第299話 洋介の記憶『人で在れた理由』
「よっと」
私にはわかる
洋介は嘘をつく時の癖がある、だから嘘自体が出てこないようにしている
洋介は何を考えているのか、わかりやすい
普通に楽しくて笑い、悲しんで泣き、驚いて逃げ、私が山や川に連れて行こうとすると少し嫌そうな顔をしてすぐに諦める
父さん達やおじさん達はわからないと言うけど私には簡単、とてもわかりやすいのだ
そんな洋介が、蛇口をひねれば水が出るのが当たり前のように
人を殺そうとしている
なんの気構えもしていないのが表情でわかる
むしろほんの僅かに前に出て、剣の振りやすい位置に移動した
倒れて動けない、もう何も出来ない、無抵抗な人であるのに
平然と殺そうとしていた
「駄目です!」
「始末だよ、賊は殺さないと」
「殺しちゃだめです!」
奈美が、洋介の前に飛び出した
武器を持つ洋介の前で手を広げている
私も飛び出そうと思ったけど奈美は落ち着いて、こちらに手の平を向けていた
私に任せて
そう手で制してきている
ここには、この記憶の中には奈美もいたのか?
「・・・駄目です!人を殺したらおまわりさんに捕まって、裁判にかけられるかも知れません、そうなったら私の親友は治療できないかも知れません」
「それは・・・」
「待ってくだせぇ!!」
徳田さんによく似た痩せた人と・・よくビルの近くにいるヤクザの偉い人が入ってきた
「徳田堅といいます、ケチなヤクザをしております」
「あっしらの子分共が大変な無礼を働いたようで、けふっゴホッ!」
「親父!」
「引っ込んでろ」
徳田さんだ
げっそりしているし顔色が悪く、点滴をしている
よく見たら止めを刺されそうになっている人は竹村さんだ
スキンヘッドに入れ墨に悪そうな目つき・・今はすごく優しそうな人に見えるのに前はこんなのだったのか!?
一般の人に「レアナー教の一番偉い人」とたまに見られていたけど前はこんないかついにーちゃんだったの!!!??
「・・襲いかかってきたから打ち据えた、賊であるなら始末するべきだ・・・と思ってたんだけどちょっと迷ってる」
「というと?」
「ヤクザってのが暴力団で、反社会団体ってのは今知った、賊は殺すべきだと思う、だけど、このおねーさんに止められて迷ってる、女神様も止めないし間違ってはいないはず」
<信徒にするはずだったのに、ちょっとだけもったいない気がするですぅ>
「女神様はもったいないっていってる、ちょっとだけ」
「あっしに免じて許してもらえませんかね?何ならこの首持っていってもらっても構わねぇ」
「いや、部下を御しれなかった俺の落ち度です!やるなら俺を!!」
「黙ってろ!!」
「だけど、親父・・」
レアナー様もいる
だけどもったいないとしか言っていないのならレアナー様にとっても、異世界の常識に染まった洋介も賊を殺すのは普通のことなんだ
・・・・・それを止めたのは、思いとどまらせたのは奈美なんだ
「とにかく、私の友達をみてもらえますか?」
「わかりました」
「ありがとうございます・・・・なんでもします!!」
少し嫉妬しちゃうけどありがたくも思う
奈美がいたから、日本で洋介は道を踏み外さずに思いとどまった
私は洋介が道を踏み外そうとしていたときに、何も出来ず、知りもしなかった
奈美が、洋介を助けて、私はこの時、この場にいなかった
それがどうしても羨ましい
この時この場に私がいれば・・・そう思うけどこんなに勇敢な行動が当時の私にとれたなんて考えられない
むしろ洋介を恐ろしく思っていたかもしれないな
でも多分、これは記憶であって、当時この場にいた奈美はきっと怖い思いをしただろう
よくこんなに毅然と出来たな
「じゃあこの人たちの取りまとめ役お願いします」
「はい」
殺さずに終わり、なんだか記憶の薄れていく隅で徳田さんが何人かブンブン振り回してる
洋介達は屋敷から歩いてでていったのでついていく
「そのお友達はどこにいて、どんな病気なんですか?黒葉さん?くろばさーん」
「・・・・・」
「お友だちさんはどこにいてどんな病気なんですか?」
「病院名はとうせ・・・じゃない、二度しか行ってなくて忘れました、遥って言います、春日井遥、骨肉腫です」
私の名前が出てきた
前を歩く洋介が立ち止まって奈美が少しぶつかった
奈美は立ち止まったのに一歩進んで身体をぶつけた気がする
しかも胸から・・・・これも当時の出来事だから再現しようとしているのだろうか?
「はるねーちゃんの友達?」
「そうです、じゃない、はるねーちゃんって誰ですか?」
「髪が黒くておっぱいがおっきくて背が高い美人なねーちゃん、ガンのコツニクなんとかだった」
そういうイメージなのか私
背は高いって言っても平均よりも高いだけで・・・いや洋介よりは高いからそうなのか?
美人なねーちゃんって言われて気恥ずかしい
「そうです・・・・・・・・・・・・・・・あ、どんな関係ですか?」
「婚約者、もう治したよ」
「えーーー」
どうやらこれが応えのようだ
またダンジョンに、扉の先に戻ってこれた
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