第285話 思ってたダンジョンじゃない


ダンジョンに入ってすぐに遥がゴブリンをバラバラにした


やはり気持ちのいいものではない


なにせ先程まで生きていたんだ


生き物で、しかも人の形で、知性があった



だけど殺さないといけない



敵だから、害獣だから、魔物だから


理屈では納得しているけど、日本で培ってきた道徳心では納得しにくい部分はある


殺さないといけない相手なのに「もしかしたら殺さなくても解決できたんじゃないか?」って考えてしまう



遥が戦ったのは一度だけで後は関羽さんが無双した


鎧袖一触とでも言うべきかあっさり殺していく、それも荷車が通る道の真ん中を血で汚さないように配慮してまでしてくれているようだ



「さすがヴァン様だ」

「だな」

「無駄口叩かずに後ろも警戒しろ」

「はい」



私が居るのは中央の少し後ろ、荷車に乗っている


治癒の魔法を使える私は守られる対象だ


わかってはいるけど私は遥みたいに前に出て戦えるわけじゃない、戦い方はあっても邪魔してはいけないから大人しくしておく


前に出ている人たちが止まって、荷車に関羽さんが武器を置きに来た



「この先には何があるんですか?」


「危険はないのですが目が眩みますので少々お待ちいただきたい」



・・・?


関羽さんは素手になって門を開けて進んだ


門が開くと隙間からフラッシュライトのように眩しい光が差し込んできた


関羽さんはあまり開かずにするりと中にはいってしまった



「布と水用意しろ、わかってるな?」

「はい」


「ねぇ、あの先は何があるの?」


「あの先は・・お父様の力で生まれた眩しいスライムがいてですね、目も開けられないんですよ」


「スライムって触れても大丈夫なの?」


「ここのスライムは無害です、むしろ連れて帰りたいぐらいなんですが眩しすぎて下手したら道を外れちまうし、なにより同士討ちが怖いんです」



スライム、どんなのかはわからないけどもしかしてどうにかなる?かも?



「なるほど・・遥ー!」


「奈美!どうしたの!?」


「関羽さん呼び戻してー!」


「わかったー!!」



すぐに関羽さんが戻ってきて遥も来てくれた


入ってすぐ呼び戻したっていうのに関羽さんは嫌な顔ひとつしない



「どうかなさいましたか?」


「え、えっと、サングラスとこれ使えるんじゃないですかね?」


「さんぐらす?とは?」


「なるほどね、私のサングラス使えるかな?」



私と遥の持っていた​サングラスは合わせて8つ


私の持っているのは変装用が2つで遥はランニングに使うサングラスを3つと変装用が2つ、それとクソダサいギャグ用のサングラスを持っていた


街を歩くのにサングラスは結構便利だ、個人の特定がパッと見わからなくなるから



「中で使えるんじゃないかな?」


「これは・・眼鏡ですがこんなに黒くて前が見えるのですか?」


「眩しい場所で使うためのレンズなんです、でもレンズの品質では使えないかも知れません」


「ほほう、試してみますから少々お待ちを」



あっ


クソダサい尖った鼻つきパーティーサングラスをかけて関羽さんいってしまった



「ねぇ遥、なんであんなの持ってたの?」


「あれは栄介おじさんのよ、収納袋持ってる私に預けてたのよ」


「遥の趣味じゃなかったんだね」


「・・・・・」


「いひゃいいひゃい!」



ほっぺをつねられてしまった


うぅ、考えていることが漏れちゃうこの口が憎い



「これは微妙でした、次のものをお借りできますか!」


「ぶほっ!くくくく」



帰ってきた関羽さんの顔にクソださサングラスが装備されていてすごく面白かった


至近距離で見てしまった遥は笑ってしまったし隊員さん達も何人か笑ってる



「こ、これも使えるかもしれないんでスライムの捕獲に使えるか試してみてください」


「これはどう使うのですかな?」


「まずはサングラス外して、それ人を笑わせるためのサングラスだからね、遥の腹筋が鍛えられちゃう」


「おぉ、これは失礼した」



黒いゴミ袋は45リットルのものが20枚ぐらいと90リットルのものが7枚ある


レアナービルから出すゴミは黒いビニール袋に包んで、更に市のゴミ袋に入れて捨てている


でも捨てるのは形だけで市のゴミ収集車に回収されることは絶対にない、100%誰かに持ち去られる


何でも調べようとする人が居るので漂白剤や二液性の接着剤やペンキを混ぜたりして一緒に捨てる


下着なんかは集めて燃やしているのだけど、まさかこんなものがこんな場所で使えるかもなんてね


一枚広げて関羽さんに渡す



「これでスライム捕まえられるかも?」


「おぉ・・試して見る価値はありそうですな」



どうやらサングラスは遥の持っていた偏光レンズのものなら使えるらしい


遥の3つのサングラスはうち1つがずっとランニングで使っていたもので残り2つは最近買った2個セットのものだそうだ


私のサングラスも1つは使えるようで隊員さんに渡した



中でスライムを回収しているようでカシャカシャと音を立ててビニール袋に入ったスライムを持ってきてくれる、それをまた袋詰にして縛っていく


発光するスライムは神聖属性をたっぷり含んでいて使い所は多いそうだ


スライムが居なくなって眩しさは激減して中に入ると中には木の枝やなにかの結晶が無造作に散らばっていた



「神聖属性のトレントの枝っ!?」

「すげぇ!国宝級だぞ!!?」

「こっちの魔結晶も使えそうだな!!」

「スライムが袋から出ないように気をつけろ!眩しいぞ!!」

「すいません!」



なんだか潮干狩りの収拾と言わんばかりに拾っていく隊員たち、ちょっと楽しそうである


緊張して無駄に疲れた



「はぁ」


「母上、お疲れでしょうか?」


「だ、大丈夫です」


「無理はしないでください、そこの出っ張った床を踏むといいでしょう」



隊員の人が順番に踏んでいるので私も列に並ぶ、先にどうぞと言われるが後で良いと断って最後に踏んでみる


あ、これ治癒魔法だ


すっと疲れが抜けていく



「父上の魔力で出来た迷宮ゆえ特殊な作りとなっておりまして、このように人を害するどころか人の益となるものも多いのです」



周りを見てみると父親が攫われて助けに行くという悲壮感はない


むしろ少し楽しそうである



「幸運うさぎの毛が落ちてたぞー」

「素材は丁寧に採取しろ!」

「また魔力の泉ができてる!マッピングしろ!」

「汲んで行くぞ!」

「まだ前に汲んだ分が余ってる!」

「この間落としたナイフに神聖属性が宿ってる!!?」

「温泉だ!温泉が湧いてるぞ!!」

「宝箱だ・・またポーションだ!ぎっしり詰まってるぞ!!」



なんだろう、このダンジョン


思ってたのと大分違うな

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