じ学校だった


ここからだと20分ぐらいで家に帰れる


洋介を何処にどうするかが問題


教室の机に寝かせるのか?ベッドに寝かせれば良いのか?それともキャンプ場に行けば良いのか?


だけどこの洋介を見てピンときた



「多分わかったからついてきて」


「母上、私が先行しますので指示を下さい」


「わかった」



この洋介は地面に倒れ伏すように寝ていたがこのうつ伏せはよく見た


通学路を帰る


途中にある車、使えないかな?


ガラスがなんか白いしなんか置物のような車


これは「車っぽく見えるなにか」なんだろうね


窓から見るとハンドルもないし



疲れているっぽいミーキュちゃんと奈美はルールに乗ってもらっている


関羽は前、他の隊員は私達を中心に丸く囲んで進む


私はだらんとした洋介人形を小脇に抱く、3キロぐらいかな?すごく軽い


大きさは洋介なのに、心音も体温もない



少しゾッとする



もう本物の洋介が死んでしまっていたら?


生きている保証なんて何処にもない・・・!


胸は痛むけど生きてるって信じて前に進むのだ



・・・他のことを考えよう



この空間には光る玉も鳥も幽霊も、鎧騎士もついては来れないようだ


車も通行人もいない


たまに通行人は居るけどマネキンのように動かない、とても静かな住宅街



「ついた!」


「これ遥の家だよね?」


「そうだね」



多分、隣の洋介の家ではない


鍵の閉まっていないドアを開けて私の家に入る



「おじゃましまーす」


「どうぞー」



土足で入るのは少し中にはキッチンに立ったままの母さん、リビングでテレビを見ている父さん


母さんは後ろ姿だからわからないけど父さんはちょっと若いな


関羽やミーキュ、隊員たちは家の中をとても物珍しげ見ている


2人のいる空間を通り過ぎて和室の襖を開けて洋介を寝かし、座布団と掛け布団をかける



「敷布団は?」


「この子、畳信者だから」



信者って言葉は悪かったかな?


洋介は半袖のパジャマ、よくある夏の格好だ


街の人の格好もそうだったけどこの世界はきっと夏


洋介はよく、冬はこたつで、夏はうちの畳で寝ていた


だからここだと思った



・・・・それにしてもめちゃくちゃ狭い



ほんの数畳の和室スペース、そこに全員が集まって寝かした洋介を取り囲んで部屋に入っている


異世界から帰ってきた洋介がカラフルに荒らした痕跡もない、綺麗な和室


私も見たけどどうやったらあんなに意味不明に発光する荒らし方が出来たんだろうか?



心臓は動いていない洋介の人形


だけど血色は悪くない


生きているようにしか、いつもの洋介にしか見えない


しばらく見つめていると景色が全て煙のように消え去ってまたダンジョンに戻った



「クリアした、のかな?」


「そうみたいだね」



後ろにあいた門があり、その先には鎧騎士達が待機していた


危険かもってゆっくり歩いてたし40分ぐらいは経っていて、距離もあったと思うんだけど前の門までは数歩の距離だ



すぐに次の問い掛けと問題があった



「この問題は・・・ニホン語、ですなぁ」


「-ぼくが日本にいれたきっかけ-って書いてるね」


「進もう」



扉を開けるとそこは修羅場だった


見たことのないお屋敷、日本建築の和室


どう見たって行儀の良い人間じゃない危険な香りのする人達が周りにいる



私が知らない洋介だ



洋介が、スキンヘッドで怖い人を霞むようなスピードでボコボコにした


周りのチンピラらしき人間もボコった




私では出来ない動きだ



洋介は動けない人の前で、大きな剣を取り出して




「よっと」




人を殺そうとしていた

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