第281話 異世界の「ご飯」


すぐにでもダンジョンに戻るのだと思ったのだけどそうではなかった


ダンジョンから戻ってきた人の休憩やヨーコの探索、洋介の救出に手伝ってもらっている仲間の人への連絡、それに武器の調整など準備する必要があるそうだ



ちょうどよかった



ゴブリンを殺して、少し時間が欲しかったし布団でゆっくり休みたかった


大きめのベッドだったし、ルールを寝かせてお腹にダイブして撫で回す



「ルルルルル」


「よーしよし」



ほんわりと温かい


体温がじわりと心地よい


今日は特にありがたく思う


目をつぶってゴブリンとの戦闘を思い出す



襲いかかってきたゴブリンをハルバードの一振りで殺した



踏み込み、握り、髪の感触、重心移動、ゴブリンの好戦的な表情、切り裂いた感触、嫌な血の匂い・・隅から隅まで思い浮かんでしまう


最後にとどめを刺せなかったことまで脳裏に浮かみ、それがこちらの常識なんだと自分を納得させる



こういう世界で洋介は生きてきたんだ



いつの間にか眠ってしまった


少し嫌な夢を見た気もしたがスッキリした


顔を上げるとルールは少し舌を出してマヌケな顔をしていた



「おはよ」


「ミ”ャ”ァゴ・・ルルルル」



変なあくびが出たみたいだけどこすりつけてくるおでこを撫でてやるとすぐご機嫌になった


準備が終わるまで、1日から3日は完全にオフになったのでもう少し寝るかとも思ったけど身支度を済ませて部屋の外に出る



「あの、少しよろしいでしょうか?」



朝一番でその顔はキツイよ


部屋の外でビーツが私を待っていたようだ



「うん」


「本当にすいませんでした、私が不甲斐ないばかりに怖い思いをさせてしまいました」


「ほんとにね、でももういいよ」


「ありがとうございます、それで少しお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」


「うん、なに?」


「実は・・・」





そうして私は奈美とまた広場に集まることになった


私は焚き火の前で鍋の前で火の番をし、奈美は謎の野菜を切って何かを作っている


子どもたちも真剣な顔で作られる料理を見ている


広場には武装した人たちもいたけど甲冑や武器を皆で手入れしていている


初めは訓練をしていたようだけど料理している眼の前では土が入るとラディッシュに怒られてこうなった



焚き火の中でパチパチと弾ける火の粉



こういうのはこの世界も同じなんだな



「あの、お母様」


「なに?」


「蓋を取って中を確認したほうがいいのでは?」


「だめ」



正直上手く行くかはわからない


使ったこともない調理器具に初めて作る量だ、正直失敗する可能性のほうが高いだろう


しかし既に準備されていた量からしてこうするしか無い





「実はお父様からの食材の使い方がよくわからなくて・・・」





そう言われて見に行くと既に用意された野菜と白米と肉



精米された白米は既に洗われていた・・・



米は水に晒すとすぐに吸水するので洗ったものは必ず使わないといけない


米を洗うときも1度目の水と2度目の水ぐらいはすぐに捨てたほうが良いらしい、米は水をすぐに吸うから最初の濁った水はすぐに捨てたほうが良いのだとか


1合に対して水200グラムほど、いつもなら飯盒で炊く


キャンプでは密封するために500mlのペットボトルに米を入れて持っていくことがある


500グラムで3合ほどそれに対して水は600mlぐらいだったと思う



それをキャンプでは飯盒で炊くのだが今回は大鍋で炊いている



鍋も巨大で火力も火の通りもわからない


水の割合と米の割合を伝えて量ってくれたのだけどこれは10キロは炊いているのかな?こんなに大量に炊いたこともないし失敗する可能性もある


準備の米とぎは洋介がうろ覚えで教えていたらしい


作り方は沸騰までは中火から強火、その後は弱火でいい


そして水分は木の棒で蓋を突くと水の感触がわかる・・・はずなんだけど巨大な大鍋だし蓋にはほんの少しだけど隙間もある


飯盒のように蓋がほぼ隙間なくしっかり閉まるものではない


その後はゆっくり蒸すのだけど・・・独特の匂いもサインだ



私は基本的に料理が下手だ、母さんにはよく怒られる


だけどキャンプにはよく行っていたし、これだけは必要があったから覚えたのだ



学校の野外活動で恥をかかないために苦労の末に覚えた、それと川魚のつかみ取りも出来る



私が米を炊くと洋介も驚いた様子で見ていた


ちょっと芯は残っていたが残さず食べていたし胸を張っていいだろう



洗った米を鍋に入れる作業で時間がかかってしまったがもうそろそろいいだろう


隣ですごくいい香りがしているので待ちきれないのだ


隣で奈美が謎の野菜を相手にカレーを作っている


カレールウは結構な量を洋介が持ってきていて余っている


そもそもカレールウは普及していないしこれも使い方がわからなかったらしい


初めはチョコのように齧っていたというから驚きだ


大鍋のフタを開けて、スプーンで大鍋の数カ所をできているか味見する、火の通りでムラがあると食べれない部分もあるかもしれないしね


ほんの少し固めだけど芯まで硬いというわけではないしカレーにはこのぐらいでいいだろう


全体を混ぜて蓋をして蒸らす



「こっちは出来たよー」


「じゃあご飯にしよっか」


「私はご飯余るだろうしおにぎり教えるからカレーよそってもらってていい?」


「うん」



ちょっと奈美の方も心配ではある


だって異世界の野菜だ


見たこともない野菜を使ったカレーって美味しいのか?それもこっちの品種改良もされていない渋みや青臭さの残った野菜で・・・



まぁいいや、近くの子供を何人か呼んでよく手を洗う


味もわかりやすいだろうし具なしの塩のおにぎりでいい



「あちち」


「こうですか?」


「もうちょっと柔らかくね、こんな感じ」



おにぎりは簡単だ


軽く塩を手にまぶして火傷に気をつけて俵型や三角のおにぎりを作る


私は大きな球形の爆弾おにぎりを作るのが得意だ、食べごたえもあっておかずもいれられる


今日はしおおにぎりだから三角形のものを作っていく



いくら私でもおにぎりは失敗することはない


塩と砂糖を間違えなければ・・・塩であってるよね?うん、しょっぱい、あってる



いくつか作って見せてから大皿に盛っていく


出来上がったら熱いまま皿に盛り、水瓶を持った子を引き連れてチラチラとこちらを見ているダンジョンから出てきた人たちに持っていった



「これおにぎり、食べるでしょ?」


「ありがとうございます母上」



武装した集団の中でもひときわ身体の大きく、ヒゲが長くて艶の出ているしっかりした人が前に出て私に向かって母上と言ってきた


慣れないな、うん、慣れない



「えっと、お名前は?」


「関羽と申します」


「関羽、見た目通りだね、私は春日井遥、よろしくお願いします」


「こちらこそ、父上の婚約者にあえて大変光栄です!お前らも挨拶しろっ!」


「「「「はいっ!」」」」



見た目通りの関羽だったけど中味も礼儀正しい


ツッコんだほうが良いのかもしれないが子供の数、12万人でもうお腹いっぱいなのだ


同じ部隊らしい子どもたちとも挨拶をして、手を洗わせておにぎりを食べさせた

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